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再会


 殿下の補佐官としての二日目。

 今日は直接殿下の執務室へと向かうが、本日は週始めなので、殿下や二人の補佐官は学園に登校している為にこちらにはいらっしゃらない。

 流石に王族の婚約者から外していただいたので、一人で執務をする訳にはいかず、殿下が学園に通われている時は、殿下の侍従が私の補佐に付き殿下が戻られてから手早く執務が執り行えるよう書類を別け、必ず殿下が目を通さないといけない書類以外は私の判断で優先順位である程度終わらせておき、あまり負担がかからないようにしておく。

 前以て殿下に説明をしているのだけれど、お父様に話したら甘いのでは? と言われるかもしれないけれど、流石にこの量を捌きながら勉学に励むのは骨が折れるし、何よりも学園に通っている間は学園生活を楽しんで頂きたい。

 昨日確認した溜まりに溜まっていた書類は何とか夕方迄には粗方片付いて良かったわ。

 ほっとしていると、侍従のジョゼフがお茶とお菓子を、休憩をとるようにと言わんばかりに私の前に並べたので、有り難く頂くことにした。



「お疲れ様です。クレージュ公爵令嬢」

「お茶とお菓子をありがとう。ジョゼフ、私の事はセレスティーヌでいいわ」

「畏まりました。では、セレスティーヌ様と呼ばせて頂きます」



 暫くここに出入りする為、わざわざ公爵令嬢等と呼びにくいでしょう。

 かなり集中して書類を見ていたから甘いお菓子がとても美味しい。

 糖分は適度に摂らなければ頭が働かなくなるものね。

 少しの間、お菓子とお茶を楽しんでいると殿下が学園から戻って来たらしくそのようにこちらに連絡が入った。

 そして少しした後に着替え終えたユベール殿下が執務室にいらっしゃった。



「お姉様、お待たせしました」

「ユベール殿下、お帰りなさいませ」

「あれ? お姉様、書類は⋯⋯少なくなっていませんか?」

「流石にあれは多すぎましたので、殿下が目を通さないといけないもの以外は殆ど片付けておきました。こちらに置いている書類は必ず殿下に見て頂かないといけない書類で、優先順位順に纏めております。それ以外の書類に関しては一旦私が全て終わらせておきましたので少しは殿下にも余裕が出来るかと」



 そういうと、殿下は嬉しそうに、だけどちょっと申し訳無さそうにしていらっしゃいました。



「お姉様、本当にありがとうございます。流石にあの書類の束をどうしようかと悩んでいたのです⋯⋯」

「お役に立てて良かったですわ。ですが殿下、中には嫌がらせのような書類も混ざっていますので、そのようなものに関しては無視して送り返してよろしいですよ。わざわざ殿下が真面目に取り組む必要はありません。今回の分に関しては私が全て各関係者に倍にして返しておきましたので今頃はあたふたしている事でしょう」

「流石お姉様ですね!」



 感心するのはいいですが、これからは殿下が容赦なくそれらをこなしてほしいところですね。

 まぁ性格もあるので殿下は殿下のやり方でされるのが一番です。

 さて、殿下が目を通した書類にサインをするのを待ちながら側近の二人の指導、といっても飲み込みも早いので彼等の仕事ぶりを見ながら改善点だけを伝えていく。

 学園は今週で終了し春の長期休暇に入る為、今週いっぱいは彼等二人を指導して、来週からは実際に二人の働きを見てからまだ教育を続けるか全て任せるかを決めようと考えている。

 素直に聞く二人なので問題はなさそうたけどね。

 日が立つのは早く、翌週早速私はお二人の仕事ぶりを確認するが、何の問題無なさそうね。

 殿下も仕事がしやすいのか、今迄のようなやさぐれた雰囲気がなくなっている。

 これなら大丈夫そうだわ。

 メインはお二人にお任せして、私は少し席を外すことを伝えて執務室を後にし向かったのは陛下の執務室。

 私の良い時間に来るようにと言われていたので来たのですが⋯⋯、何故かソファに誘われて陛下とお茶を楽しんでいるこの状況は⋯⋯何?



「あの、陛下? 何故私をお呼びになられたのでしょう?」

「ん? あぁ、クロヴィスの事だ。あいつが戻ってくるのは五日後で、そこから一週間休暇を与えるのでセス嬢には十三日後から補佐に入ってほしいんだ。日程はユベールとの兼ね合いがあるから好きに決めてくれていい。それにあの馬鹿共の矯正もあるからな。あれらはセス嬢の下に付けるからユベールの所だけでなく、クロヴィスの元で働く時も好きに使っていいぞ」

「畏まりました」



 本当に何でも好き勝手に使っても宜しいのね。

 彼等が私の下で働くのは明日会ってみて決めるけれど、まぁそうなるでしょうね。

 うん、面倒だけどどのような態度でくるか、楽しみではある。

 色んな意味で⋯⋯



「時にユベールと側近の二人はどうだ?」

「ユベール殿下はとても頭の回転が早くて、以前から分かっていた事ですが、殿下の兄とは比べ物になりませんわ。側近の二人に関してもとても飲み込みが早くて優秀です。何より人の話を素直に聞くのでとても可愛らしいですわ」

「セス嬢は容赦ないな。流石あの二人の娘だ。⋯⋯あぁ、話は変わるが、あの馬鹿共とは明日の朝親達と共に登城するので、セス嬢もセザールと共に来なさい」

「畏まりました。他にご要件は?」

「取り敢えず以上だ」



 陛下のお話が終わったので、私は執務室を後にする。

 明日の事、忘れていたわ⋯⋯すっかりと。

 扱き使って良いって言ってましたし、明日の親達の様子を見て決めましょう。

 後は本人達のやる気次第だけどね。


 そして翌日の朝。

 私はお父様と共に登城し、応接室で待機している。

 それも一番乗りで、ですよ。

 この意味が分かりますか?

 普通は私に迷惑を掛けるあの三人が先に来て私達を待っていないといけないのに、誰一人としていないのは、駄目だと思いますよ。

 横から笑顔で冷気を放ってる方いますよ?

 この中に入って来られますか?

 外に漏れ出ているのではないかしら。

 精神と物理的に凍りそうですわね。

 季節は冬をとっくに過ぎて春なのですけど、オカシイですわよね。

 とそこへ、誰か来たみたいで侍従が部屋を開け、中へと人を通す。

 さぁ、この部屋に来たのは誰が先なのかしら。



「!? お待たせしてしまい申し訳ありません。クレージュ公爵、公爵令嬢」

「ファビウス伯爵、お早いお越しで」



 お父様、手加減して下さいませ。私まで凍えそう⋯⋯

 向かいに掛けたファビウス伯爵と子息のファビウス卿の顔色は真っ青だ。

 そして続けてやってきたのは、ルオタール侯爵とリオット侯爵のニ家。

 入るなりこの部屋の異変に気づき、同じく顔色を失くしている。

 全員が揃い、少し待っていると陛下が部屋に入っていらっしゃったが、この部屋の異常なまでの温度の低さに直様察した陛下は、お父様をチラ見して人知れず嘆息した。

 私達は陛下に挨拶をして席につく。



「早速本題に入る。三家の子息には前もって伝えてある通り、クレージュ公爵令嬢の下で働いてもらう。期間は三ヵ月だが全ては本人次第だ。全て彼女の指示に従ってもらう。その三ヵ月の間に彼女の判断で更生不可だと判断された場合、そしてこれに否がある場合は更生不可と見做し、別の処罰を与える。異論のある者は?」

「否はありません。クレージュ公爵令嬢。ご迷惑をお掛けしますが、愚息を宜しくお願い致します」



 ルオタール侯爵がそう言うと、他の二家も倣って頭を深く下げた。

 侯爵方はとても立派な方なのよね。

 私達より遅れてきたけれど、まぁこれはお父様が何時もよりうんと早く待つと仰ったからで、決して彼等が遅かったわけでもないし、時間よりも早くいらっしゃったので彼等に非はない。

 そして元側近達も今は反省してるのか深く頭を下げているし、私に対して今のところは反抗的な視線もない。

 口を開かないので謝罪も無いわけなのだけれどね。

 まぁ口を開く度胸がないだけかもしれない。

 未だにお父様が冷気を放っていますから。



「分かりましたわ。但し、陛下も仰ったように全て私の判断でさせて頂きますので文句は聞きませんわよ」

「勿論です。情け容赦はいりません」

「では、彼等をお預かりいたしますわ」



 親の許可も取ったので、扱き使うことに決めたので、言葉にした通り、容赦なく使ってやりましょう!

 彼等を受け入れたので、私達への話はここまでで、後は陛下達がお話されるみたいなので先に挨拶をして退室した。

 勿論彼らも一緒だ。

 さて⋯⋯



「では、ユベール殿下の執務室へ戻ります。先ずはそれからよ」

「⋯⋯はい」

「返事が遅いわ。それに覇気がない。殿下の前でその態度はお止めなさい」

「くっ⋯⋯」

「反抗的な態度はマイナスになるだけよ」

「分かっています。他の二人はどうか知りませんが、私はセレスに従うよ」

「リオット卿、私の事はクレージュ公爵令嬢と。愛称は勿論名前を呼ぶのは許しませんわ」

「申し訳ありません。クレージュ公爵令嬢。以後気を付けます」



 リオット卿はやはり真面目ね。

 だけど残りの二人はいただけないわね。

 取り敢えずはユベール殿下に紹介しないといけないので三人を引き連れて殿下の執務室へと向かう。

 執務室に着き、先ずは彼等を紹介するが、リオット卿は礼を失する事無く挨拶をしたのは良いけれど、問題は残りの二人よ。



「君達が兄上の元側近だとは聞いているけれど、兄上は君達に礼儀を教えていなかったのかな? そのような態度では三ヶ月を待たずして君達は廃嫡になるね。お姉様がこのような者達に煩わされるなんて、僕は許せないよ」

「殿下のお気持は嬉しいですが、陛下の命もありますから。何より全て私に任せて頂けるということでしので、ふふっ、大丈夫ですわ」

「⋯⋯僕、クレージュ家だけは敵に回したくないって心底思うよ」

「お褒めにいだき光栄ですわ」



 ユベール殿下と私の話を聞いてリオット卿は神妙に頷き、ルオタール卿とファビウス卿は苦虫を噛み潰したような、反抗的な態度、前途多難だわ。



「時間も勿体無いので早速始めましょう。先ず、貴方方三人はユベール殿下の執務室では一番下です。ですので、殿下の側近であるセネヴィル卿とブラジリエ卿にも礼を失する事のないようにしなさい。リオット卿、貴方は二人の補佐を。問題児の二人は基本である礼儀を教えるわ」

「畏まりました」



 リオット卿は素直ね。

 だけど残りの二人ときたら、文句をブツブツと男らしくないわ。

 どこまで続くかしらね。

 さて、この部屋で二人の再教育を始めるけれど、とても反抗的で前に進まない。

 そこで私は前以て準備していたとあるモノを取り出して、二人が反抗的に口を開いた時を狙ってそれを放り込む。

 二人は急な事に文句を言うがそれも口の中のモノが舌の上で溶け始めると二人は情けない叫び声をあげた。



「何だこれ!?」

「に、苦ずぎる⋯⋯」

「水! 水をくれ!」

「嫌ですわ。それでは罰になりませんもの。これから反抗的な態度を取れば同じように口にそれを入れますからね。因みにこれには苦さの段階があって、一番優しいモノですので、これからが楽しみですわね」

「「はぁ!?」」



 信じられないといった感じに私を見上げてくるが、そもそも貴族なのに礼儀も弁えずにやっていい事とダメな区別もつかずにいるからです。

 貴族と言うより人としてもダメですけどね!

 口の中の苦みが少しマシになったのか、回復しつつある二人に容赦なく教育を再開する。

 そして今日一日が終わる頃には二人共げっそりとしていたのを見て、軟弱過ぎると思ったけれど口には出さないでおいてあげた。


 そうして私の容赦ない教育の日々が過ぎ、今日はクロヴィス様がお戻りになられる日。

 陛下との謁見後にお会いする事になっているので今から楽しみで仕方がない。

 時間より少し早くに陛下の執務室に着いたけれどまだお話されているとのことで控室で待たせて頂くことにした。

 クロヴィス様にお会いするのはいつぶりかしら。

 おかしなところが無いか鏡で入念にチェックしながらそわそわして待つが、早くお会いしたいと思っていると中々時間は進まない。

 待つ時間がとても長く感じられる。

 そして待つこと十分弱、ようやく呼ばたので陛下の執務室へ通されると、そこには相変わらず精悍な顔付きで漆黒の髪と紫の瞳が良くお似合いのクロヴィス様がいらっしゃいました!

 あちらも私に気付き、それはもういい笑顔で出迎えてくれます。



「セス! 暫く見ない間にまた一段と綺麗になったな」

「クロヴィス様は相変わらず素敵ですわ。お変わりないようで安心致しました」

「話は聞いた。あの馬鹿、いつか何かやらかすと思ったが、公衆の面前でやるとはな⋯⋯助ける事が出来ず悪かった」

「いえ、クロヴィス様。助けて頂かずとも対処しましたわ。お気持ちだけ受け取っておきます」

「流石強いな」

「クロヴィス様に情けない所は見せられませんわ」



 私がクロヴィス様とお話をしていると、陛下とお父様が何かこそこそとお話をされているようでしたが、陛下は何か企んでいるようなお顔をされていたので、私はクロヴィス様にそれとなく「陛下がなにかされています」と伝えると陛下の方へ振り返り呆れたように声を掛ける。



「兄上、一体何をされているんですか?」

「いや? 何でもないぞ」

「何でも無いって顔をしてませんね。公爵は公爵で何故苦虫を噛み潰したような顔をしているんだ?」

「いえ、大公殿下、何でもありません」



 怪しすぎるわ。

 お父様にしても陛下にしても、一体何を企んでいるのやら。



「さて、そろそろ本題に入ってもいいか?」

「勿論です」

「クロヴィス、お前は明日から一週間休暇をやる。その後はお前の補佐官が戻るまでの間、セレスティーヌ嬢を補佐官として付けるから仕事を手伝ってもらえ」

「それはいいですね! 兄上、ありがとうございます。セス、宜しく頼むよ」

「私に出来得る限りお手伝いさせていただきますわ」



 クロヴィス様の喜ぶお姿を見るのは嬉しいわ。

 ふふっ、一週間後が楽しみで仕方ない。



「喜んでるとこ悪いが、セレスティーヌ嬢にはあの馬鹿の元側近の三人の教育係を頼んであるから、もれなくそいつらも付いてくるぞ」

「⋯⋯は?」



 陛下がそうクロヴィス様に伝えると、それはもうお父様とは一味違う、最前線で敵を圧倒する将の顔だ。

 滅多にお見せにならないその表情を間近で見れた事に感動する!

 物凄く格好いいのだ!

 それも私の為に怒ってくれているのが分かっているので感動も倍だ。

 私が感動しているのを余所に陛下はぎょっとして慌てている。


 

「おい! 兄をそんな目で見るな! 元々技量はあるんだ。遊ばせておくのは勿体ないだろう?」

「それはそうですが、何故セスに⋯⋯」

「適任だからだ。そんな顔をしても文句は聞かんぞ」

「⋯⋯分かりました。セス、取り敢えず一週間後に執務室で会おう」

「はい。一週間後にお伺い致しますわ」



 クロヴィス様は何とも言えないお顔を部屋を退室したのを私はお見送りした。

 

 

 

 



 

 


お待たせしました。

ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、評価、いいねをありがとうございます。


次話は年内に更新予定ですので、楽しんで頂けたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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