密談
少し間が空いてしまいました。
引き続きお読みいただけますように頑張ります。
ランバート邸に戻ったクレアは、ユーインに面会を願い出た。
ユーインは、国王から詳細を告げられぬまま、クレアを守るようにとの命を受けていた事を明かした。
「ファインズ伯爵が陛下の影であることは知っていたから、何か極秘事項を知っている君が狙われているのだと思っていた。」
「そうなのですね。わたしは何も知らず、覚悟を持って辺境へ参りましたが、そうやって守って頂いていたのですね。ありがとうございます。
辺境の皆さんが優しくしてくださったのも、わたしの生い立ちのせいなのでしょうか。」
「いや、それは違うな。君が貴族令嬢なのにも関わらず、真面目で一生懸命にメイドの仕事を頑張っている姿に、みんなが応援したいと思ったからだ。」
ユーインは表情を変えて頭を下げた。
「王女であるクレア殿下に下働きのようなことをさせた挙句、田舎の辺境騎士たちの世話までさせてしまい、誠に申し訳ございません。これからは賓客として我が辺境領でお守りいたします。
また、守護も出来ず殿下を転移陣に巻き込んでしまった事、お詫び申し上げます。」
「閣下!おやめください。いきなり出生の秘密を知っても、わたしにとっての親は亡きファインズの両親ですし、8年過ごしたランバート領が帰るべき場所なのです。
わたしは両親を亡くし辺境騎士団の寮付きメイドを務める、ただのクレア、ランバート閣下は敬愛する雇用主でいらっしゃいます。
どうか、わたしの居場所を取り上げるような事をおっしゃらないでください。」
「しかし……」
「それから、口調も今まで通りでお願いいたします。」
クレアの気持ちを聞いたランバートは、深く頷いた。いきなり、王家の血を引いていると言われても受け入れ難いだろう。
「わかった、ありがとうクレア。我々はこれからも君を守る。レスター・エヴァンズもいる、何も心配いらない。」
「わたしを守るというのは、隣国の王家の後継者争いか何か、不穏な事が起きているという事でしょうか?」
クレアは心配そうに尋ねた。
「そうだ。君の母上であるアリア様が陰謀に巻き込まれてお亡くなりになって後、隣国は混乱が続いている。」
国内では王位を巡る争いが起きて内乱状態が続いていると言う。その引き金となったのが、テロリスト『漆黒の旅団』の暗躍で、その際に前国王は処刑され、クレアの父である王太子は行方不明になった。
「王太子妃がお亡くなりになったあと、王太子殿下は再婚はされなかったのでしょうか。」
「正式な妃は居なかったはずだ。しかも王太子には兄弟はいない。つまり直系はクレア、君ひとりなんだよ。
王位継承権を持つ姫が現れたとなれば、その姫を擁立して覇権を願う者もいれば、不都合であるからと存在を消そうとする者もいるのだ。
それゆえ君の存在を隠し守る必要があった、というわけなのだ。」
クレアの行動ひとつで情勢が変わったり、誰かを不幸にする可能性がある事に、クレアは身震いをした。
心を強く持たねばならない。強くなりたい、クレアは願うのだった。
そして三日後、レスター・エヴァンズがクレアの護衛のために、ランバート邸へ移って来た。
「必ず君を守る。だからといって死ぬつもりもないぞ。クレアと共に過ごす未来の為に、俺は全力を尽くす。」
レスターは騎士の礼でクレアに中世を誓ったのだった。
*
かび臭い地下の独房に入れられたシェイラは、力無く身体を横たえていた。
拷問とまではいかないが、かなり厳しい尋問があって、睡眠も食事もまともに取れていない。もっともそれくらいで根を上げるシェイラではない。
何しろわざと見つかるようにエドワードに近づいたのだから。
(予定通りゴールディング大公家に入り込めた。あとはなんとかして証拠を探して……)
暗い顔をしてシェイラが考え込んでいると、誰かの足音に気が付いてさっと身構えた。やってきたのは大公の嫡男ステファンだった。後ろには護衛騎士が控えている。
「シェイラ、何も食べていないようだが、少しは体に入れねば命に関わるぞ。」
シェイラは無視を決め込んだが、独房の鍵を開けて入り込んできたステファンに無理やり顎をつかまれたので、目と目が合ってしまう。
「顔色が悪い。尋問はもう終わりだ。
エドワードは、お前を見かけて懐かしくて近寄って、不埒な行為に及ぼうとしたが、お前に使おうとした睡眠薬を、逆に自分が経口で摂取する羽目になっただけ。本人がそう言っているのだから、それでこれ以上お前を拘束するのは無理だろう?
明日にでも解放するから、身体を休めておけ。」
「そんな事をして良いのかしら?確か……あのジェマーソンの娘を野に放つと災厄になる、のではなかったかしら?そう言われて修道院へ送られたわね。」
「修道院からいつ出た?」
ステファンはシェイラの両腕を頭上に持ち上げ、壁際に追い込んだ。
「言う必要ある?」
「お前を解放する為に修道院に迎えに行ったんだ。既にお前は居なかった。食料調達に出たままお前が帰らぬので付近を探したら血塗れの修道女の衣服が発見された、と院長は言った。
嫌がらせで危険な動物の出る森に、キノコや山菜を採らせるために放り出しただけで、まさか喰われるとは思ってもみなかったと泣きながら謝罪をしたよ。」
シェイラはふっと自嘲して笑った。
「あそこは酷かったわね。大公家からの寄付金を院長達が着服していたのよ。修道女達は食べる物がなく、皆ガリガリに痩せていたわ。だから森に出て動物を狩っていたの。生きる為にね。」
「あの修道院は潰した。院長と腰巾着どもは処分、虐待まがいの事をされていた修道女は別の場所に送った。」
「あら、そうなの。それならばわたしが命懸けで届けた内部告発も無駄ではなかったわね。」
「血塗れの衣服を見た時は肝が冷えたが、その時に逃げ出したのか?」
再びクレアは黙り込んだ。
「協力者がいたのか?」
「尋問は終わったのでしょう?」
堂々巡りのやり取りに、堪え性のない護衛騎士が剣に手を遣るのが見えて、シェイラはため息をついた。
「父は無実の罪、娘は連座して追放され、命からがら逃げ出せたのに、再び捕らえられた。次は死罪かしら。
愛する人も守りたい人もいない今、生きている意味を見出せないわ。そこの貴方、その剣でわたしを貫けば良いわ。
そうすれば、貴方の役目を果たせるのでしょう?
わたしの悪運もここまでのようね。」
シェイラの言葉に護衛騎士を振り返ったステファンは、護衛が剣を向けて襲いかかって来るのを見た。
*
ゴールディング大公アルヴィンは王城の国王の執務室にいた。側近も下がらせて2人きりである。
クレアに関する報告は、兄国王を喜ばせた。大切な妹の忘れ形見の存在は把握していたが、安全を考慮して遠く辺境の地に隠していたのだ。
王女2人には未だに婚約者がいない。どちらかに王配を迎えて国を統治させる事も考えた。しかし王女達は、国のために利用されるのは嫌だと言う。
『アリア叔母様の二の舞になりたくない。』と言うのだ。
そのアリアの遺した娘が望むのであれば、ゴールディング大公家のステファンに嫁がせて、その2人を次代の国王と王妃に据えても良いとすら考えている。王妃は、娘達の器量をよくわかっており、女王としての統治は無理だと悟っていたので、それならば愛する男性に嫁がせたいと思っているので、国王夫妻の考えはある意味一致していた。
「クレアはなかなか聡明な娘で見目も良い。また、苦労もしているから民衆の気持ちに寄り添うことが出来ると思う。
ステファンに娶らせるのも良い考えだと思うが、肝心の2人の気持ちは全く通じそうにないぞ?」
アルヴィンは兄に自分の考えを告げた。
「お前が言うのならそうなのだろうな。しかし王族や高位貴族に生まれついた者には、政略結婚は義務であろう?」
「それを王女達に言うことが出来るなら、兄上を見直すだろう。」
「お前は本当に遠慮とか配慮というものがない。」
国王は笑った。
彼らは胎違いの兄弟、しかも3ヶ月ほどしか離れていない。2人はまるで双子のように、アルヴィンの母である側妃が育てて来た。それもあって2人きりの時は遠慮なく語り合える仲だ。
「隣国がクレアを返すようにと、使者を立てて来たらどうする?」
アルヴィンは兄にさりげなく聞いてみた。
「アリアの遺した娘を不幸にはしたくない。クレアには我が国で釣り合う身分の相手を見つけて、早く結婚させてやろう。」
国王は良い事を思いついたとばかりに微笑んだ。
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