後始末
翌日、連絡を受けた第三騎士団所属のジョシュア・ノックスは、隠れ家からアルヴィン・ゴールディングを連れ出した。いよいよ喚問が始まるのだ。
兄である国王は、弟の叛逆に対峙する事になり若干の心苦しさを覚えていたが、国を統治する者として、例え身内でも容赦ない態度で臨むつもりだ。
アルヴィンの生母の前王の側妃は、体調を崩し寝込んでしまった。
ゴールディング大公妃と次男は軟禁状態だ。
王家のリリアン王女とマリッサ王女に薬を飲ませる計画を事前に知っていた夫人は、恐ろしさからマリッサ王女の飲む筈であった飲み物を奪い取り自分が飲んで倒れてしまった。
幸いなことにリリアン王女、大公夫人ともに順調に回復してきている。
父の策略を何も知らなかった次男のエドワードは母の容体を気にしつつも、大公家の行末と失踪した兄へと思いを馳せていた。
(兄上、こんな時に一体どこへ?)
ゴールディング家の嫡男ステファンは、自らの廃嫡と貴族籍を抜ける書類を準備し、それを指図する手紙を残して消えてしまった。
*
その頃、そのステファンは隠れ家でジェマーソン親子と共にいた。
「ステファン様、本当にこれで宜しかったのですか?」
「貴方達に負わせた父の罪に比べたら、わたしの事など何でもない」
「今ならまだ間に合いますわよ。お帰りあそばせ」
シェイラの挑発に、ステファンは嫌そうな顔で振り返った。
「俺はもう、ゴールディングを捨てたのだ。ただのステファンとなった。帰る家などない」
「その覚悟、信じても?」
ジェマーソンの問いにステファンは頷いた。
そんなやり取りがあって隠れ家を後にしたステファンと、連れ立って歩くシェイラは、一体何をする気なのか?と首を傾げていた。
「こんな所に連れてきてどうするつもりなの?目立つわよ」
質素な衣服を着ていても鍛えられたステファンの身体とその美しい顔立ちは目立つ。それでなくともフードを目深に被った二人連れなのだから。チラチラと見られているのを気にしたシェイラだが、ステファンはお構いなしにシェイラの手を引いてずんずんと進んだ。
下町の入り組んだ路地の奥にあったのは、小さな古い教会だった。そこはもう取り壊されるのを待つばかりで、浮浪者や孤児の溜まり場になっていた所を、朽ちて危険な為、騎士団にやって封鎖されている場所だ。
ステファンは封印を無視して中に入った。シェイラも仕方なく後に続いた。
不思議な事に木を打ち付けて開かない筈だった扉は、その封鎖を解かれていた。
暗闇の中、天井の高い位置にある飾り窓から光が差し込み、この国の信奉する女神の像を温かく照らす。
誰もいない教会に2人の靴跡だけが響いている。
差し込む光に照らされた女神像には真白いベールがかけられていた。ステファンはそのベールを手に取ると、シェイラの頭にそっとかけた。
「ちょっと!何するの!不敬だわ」
「心配するな、ベール俺が用意しておいたものだ。内部の掃除もしたぞ。蜘蛛の巣も取り払ったし、燭台も磨いた。
雰囲気は、まあ我慢してくれ。祝ってくれる者もいないが、この女神が証人だ」
ステファンはシェイラに手を取り、指輪を嵌めた。
「遥か東の国の風習らしい。愛する人との永遠の絆を結ぶと言う」
「ステファン……」
ベールに手をかけてシェイラの顔がよく見えるようにしたステファンは、跪いて愛を乞う。
「シェイラ・ジェマーソン嬢、一生愛し一生守る事を誓う。わたしの妻になってくれ」
「……わたしでいいの?」
「お前が良いに決まっているじゃないか。幼い頃からずっとお前だけを想ってきた。
お前が消えた後、ジェマーソンの、義父上の冤罪を晴らす、それだけが支えだった。父は肝心な秘密は俺には漏らさなかったから、調べるのには苦心した。お前たち親娘に危害を加えないという条件と引き換えに騎士団にその証拠は提出した。クレア・ファインズとレスター・エヴァンズの誘拐事件も無かったことになっている。
もう自由なんだよ、シェイラ」
誰もいない朽ちた教会で、ステファンとシェイラは二人だけの結婚式を挙げた。
その後のジェマーソン一家の行方は知れないが、3人はゴールドバウム国を離れ、東の国へと向かったと聞く。
一方、大公の裁きの前にひっそりと離縁手続きを取られた大公夫人は、体調が戻り次第生まれ育った国へと帰ることになった。
アルヴィンの企みには関与しておらず、また歪んだ自己顕示欲の犠牲となり、本来ならこの国の王妃となるべき女性であった為、ゴールドバウム国からは充分な慰謝料も渡された。
次男のエドワードはゴールディングの名を捨て、母と共に母親の祖国へ行った。王位継承権も当然放棄した。エドワードが拒絶した事でゴールディング大公家は無くなった。
兄ステファンと比べて穏やかでのんびりした性格のエドワードだが、貴族では無いから生活の為に働かねばならない。
剣技を活かして母の祖国のある貴族の施設騎士団に入り、そこで頭角を顕して、仕えた貴族の家の令嬢に見初められて婿入りする事になるのだが、それままだ先の話だ。
そして、自分の不運を嘆き兄への恨みを勝手に募らせた挙句、国内外でテロ事件を起こし、半分血のつながった妹の殺害に関与したアルヴィン・ゴールディングは死罪となった。
アルヴィンの語った狂気は王家の人々の心に暗い影を落とした。
お読みいただきありがとうございます。
次回、アルヴィンの断罪と告白になります。
あと2.3話で終わらせたい。。。




