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嘘かまことか

 話は夜会の数日前に遡る。


 アルヴィン・ゴールディングはレスターの父であるジョージ・エヴァンズ伯爵とは旧知の仲で、2人は向き合うと酒のグラスをカチリと合わせた。


「お前たちが隠していた存在は実に興味深い。辺境に隠していたのでは見つけようがなかったな。」

「はっ……」

「ランバートも協力者か?」

「そうなりますな。陛下からの命令とあっては、逆らえないでしょう。」


 2人が話題にしているのは、亡きファインズ伯爵のひとり娘、クレアについてである。


「息子の婚約者にして、他の者が手出しできぬ様にするのは良いが、交流は無かったそうだな。レスターから聞いた。」

「はい。いずれ彼女はあるべき立場に戻るのです。万が一気持ちが残ればお互いに不幸でしょう?」

「とはいえ、お前の息子は再会した彼女に夢中ではないか。」

「初恋なのだと。」

「しかし、……忘れ形見がいたとはなあ。似ているのか?」

「そうですな。クレア嬢は金の髪に空色の瞳で、顔立ちは父親似かと。」


 アルヴィンは考えこんだ。

「何かとややこしいな。早くこちらで縁付けてしまって方が良いのでは無いか?」

「では、ご子息のどちらかを婿にし、いずれ彼の国の王配を狙いますかな?」

「こちらはステファン、あちらはエドワード、それも一興か。」

「何れにしても、クレア嬢、いえクレア姫の保護を願いたい所です。ランバート辺境伯邸は手薄です。」


「保護については考えている。

 しかし、育ての親のファインズ夫妻を殺害したのがお前だと知ったら、クレア嬢はどのような反応をするだろうな。」


 エヴァンズはただ目礼を返した。

 盟友であるファインズ夫妻の死の真相については、ゴールディング大公にも知らせるつもりはない。


 クレアを政治利用しようとしている大公に、エヴァンズ達が生きている事を教えてやる義理はないのだ。



 執事に案内されて応接間へ向かうクレアの後を、レスターとソニアが続く。

 長い廊下の果ての扉の前には護衛が2名。クレア達に会釈すると重い扉を開いた。


 中にいたのは、ゴールディング大公と長男のステファンであった。次男エドワードは大事を取っているらしい。


「よく来てくれたね。昨日の今日で申し訳ないが、早急に話をしたくてね。」


 アルヴィンは人の良さそうな笑顔を作ろうとしたが、どうしても胡散臭くなってしまう。あまりにも顔が整いすぎているからだ。

 そして大切な話があるのだと人払いをした。退出しようとしたレスターだけは留め置かれた。


「ここから先の話は限られた人間しか知らない。万が一、漏れるような事があれば、それは国家叛逆罪に等しいと心して欲しい。」




 26年前、この国の王女が隣国の王太子へと嫁いだ。

 長兄は王太子、次兄が現ゴールディング大公であり、王女は唯一の姫として大事に育てられていた。

 そのアリア姫は2年後、不慮の事故死を遂げてしまう。享年20歳だった。

 結婚相手の王太子に愛され、お腹には子を授かり幸福の絶頂にいた筈の、妹アリアの死に疑念を抱いた、当時はまだ王太子であった現国王は隣国に人をやり密かに探らせる事にした。

 その探索を任されたのが、ファインズ夫妻であった。彼らは夫婦共々一流の工作員だった。


 隣国に潜入したファインズ夫妻は、アリア妃の死因が謀殺だという証拠を掴み、犯人である隣国の高位貴族とその娘を秘密裏に処分した。

 そして更には、臨月であったアリア妃が、転落する馬車の中で産気付き、瀕死の状態で出産した事を把握した。


 アリア妃が産んだ姫は生き残った侍女が連れ帰っていた。

侍女はアリアの出産と姫の誕生を父親の王太子に知らせたかったが、アリア妃を死に追いやった政権争いに巻き込まれる事を懸念して、時期が来るまでひっそりと育てる決意をしたのだ。


 怪我と出産で傷んだアリア妃の遺体は現場で荼毘に付された。王太子が目にしたのは、アリアの黄金の髪の房と、箱に入れられた骨。誰もが、妃の胎内の子も無事ではなかったのだろうと思っていた。

 誰ひとりとして骨を確認しようとしなかったが、もしその場で確認していたら、赤子の骨が無かったことに気がついた筈であった。


 そんな中、事故の関係者をしらみつぶしに探していたファインズ夫妻が、事故で生き残った侍女の存在を知り訪ねて来た。

 そこで生まれてまだ半年にもならない姫の存在を知り、決して悪いようにはしないからと姫を預かったのである。侍女はアリア妃が身につけていたブルートパーズの装身具を渡した。


「これはアリア様が最後に身につけておられた物です。姫さまの出自の証拠になるかと。」


 隣国では王家と有力貴族達の激しい政権争いが起こっており、陰謀や策略、暗殺などきな臭い状況が続いており、王太子と言えども身の安全を保証されているわけではなかった。謀殺された妃の産んだ姫を、王家が守れるとは思えなかった。


 ファインズ夫妻は生後半年程の姫を連れ帰り、隣国の政権争いから隠すために、自分達の子として育てる事を決めた。

世話をしているうちに情が湧いたのである。彼らは姫をクレアと名付けた。



「ファインズから報告を受けた兄は、君を守り育てるようにと夫妻に命じたらしい。」


 クレアは自分の出自を知り、混乱はしたものの妙に納得していた。何となく感じていた両親の一歩引いた感じはそれだったのかと。

 そして、本来なら死んでいてもおかしくない所を、隠して育ててくれた両親の事を思うと、涙が溢れてくるのだった。


「陛下は、ファインズと、それからエヴァンズに、君を守るように頼んだ。そのやり方が正しかったかどうかは、わからんが。

 クレア、そう呼ばせて貰うよ。君は、アリアの娘なのだから、私に取っては可愛い姪なのだからね。ここにいるステファンにとっては従妹。畏まらなくて良い。」


 アルヴィンは和やかな笑顔でクレアを安心させようとした。


「詳しい話は僕も今初めて知ったんだ。それも含めて、昨日は済まなかったね。君を試すような真似をして。」 

 ステファンもクレアに謝罪した。


 レスターの眉がぴくりと動いた気がしたが、クレアは勇気を出して口を開いた。


「俄には信じられませんが、たとえわたしの産みの親が、大公様の妹姫であったとしても、わたしの両親はファインズの父と母でございます。

 ひとつ質問がございます。辺境へ都合よく行く事になったのは、やはり何らかの意図があったのでしょうか?面談を受けたのは、もしや離宮ではなかったのかと、今更ながら思い出したのです。」


「頑なだね。そういうところは血が繋がらないのにファインズそっくりだな。

 質問の答えだが、辺境へ隠す事にしたのは、国王陛下のお考えだ。

 ランバートは君が隣国の王家の血を引いていると知っている。」


 やはり、意図的に辺境へ向かわされたのだと、クレアは思った。

 しかし、辺境での日々はどれも大切な思い出で、ユーインやショーン、マリアン、ソフィ、辺境の騎士達、寮の使用人達、誰もが大切な存在だと、クレアは強く思った。


 レスターは知らされた事実に言葉もなかったが、何故自分に聞かせたのかと疑問に思っていたのが顔に出ていたようで、レスターの方を見ていたアルヴィンと目が合った。


「レスター、君は今日からクレア専属の護衛になれ。既に辺境騎士団からは除籍されており、君の正式な所属はゴールディング大公家だ。

 君の雇い主として命令する。

 クレア・ファインズ、いや、クレア姫を命を賭してでも守れ。」





 

 




 



 

お読みいただきありがとうございます。

エヴァンズ父、クレアの秘密など駆け足でした。

なるべくサクサク進みたいのですが、説明回端折りすぎてわかりにくかったらすみません。

レスターは運命に翻弄されて、一番損な役回りかもしれません。

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