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歓迎パーティー前日


 一週間後、私は三人を引き連れてクロヴィス様の執務室を訪れると、その机の上には山のように書類が積まれていたのを見て流石に絶句した。

 ユベール殿下の比じゃない。

 クロヴィス様は既に書類とにらめっこ状態で書類から視線を逸らさず私達が来たことに気付いてなさそうなのでそっと声を掛けた。



「クロヴィス様、おはようございます。早速お手伝いをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あぁセス来てくれたか! 悪いが頼む! ったく、帰ってくるなりこんな山の書類を押し付けて! セスが来るから助かったが流石にこれは無理だ。大体何故こんなに溜まるんだよ、可怪しいだろう!」



 流石のクロヴィス様もこれにはうんざりしているようで、私は直ぐに取り掛かるのだけど、後ろの三人どうしようかしら⋯⋯。

 あっ! そうだわ。

 私は一部を自身で、残りを彼等に書類の整理を指示し、私は書類を捌き始めた。

 捌きながらクロヴィス様と内容の確認、処理の確認を行いながら、書類を減らしていく。

 私はお昼前になると、侍従に昼食は簡単に食せるモノをこの執務室に準備するよう指示し、合間に彼等の書類整理を確認を行いつつ、黙々と手を動かす。

 そして昼食を簡単に頂き、また再開する。

 三人には決裁した書類を各部署に届けるように指示をするが最近は大人しくなってきたとはいえいつもの反発はない。

 彼等もこの執務室内の殺伐とした空気に感化されてなのか大人しく動いているので私は私で集中し、時間は早くに過ぎていきあっという間に夕刻となった。

 三人には時間が来たので上がるよう伝えるとやっと解放されたとほっとしたような表情できちんとクロヴィス様と私に挨拶をして帰って行ったところを見ると、これだけ忙しいと彼等も奇怪しくなる前のような態度になるのかと、これからはもっと仕事を振ってみようかしらと明日からの予定を検討していると、クロヴィス様に声を掛けられたので意識をそちらへと向けた。



「セス、あまり無理はするなよ」

「これ位大したことではありません。以前に比べたら⋯⋯」

「確かに彼奴の無能さときたら! セスが解放されて良かったよ」

「ありがとうございます。彼に解放されてこうしてクロヴィス様のお手伝いが出来るのですから、これはご褒美ですわ」

「相変わらずだな。これがご褒美とはね」



 クロヴィス様と一緒にお仕事出来るならご褒美で間違いないのですけど。

 当のクロヴィス様はそう思っていないみたいだけど、私の事をよく知って下さっているので呆れながらも嬉しそうにしている。

 

 

「今日だけで半分以上片付いたから、今日はここまでにしよう。セス、一緒に夕食をどうだ?」

「まぁ! 嬉しいですわ」

「では行こうか」



 クロヴィス様に付いて執務室を後にし、クロヴィス様が普段こちらで使用しているお部屋の中の一室へと来ていた。

 勿論二人きりというわけではなく、私の侍女とクロヴィス様の侍従が側にいるので周囲に何を言われても臆することは無い。

 こうしてクロヴィス様と一緒にお食事を頂くのは一年以上振りで嬉しくて先程まで忙しくしていたのが嘘のように嬉しさでいっぱいだった。



「セスの好きな物を用意させたから沢山食べるといい。こうして二人での食事も久しぶりだな」

「はい。とても久しぶりで嬉しいですわ」



 私達は楽しく話しながら美味しいお食事を頂き、食後のデザートと紅茶を楽しんでいると、クロヴィス様は唐突に話題を変えた。


 

「そうだ、セスにお願いがあるんだが、聞いてくれるか?」

「私に出来る事でしたら何なりと」

「来週から友好国を交えた三国会議が始まるのは知っての通りで、週末に歓迎パーティーが開かれるだろう? 私のパートナーとして出席して欲しいんだ」

「私で、よろしいのですか?」

「セス以外に適任はいない」

「クロヴィス様がそうおっしゃるのなら喜んでお受けしますわ」

「助かる! 既にセスのドレスも注文し公爵邸に届けるよう手配している。当日はそれを着てくるように」

「ありがとうございます」



 クロヴィス様のパートナーなんて!

 緊張するけれど、とっても嬉しく何よりも光栄な事だわ。

 当日は張り切って準備しなくてはいけないわね。

 クロヴィス様の隣に立つのですから、手抜きはダメよ。

 当日の事を考えていると、クロヴィス様は私が何を考えているのか分かったようで、くすくすと笑っていた。

 楽しい夕食会はあっという間で、私はクロヴィス様に挨拶をして帰宅すれば、珍しく先に帰っていたお父様がとても良い笑顔で待ち構えていた。



「遅かったね。何をしていたのかな?」

「ただいま帰りました。お夕食はあちらで済ませるときちんと報告はしておりますわ」

「聞いているよ。それでも帰ってくるのが遅くないか?」

「クロヴィス様と三ヵ国会議のお話をしていたのです」

「それで?」

「前日の歓迎パーティーの件でクロヴィス様からパートナーを頼まれましたでお受け致しました」

「⋯⋯ほぉ」

「いけませんでしたか?」



 お父様の表情が急降下したので、不安になって伺ってみると、眉間を揉み解しながら「いや」と一言。

 良いのか悪いのか判断に困る一言だわ。

 お父様は「はぁ」と溜息をつき、「今日は疲れただろうから早く寝なさい」と私を部屋へ追いやった。

 部屋へ戻った後は、就寝の準備をした後、明日に備えて早く寝ようとするけれど、先程のお父様の様子が気になって仕方がない。

 あれは一体どういう事だったのかしら。

 考えるともやもやするけれど、否は無いのなら大丈夫だと思う。

 相手はクロヴィス様だし、否を言われることは無い筈だし。

 考えても分からないから寝てしまおう!

 私は案外すっと寝られる質なので、もやもやしながらも変わらずにすぅっと眠りについた。


 翌日、午前中はユベール殿下の元へ、昼からはクロヴィス様の元へ行きお手伝いをする。

 あの三人も黙々とこなし、今では最初の頃と比べ物にならないほど良く仕事が出来ていたので、リオット卿をユベール殿下の元へ残し、残りの二人はクロヴィス様の元で働くよう分ける。

 リオット卿はもう大丈夫だと思うが、何かあったらすぐ私に知らせるようセネヴィル卿とブラジリエ卿に遠慮せず言うようにと伝えてある。

 そうして過ごすことあっという間に週末が目前に迫り、来週から始まる会議に向け、友好国であるマリオネ国とレイヴェルス国の両国とも国王がいらっしゃるので、王宮内外に関わらず万全な警備体制が敷かれていた。


 歓迎パーティー前日、私はクロヴィス様の臨時補佐官として、要人のお出迎えに付き添っていた。

 午前中にいらっしゃったのは、レイヴェルス国のエフェリーネ・ロース・レイヴェルス女王陛下とラウレンス・レリー・レイヴェルス・クライン大公殿下一行だ。

 レイヴェルスは第一子が王位を継ぐことが多く、今の陛下は女王で二年前に王位を継いだばかりだが、先王に負けず劣らずの支持を得ているという。

 文武両道で私も陛下みたいに出来る女を目指している。

 一緒に来訪されたのは女王陛下の叔父で、私は初めてお会いするお方で、第一印象は女王陛下にどことなく似ていらっしゃるが、陛下よりも鋭い眼差しで一見冷淡な印象を受ける。

 


「レイヴェルス女王陛下。遥々フォートリエまでお越し頂きありがとうございます」

「歓迎痛みいる。久しいな、フォルジュ大公。息災か?」

「お陰様で。陛下もお変わりないようですね」

「まぁな。そちらは、確かクレージュ公爵令嬢だったな?」

「はい。一度ご挨拶させて頂いたことがございます。またお会いできて光栄に存じます」

「王太子とは⋯⋯あぁ、元か。婚約が白紙となったそうだな」

「お耳汚しを。お恥ずかしい限りですわ」

「そうではないだろう? 一度令嬢とは話をしたいと思っていた。後程話し相手になってくれるか?」

「勿論でございます」



 やったわ!

 女王陛下とお話ができるなんて!

 心の中だけで舞い踊っていると、クロヴィス様が「お部屋にご案内します」と、ここで長話をするわけにもいかないものね。

 私達は陛下方がお過ごしになる迎賓館へご案内し、暫し旅の疲れを癒やして頂くため早々に辞去した。


 午後からはマリオネ国から国王と王太子がいらっしゃっるので、先程と同じように私達は出迎えに向かう。

 時間通り到着し、ベリザリオ・ヴァレリ・モナ・ベルティーニ国王陛下とリディオ・シレア・ティノ・ベルティーニ王太子殿下がこちらに来ると気さくに挨拶をしてきた。



「久しいな! またミュルデルと小競り合いがあったんだってな? ご苦労なことだ」

「何時ものことで何時もながら全く懲りない。面倒な国ですよ」

「ははっ! で、そっちは確か第一王子の婚約者だったな」

「マリオネ国王陛下、ご無沙汰をしております。第一王子の“元”婚約者ですわ」

「ほぉ。それはまた⋯⋯ふむ」

「陛下、余計なお考えはお捨てになるがよろしいでしょう。彼女の父親を怒らせると後が大変ですよ」

「宰相か、それは怖いな! まぁいいさ」



 話が一段落したところで、同じく迎賓館へと案内をする。

 案内後はクロヴィス様の執務室へ戻ると、早速レイヴェルス女王陛下からお茶の招待状が届いていたのを見ると舞い上がってしまった。

 直ぐに招待状を読むと⋯⋯。



「あら?」

「どうした?」

「今からですわ」

「何が?」

「お茶会ですわ。そうここに書いてあります」



 私はお手紙をクロヴィス様にお見せすると、「相変わらず自由だな」と一言。



「今日の予定は⋯⋯」

「いや、こっちはいいからセスは招待を受けたらいい。それに招待を受けなかったら後々面倒だ」

「クロヴィス様がそう仰るなら、行ってきますわ」

「楽しんでくるといいよ」



 クロヴィス様の許可を得たので、早速お返事を認めて侍従に託す。

 そして私はこちらで使用している部屋へと戻り仕度を整え、陛下のいらっしゃる迎賓館へと急ぐ。

 

 

(あぁ! 楽しみすぎるわ!)

 

 

 部屋に着くと、取次をお願いしてすぐにお部屋に案内された。



「待っていたよ」

「お招き頂きありがとうございます」

「いや、こちらこそ急な誘いにも関わらずよく来てくれた」



 女王陛下は変わらず麗しさと凛々しい笑みで迎えてくれた。

 その姿にほぉっと見惚れる。

 内心うっとりとしていたけれど、案内されて席につくと、陛下の侍女がお茶を淹れ終わるのを待ち、陛下がお茶を頂くのを待って私も口をつける。

 美味しい。



「先程の王太子と婚約は白紙になったと。まぁそうなるとは思っていた。他国のことで申し訳ないが、あれに令嬢は勿体ない」

「勿体ない、ですか?」

「宝の持ち腐れだ。そうだ、私のことはロースと呼べ。貴女のことはセレスと呼んでよいか?」

「畏まりました。ではロース様と呼ばせていただきます。私のことはそれで結構ですわ」



(まさかセカンドネームで呼んでいいなんて!)



「白紙となったばかりだから次の婚約者はまだ決まってないのだろう?」

「はい。陛下に探すと言われましたが丁重にお断りいたしましたわ」

「それは! 嘸かし残念がっていただろうな」



 そう言って陛下、じゃなかったロース様は笑っていた。

 残念がる意味はわからないけれど。



「だが何故断ったんだ?」

「私が暫く一人でいたいとお願いしたのです」

「成程な。話は変わるが、セレスは今回の会議に出席するのか?」

「出席者としてではなく、大公殿下の補佐官として書記をするために付き添いを致します」



 ただの書記として側に控えるけれど、私はクロヴィス様の臨時補佐官に過ぎないので話を聞き、それらを纏める要員として出席はする。



「そうか。セレスの意見も聞いてみたいと思っていたのだが⋯⋯仕方ないね。それより明日の歓迎パーティーには出席するのだろう?」

「はい、フォルジュ大公殿下のパートナーとして出席致します」

「⋯⋯もしかしてセレスは大公を慕っているのか?」

「とても尊敬はしておりますわ」

「尊敬だけか? 貴女の表情を見る限りでは慕っているように見えるけどね」

「そんな⋯⋯私のような未熟者が殿下を慕うなんてご迷惑なだけですわ」

「セレスが未熟者だったら他の令嬢はどうなるんだろうな」



 そう呆れたように言われてしまったわ。

 クロヴィス様のことはとても尊敬しているけれど、慕っている、というのはまた違うわ。

 陛下になにか誤解されてしまったみたい。

 それになぜ結婚の話まで出てくるのかしら。

 確かにクロヴィス様もいいお歳ではあるのに未だに独身でいらっしゃるし、陛下も気を揉んでいるのは確かなのよね。

 だからといって私では相応しく無いわ。

 何よりも婚約破棄されたばかりの傷物だもの。

 何よりもクロヴィス様は⋯⋯。



「まぁ大公よりも私の叔父上の方が年齢的にはまずいのだけどね」

「クライン大公殿下が、でしょうか?」



 私が少し考えに浸っていたらロース様はクライン大公殿下の心配をされた。


 

「そう。フォルジュ大公よりも年上なのにも関わらず全く女の気配もないんだ。婚姻しない気なのではないだろうかと心配でね。叔父上の人生だから口を出すことではないんだけど」

「まぁ。クライン大公殿下とお話しをさせて頂いたことはありませんが、フォルジュ大公殿下からとても聡明で油断ならない方だと、そしてとても女性から人気があると伺っておりましたわ」

「その通りだよ。その通りなんだけどね。セレスは彼を見てどう感じた?」

「そうですね⋯⋯第一印象としてはとても怜悧なご表情が印象的でしたわ。全く隙がないといった感じでしたが、それはロース様をお護りする為でしょう?」



 私がそう言うとロース様は驚きの表情を見せた。



「何故そう感じたのか聞かせてもらっても?」

「周囲にはそのように振る舞っておいででしたが、ロース様に話しかける時だけほんの少し瞳が軟化するのです」

「⋯⋯よく見ているね。感心する。セレス、恋愛の意味でフォルジュ大公を特段想っているのではないのだな?」

「恋愛的な意味でなら⋯⋯そう、ですけど」



 ロース様は何を仰りたいのでしょう。


 

「歯切れが悪いな。セレスに想い人がいないなら是非とも我が国の者と婚姻して私の側近として指名したい」



 と、ロース様はそうとんでも無いことを仰った。

 驚き過ぎて言葉が出てこないわ。



「あの、陛下?」

「陛下ではなくロースと呼べ。先程言ったろう?」

「申し訳ございません。ロース様、私は婚約を白紙にされたばかりの身です。流石に直ぐには⋯⋯」

「別に急ぐことはないよ。私の願望だ。セレスのような優秀な人材が近くにいてくれると心強いからな」



 ロース様にそのように言っていただけて光栄の極みだけれど、他国に行くのは気が引けるわ。

 勿論政治的な関係で私が嫁ぎこの国の為ならば、そしてお父様の決定なら従うけれど⋯⋯今はまだこのままがいい。

 クロヴィス様のお手伝いも始めたばかりだなので、まだここにいたい。



「ロース様からそのように仰っていただけて光栄ですわ。ですがまだ自国で皆様のお役に立っていませんので、申し訳ないのですけれど⋯⋯」

「分かっている。無理強いをするつもりはない。それだけ惜しいということだ」



 ロース様にそこまで評価いただけるなんて。

 これからもこの国で頑張ろうと思う。

 結婚は遠慮したいからお父様と陛下には釘を差しておかないといませんわね。

 今のロース様の発言やマリオネ国王陛下の発言も気になるわ。

 ロース様と楽しい時間を過ごした後にお父様の執務室へ行こうと心に決め、楽しい一時を満喫した。

 

ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価を頂き、とても嬉しく励みになります!

ありがとうございます。


次回は今年中にもう一話更新予定ですので、次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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