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 怒涛の夜会を終えてランバート邸に戻ったクレア達だったが、ユーインは大公家に留まったままだ。事件の事後処理があった。 

 クレア自身も思考の海にどっぷり浸ってしまい、体は疲れていたのになかなか眠れずにいた。


 シェイラの事、レスターの気持ち、両親の死の真相、どれをとっても、クレアには無関心ではいられない。

 それに……

 

(わたしの価値って何なのだろう?)


 ゴールディング大公はクレアに用があったはず。しかし、昨夜はシェイラという異分子の登場で、結局大公とは話すことはなかった。しかしその息子のステファンは、クレアには本人が知らない価値があるのだ、と言う。


(そのせいで、お父様お母様が事故に遭い、レスターやエヴァンズ家を巻き込んでいるとしたら?)


 両親の死後、財産目当てでやってきた親族達から逃れるように、侍女だったマーサの家に一時的に引き取られた。

 その間に、婚約者のレスターの父、エヴァンズ伯爵が、ファインズ家の財産の整理をしてくれたのだが、予想外に残された遺産は少なく、使用人に最後の給金を払ったら、手元に残ったのはほんの僅かな額。母の形見として、装身具類とドレスをほんの少し持ち出しただけで、後は屋敷ごと他人の手に渡ったはずだ。

 エヴァンズ伯爵との直接の交渉は、マーサとマーサの夫のノックス男爵が担ってくれた。爵位返上と財産の整理を手伝う代わりに、レスターとの婚約を解消するとエヴァンズ伯爵から告げられた事は、マーサから聞いた。

 

 そして、手元に残った僅かなお金を全てマーサに渡して、辺境騎士団のメイドとなる為に、16の年に王都から旅立ったのだが。


 辺境へ行くまでの約1年、わたしはどうしていた?

 何故、遠く離れた辺境に行くことにしたのかしら?誰が辺境騎士団を紹介してくれたのだったかしら?


 記憶の糸を手繰り寄せる。



 そうだわ。マーサに言われたの。

 このまま王都にいるのは危険かもしれません。だから安全な場所を見つけます。その為に、メイドの仕事を多少なりとも知っておいた方が良いのでと言われて、家事を学んだのよ。


 マーサは泣きそうだったわ。クレア様がどこへも行きたくないと仰るのなら、いつまでもノックス家に居てくださっても良いのですよ。本当は、我が家の養女にと考えていたのです、と言ってくれた。でもわたしが断った。マーサ達に迷惑はかけられない。

 そんな時にランバート辺境騎士団のメイド募集の話があると聞かされて、面接に行って……。


 あの時、どこで誰と面接したのかしら?ユーイン様ではなかった。ランバート家のタウンハウスでも無かった。


 マーサに連れられて馬車で向かったのは王城だったわ。そこで、面接があって、翌週には辺境へと向かった。面接してくれたのは、あれはどなただったのかしら。


 ユーイン様のお父上の前辺境伯のお顔は存じ上げている。

騎士団のメイドにも優しく笑いかけてくださる方で、寮の使用人達はみんな、ランバート家の皆様を慕っている。その、前辺境伯様でも無かった。



 考えても悩んでも仕方ない。侍女としての仕事に戻ろうと、マリアンの着替えを手伝いに部屋を訪ねると、既に起きていたマリアンもまた疲労からか、目の下にくまを作っていた。


「そういえば、ゴールディング大公様が、クレアに直接お話されたかったようなの。

 今日明日にで使いを寄越すと仰ってたわ。こちらの事は気にしなくて良いですからね。」


 と、そんな話をマリアンから聞かされた日の午後一番に、ゴールディング大公家から使者が来て、クレア・ファインズ嬢をお迎えに来たと告げた。

 大公家へ呼ばれる事が前提にあったわけではないが、夜会のドレスを作った時に、外出用の物も作っておいて良かった、とクレアは胸を撫で下ろした。そのドレスは保護者代わりのユーインが贈ってくれたものだ。クレアの美しい青い瞳の色をしている。

 

 まるで辺境の空の色だわ、クレアはドレスを見て辺境を懐かしく思った。

 ソフィは仕事を頑張ってるかしら?ショーン団長との仲は進んだかしら?ふと頬を緩める。8年もいたのだからもはや故郷と同じ。

 


 ゴールディング大公家が寄越した馬車に乗せられたクレアには、タウンハウスの先輩侍女ソニアが付き添ってくれた。

 

「ソニア様、申し訳ございません。わたしなどの付き添いを頼んでしまって。」

「あら、何を仰います。クレア様は、元ではなく、今も伯爵令嬢なのでございましょう?閣下と奥様から、クレア様のお世話をする様にと直々に頼まれてますのよ。」

「え!」


 ソニアは、え、ではありませんよ、とクレアを窘めた後で

「こう見えても王都の情報には詳しいの、安心してくださって結構よ。それに、あのゴールディング大公様のお屋敷に伺えるなんて役得だわ。ありがとう、クレア!

 あ、馬車を降りたら貴女の侍女に専念するから、よろしくね。」と、実に頼もしい事を言って、クレアを安心させた。


 そうこうしているうちにゴールディング大公家に到着すると、玄関前にはすでにレスターが待ち受けていた。

 あまり寝ていないのか、疲れ切った表情だったが、クレアを見てにっこりと笑って、手を貸す為に近付いた。


 クレアもほとんど寝ていないので顔色はあまり良くない。2人してお互いの体調を心配している様子を見て、ソニアは

「全く、イチャイチャするのは人目につかないところでしてくださいね。」と小さな嫌味を言うのだった。


 クレアはレスターの求婚にきちんとした答えを返していない。ジョシュアへの返事も保留のままになっている。それでもレスターは、いつまでも待つと言った。


「クレアの心が俺に向くまで待つよ。婚約者時代の空白を考えたら、多少待つことなんてどうって事ないさ。」 


 何故レスターはそこまで想ってくれるのだろうか、わたしは彼の想いに応える事ができるのだろうか……

 自分に関わる秘密がわかったら、きちんと向き合って返事をしよう、とクレアは思った。

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。


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