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覚悟

しばらく間が空きました。ここから第三章です。

内容がわかりやすいタイトルに変更いたしました。ブックマークをしてくださる方には紛らわしくご迷惑をおかけいたします。



 生き延びる為に逃げる。シェイラは走った。ステファンに示された場所へと走った。

(まだ死なない)ただその一心で。


 彼女の父ヴィルヘルムがブロイセン国から逃げてこの国へやってきたのは、25年前のこと。空腹と怪我で倒れていたところを、屋敷に連れ帰り手当てをし食事を与えて、自分の手足になれるか?と問いかけたのはアルヴィン・ゴールディングだった。


 アルヴィンは捨て駒になる都合の良い人物を探していたところ、眼鏡に適ったのがヴィルヘルム・ジェマーソンだった。

元の名前を名乗ろうとしない男に、アルヴィンが名付けたのがその名前だ。

 なんだか高貴な名前に思えないか?とアルヴィンは笑ったが、男にとっては名前など単なる記号に過ぎなかったので、新たな名前と居場所を作ってくれた事に感謝した。

 見栄えが良く勤勉なヴィルヘルムは瞬く間にゴールディング家で頭角を表し、若くして執事になり、その後は家令にまでなった。

 ヴィルヘルムはアルヴィンからの信頼を得たつもりだった。

アルヴィンにとっては、都合の良く利用するという意味でヴィルヘルムは信頼できる捨て駒だった。命を助けてくれた主君に裏切られても、粛々として受け入れるだろうと、アルヴィンは考えたのだ。


「父は存在しない架空のテロ組織の幹部の汚名を着せられたわ。母は既に亡く、わたしは犯罪者の娘として修道院へ送られた。

 酷いところだった。思い出したくもない、言いたくもない。

だけど、そこでの待遇があまりにも酷かったせいで、眠っていた力が目覚めたの。魔力で姿形を変えられるという力がね」


 シェイラは憑き物が落ちたかのように、一気に喋り始めた。


「それで?」


「わたしは機を見て逃げ出した。ひもじくてね、森に食べられる食材を採りに行けと言われたのよ。そこで動物に食い殺された様に偽装した。

 それに院長が大公家からの寄付金を着服しているのを知っていたから、それらを頂戴して当座の資金にしたの。

 ゴールディング大公家へ入り込んで、父を罠に嵌めた大公に復讐しようと思ったのよ」


「しかし、お前は大公ではなく、まず狙ったのはレスター・エヴァンズだった。何故?」


「エヴァンズはゴールディングの犬よ?クレア・ファインズの両親を事故に見せかけて暗殺したのもエヴァンズだわ。だからまず落としやすそうな次男を洗脳して、こちら側につけようと考えた。

 ところがレスター・エヴァンズだけではなくクレア・ファインズまでもが一緒に転移してきた」


「それで2人をどうするつもりだった?」


「クレア・ファインズに会えたのは僥倖だったわ。わたしは彼女の秘密を知っている。

 彼女はブロイセン国を揺るがす切り札になるわ。ゴールディングを潰す事の他に、父を追放したブロイセン国の奴らに復讐したいのよ」


「ヴィルヘルム・ジェマーソンとは、どういう存在だったのた?」


「あら、それは知らなかったのね?父は、ブロイセン国王と父親が同じなのよ。つまり、王兄って事なの。ただし庶子で、父の存在は知られていなかった。静かに生きていたのに、邪魔だから消されるところを命からがら逃げてきたわけ」


 そこまで話すと、シェイラは急に倒れ込んだ。


「自白剤が切れたか」

 

 シェイラを抱えてベッドの上に運んだ男は、被っていたフードを脱いだその下から銀髪が現れた。人目を引く美しい顔立ちの男だ。


「ゴールディング大公は、ジェマーソンがブロイセン王家の人間であることを知らなかったのか?知っていて罠に嵌めたのか?

 いずれにしても大公の性格と趣味の悪さが表れているね」


 その美しい男ジョシュア・ノックスは、うっそりと立っていた仲間に目配せすると、貧民街にある崩れかけた家からこっそりと姿を消した。




 ゴールディング大公家の地下牢から女が逃げ、嫡男のステファンが護衛に刺された事件は、箝口令が敷かれた。

 レスター・エヴァンズの父であるジョージは、アルヴィンから密かに呼び出しを受けていた。


「女が逃げた」

「そのようですな」

「護衛が女を殺そうとしたところ、ステファンが刺され、その隙に逃げた。護衛は服毒したよ」

「ふむ。閣下の指示でないとすれば、あの女が生きていると不味い人間が他にもいる、という事ですかな」

「嫌な言い方をするな。ジェマーソン事件は既に解決、奴は行方不明だが生きてはいまい。何しろ瀕死だったのだからな」

「魔力持ちなら生き延びるのは造作もないでしょうな」


 アルヴィンは目を細めて、ジョージ・エヴァンズを見た。


「証拠は?」

「娘は魔力持ちなのだから、父親がそうであっても不思議ではないでしょう」

「エヴァンズよ。わたしは君を信頼している。ファインズ夫妻を襲わせたのは、君にとっては辛い決断だったが、彼らはわたしに近付き過ぎた。そこを良く理解する事だな。

 ……シェイラ・ジェマーソンを探し出せ」


 何を今更、という風に肩を竦めたジョージだったが

「第三の特殊部隊が動いております。陛下の指示でしょう。

 閣下も足元を掬われぬよう、おひとりになられませぬ様、背後には充分お気をつけてなさい」


 


 同じ頃、王城の奥、アルフレッド国王の足元には跪く黒い影があった。


「ブロイセン国王からの親書か」


 親書を読み終えたアルフレッドは、黒い影に尋ねた。


「クレアはどうしている?」

「ランバート邸に」

「いや、そうではなく、其方、会いたくないのか?」

「それは……」

「アルヴィンは其方らの生存をいまだ知らん。そろそろ会いに行ってやればどうだ?」

「陛下はどのようにお考えで?」

「アリアの忘れ形見なのだ。然るべき身分を与え、相応しい伴侶を見つけるつもりが、クレアに拒絶された。ファインズ家の再興を望んでいるようでもある」


 黒い衣裳を纏った()は押し黙っている。


「アルヴィンを放置しておくのは、流石にもう限界かもしれぬ。マーゴット様にはお辛い決断をして頂かねばならない」


 弟を断罪する覚悟を決めた国王は、ひとつ大きなため息をついて、足元の影に命じた。


()()は丁寧に扱うこと。ブロイセン国王兄の娘と言うことは、クレアと従姉妹ということになるわけだ。

 それから……」


 アルフレッド国王の言葉を聞いた()は、指示を実行するべく動いた。


「望むなら王位なんてくれてやるのだが、お前は何を求めているのだ、アルヴィン?」



お読みいただきありがとうございます。

主人公たち以外はどのように動いているのか、説明回です。


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