華麗なる大舞踏会
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目が眩むほど輝くシャンデリアの下、王宮の大ホールには着飾った人々が集まっている。それぞれが精一杯贅をこらした目にも鮮やかなドレスに、値段のつけようも無いほどの宝石を見に纏った淑女たち、同じく超一流の仕立てに煌びやかな羽や花々、さらにはパートナーの瞳の色をした宝石で飾り立てた紳士諸君。
楽団は、しっとりと、そして艶やかに音を紡ぎ出す。トレイに色とりどりのカクテルやワインを乗せた給仕が、紳士淑女の間を泳ぐように移動する。
熱の籠った言葉や視線があちこちで飛び交い、招かれた人々の騒めきが漣のように連なってゆく。
下位のものから入場して、残すは王族と来賓のみとなった時、賑やかだった会場はしんと静まった。
既に入場しているクレア達は緊張に包まれていた。何しろ今日は、リリアン王女の婚約披露であるが、自分達の婚約後初の2人揃っての舞踏会なのだ。貴族令嬢としての場数を全くこなしていないクレアにとって、このような華やかな場所に出ることは緊張でしかない。
「大丈夫」
そう言ってクレアの手を握るレスターもまた、慣れてはいないのだが。
彼らの見つめる視線の先には、王家の人々が並び、その後ろにはゴールディング大公一家が控えていた。
王族達の周りには目立たぬように近衛騎士達が配置されている。その中にはクレアの幼馴染でもあるジョシュア・ノックスがいる。
ゴールディング大公は鷹揚な笑顔を貼り付けているが、大公夫人は無表情であり、次男エドワードは所在なさげにいた。
そこにいるべき、大公家の嫡男ステファンの姿は見えなかったが、それを問うものは誰もいない。
レスターの父エヴァンズ伯爵はワイングラスを手に知り合いと話し込んでいた。ただし、全神経を周囲に向けている事には周りの人間は気が付かない。
ユーイン・ランバート辺境伯は愛妻マリアンを連れて、やはり如才なげに高位貴族達との交流を深めていた。マリアン夫人は辺境の子爵家出身ゆえ、彼女を貶めるものが無いようにと、ぴたりとくっついたまま離れようともしないユーインだった。
やがてアルフレッド国王から舞踏会開催の挨拶があり、人々は手にしたグラスを掲げて、ゴールドバウム王国万歳と叫んだ。
*
リリアン王女と同盟国のヘンリー王子の婚約が発表され、2人は婚姻の後、リリアン王女が立太子してゆくゆくは王位を継ぐ事が告げられると、ホールを埋めた貴族達から、大きな拍手と歓声があがった。
リリアン王女が優秀であることは周知の事実で、なかなか婚約が決まらないのは、リリアンに釣り合う力量を備えた男性が見つからなかったせいもあるのだった。
同盟国の第二王子であるヘンリーは、リリアンより3歳年下だったので婚約話は出ていなかったのだが、ようやく成年を迎えたヘンリー王子側からの申し出もあり、2人を会わせてみたところ、周囲の予想を裏切り2人は恋に落ちたのだった。
次期王位継承者が無事に決まった喜びの中、面白くないのはアルヴィン・ゴールディング大公だった。しかしそんな事はおくびにも出さず、漸く落ち着いた王位継承問題に安心したといった風を装っていた。
そんな夫を見る妻は冷ややかだった。本来なら王妃の椅子に座るのは自分の筈だった。それをアルフレッドから強引に奪ったのがアルヴィンなのだ。兄への嫉妬、自分が二番手である事へのやり場のない怒りを、婚約者を奪う事で満たしたアルヴィンは
「わたしはアルフレッドから王位を奪うつもりだ。だから君は遠からず王妃になるのだ。わたしが王となった時に相応しいよう、常に気高く美しくありなさい」
と、愛ではなく打算で選んだと堂々と告げるような男だった。
ゴールディング大公夫人は自分が選んだ道ではあるが、アルヴィンの妻となった事を後悔している。
(あの人はわたくしを愛しているわけではない。あの人が愛しているのは、権力と金だもの)
ただ、息子達には幸せな結婚をして、愛する人と共に生きてほしいと願っている。
長男ステファンが愛する女性が、夫を破滅に追い込むと知っていても、彼女はステファンを応援すると決めていた。
*
リリアン王女とヘンリー王子は祝いの言葉を述べる招待客たちに笑顔で応対していた。
王家主催のシーズン終わりの大舞踏会ゆえ、伯爵家以上の全ての家門が招待されている。もちろん国に多大な利益を齎した有能な子爵家や男爵家も特例として招かれているが、基本的に高位の貴族しかこの場にはいない。
やがてクレアとレスターの番になり、2人は王家の人々へ丁寧な礼をした。
国王は笑いながら
「よいよい。礼なら先程受けたでは無いか。今宵は可愛い姪が漸くやってきてくれたのだ。堅苦しいことは抜きにしよう」
国王の声に、近くにいた高位貴族達は耳をそばだてている。
「ちょうど良い機会である。妹、アリアが残してくれた我が姪を正式に紹介しよう」
アルフレッド国王はクレアの手を取ると王族の席に招いた。
楽団が音を消すと、ただならぬ気配にホールはしんと静まり返った。
「ブロイセン国に嫁いだ妹、アリアが命懸けで産んだ姫がクレア・ファインズである。アリアは政変に巻き込まれて身罷ったが、最期の力を振り絞ってクレアをこの世につかわした。そのクレアを我が子として慈しみ育てたファインズ伯爵は、不幸な事故で命を落とした。
血縁者としてクレアを王家に迎え入れるつもりであったが、我が姪クレアは、婚約者のレスター・エヴァンズと共に、亡きファインズ伯爵家を復興したい願っている。我はその願いを聞き届ける事にした。
諸君に願う。どうか彼らを温かく見守ってやってほしい」
アルフレッド国王が正式に発表した事で、クレアの立場ははっきりとした。王位継承権は返上しても王家に連なる人間だとわかると、そうそう手出しは出来ないだろう。
クレアは両親を亡くし天涯孤独であると思っていたのが、生母の兄が健在でいとこ達もいる、そしてレスターに愛されているという実感もある。
クレアは自分が孤独ではないのだと実感した。
(それに、ファインズのお父様お母様がどこかで生きてらっしゃるのよ。いつか皆で一緒に暮らす日が待ち遠しいわ)
「クレア、君を一生愛し、この命にかえて君を守る。同じ相手と2度目の婚約なんて、君にとっては迷惑だったかもしれないが、俺は君に再会できたこの幸運に感謝してる」
「わたしもよ。愛してくれてありがとう。愛しているわ」
*
恙無く舞踏会は進む。
クレアとレスターも、幸せに満ちた笑顔でワルツを踊っている。
「練習した甲斐があったわ」
「全くだ。しかしダンスというのは剣技より気疲れするものだな」
「レスターにも苦手なものがあるなんて」
クレアがくすくすと笑うと
「苦手ならば、君が悲しむ顔を見ることだろうか」
思わぬ反撃に遭い、クレアは顔を赤く染めてしまった。
ふと見ると、リリアン王女とヘンリー王子も、幸せそうに笑いながら踊っていた。
リリアン王女から直々に婚約者を紹介された時に、
「お従姉様、好きな人がいるだけで、世界は薔薇色に見えますわね」などと、惚気られていたので、クレアは微笑みながらリリアン達を眺めていたのだ。
その時、突然爆発音が上がった。
咄嗟の事に舞踏会の出席者達はあたりを見渡している。
咄嗟にクレアを後ろに庇ったレスターは、近くにいたユーインに目配せをした。
「クレア、マリアン様を連れてここから離れて!」
一瞬にしてホール内に白い煙が入り込む。
悲鳴、怒号と響く中、警備に当たっていた近衛騎士団と、外回りを巡回する第二騎士団の騎士達がテキパキと人々を誘導していた。
クレアはマリアン夫人の手を取り、予め決めてあった待避所へと向かおうとしたその時だった。
「おや、どちらへ?」
目の前に現れたのは、黒髪の女、シェイラ・ジェマーソンだった。
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