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帰還

本日2本目の更新です。一つ前もお読みくださいませ。

 先程まで女だった人間が、気がつくと性別も年齢も変えてそこに存在している。それはあまりにも不思議な光景で。

 咄嗟に殺気を出すレスターに、腕の中のクレアは気を失いそうになりながらも必死に堪えた。


「おやおや、お嬢さんが怯えていますよ。それに、アトキンズ君、魔力がダダ漏れです。君はもっと繊細に制御出来るはずだろう?」


 ジェマーソンは口元を歪めて笑った。


「腑に落ちないという顔をしていますね。ふふ。知りたいですか?」


「お前は魔力持ちであり、魔道具で変身している、という事であっているか?」


「まあ、そうなるわけですが、訂正いたしましょう。わたしには魔道具は必要ありません。こうやってね。」

 ジェマーソンが指をひとつ鳴らすした次の瞬間には、20代半ばくらいの、妖艶な黒髪の美女がそこに現れた。

 体のラインにぴったり添った黒いドレスを纏い、長い黒髪はとぐろを巻いた蛇のように頭上に纏められている。紅を差した唇が、まるで捕食者のように動く。


「貴方達とはここでお別れのようだから、最後に本当の姿を見せて差し上げるわ。」

 ジェマーソンでありメリッサだった女は、少しずつ距離を詰める。

 レスターの殺気がさらに濃くなった。


「クレアは無関係だ。」

「そんな訳がないでしょう?だって、あのファインズ伯爵の娘なのよ。彼女にもなんらかの秘密があるはずなのよね。或いは魔力持ちとか、ね?

 あたしは農家の娘メリッサとして、貴方達の世話をする為に近付いて、クレアを観察したのよね。でも、何も見つけられなかったわ。」


「そうだろうな。クレアはお前とは違って普通の女だ。」

 レスターは挑発するが、謎の女は肩を竦めただけだ。


「まあいいわ。では当初の予定通り、この女は砂漠の国の後宮に売り飛ばすとしましょうか。」


 レスターは怒りに満ちて射殺しそうな視線を向けた。

 睨み合っていた時間はほんの一瞬、レスターと謎の女の耳に叫び声が聞こえた。2人の間に満ちていた殺気が弱まる。

 ドアの向こう側が騒がしい。


「あら、新手が来たようね。残念。また会いましょう。」


 女はすっと移動して壁際に立ち手をかざすと、そこには隠されていた扉が現れた。クレア達に別れを告げるようにひらりと手を振って、女は壁の中に消えた。

 と同時に、ドアを蹴破って入ってきたのはジョシュアだった。


「クレアっ!無事か!!」

「アトキンズ副団長ー!」

 

 彼らが見たのは、気を失っているクレアを抱えたレスターの姿だった。



 その後、クレアとレスターが囚われていた屋敷からは、行方不明になっていた近隣の農民達が多数発見された。

 すでに一部の娘たちは隣国へ売る為に連れ出されていたが、なぜか残されたままの売買記録によって、娘達の居場所を突き止める事が出来たので、隣国へと運ばれる前に救出した。

 もう少し遅れていたら、クレアもその中に含まれていたかもしれない。否、ファインズ家の娘であるクレアが魔力持ちかどうか調べる為に、砂漠の国の後宮よりも過酷な拷問或いは人体実験が待っていたかも知れなかった。


 ジョシュアは押収した資料や証拠を携えて第三騎士団に戻る事になった。 


「クレア、返事を聞かせて欲しい。」

 クレアに求婚したその返事を求めるジョシュアに、クレアは今はまだ混乱して返事が出来る状態ではない事を、正直に話した。


 あの日、メリッサの見ている前で、レスターに抱きしめられ唇に触れて良いかと尋ねられた時、クレアの手にそっと渡されたものがあった。

 レスターはクレアを求めているようなふりをしつつ、魔石をクレアに持たせたのだった。自分に何かあっても魔石の引き合う力でクレアだけは発見されるはずだとレスターは考えた。


 石の力は知らなくても、レスターの行動に意味がある事を察したクレアは、咄嗟の機転で、婚約者がどうのこうのと、話をダラダラと続けて、呆れたメリッサの目を欺いて隙を見て石を素早くメイドエプロンのポケットに押し込んだのだ。

 その魔石は既にレスターに帰したが、どうやらレスターは魔力持ちであり、それが自分達の婚約解消に影響しているらしい事、そしてファインズ家には秘密がある事、それらに納得していない今はまだ、ジョシュアの想いに応えられないと伝えたのだ。


「ジョシー、ずっと一緒に育ってきて、貴方の事は弟みたいに大切に思っている。その貴方がわたしを好きだと言ってくれるのはとても嬉しい。わたしは年上の行き遅れよ?結婚を望まれて嬉しいに決まっているわ。」


「それなら、僕の気持ちを受け入れて。」

「わたしはまだ辺境を離れられないないわ。」

「あんな危険な目に遭ったというのに?

 クレアはアトキンズ副団長を選ぶのか?あいつはクレアを捨てたというのに?」

「ジョシー、それ以上は駄目よ。」


 クレアはジョシュアを宥めるように、そっと唇に人差し指を当てて、その口から放たれようとしている言葉を止めた。

「わたしは自分の考えでここにいるの。レスター様は関係がないのよ。」


「じゃあ最後に貴女を抱きしめさせて欲しい。レスター・アトキンズに触れられた貴女を、僕の手で清めたいんだ。」


「……それでジョシーの気が済むのなら。」


 ジョシュアはクレアをぎゅっと抱きしめて肩に顔を埋めた。クレアの知っていた彼は、華奢で美少女と見間違うほど綺麗な少年だった。そのジョシュアは騎士団に入り、細いながらも無駄な贅肉が一切ない鍛えられた身体で、クレアを抱きしめている。


「さあ、ジョシュア・ノックス様。そろそろお戻りにならねば。

 王都にお帰りになられたら、母上のマーサ様によろしくお伝えくださいませ。

 クレアは逞しく生きていると。」


「他人行儀だ。なんで敬語?」

「お忘れですか?わたしは平民でございますよ。」


 クレアはまだ知らなかった。ファインズ伯爵の爵位はそのまま国王預りとなっており、クレアが配偶者を得たときに爵位が戻されるのだ。

 ジョシュアは敢えて伝えていなかった。爵位を目当てに求婚したと思われたくなかったからだが、彼の目的の一つは大恩あるファインズ伯爵家の再興だから、諦める事なくクレアに求婚し続けようと思うジョシュアだった。




 ひと月後。王城では御前会議が開かれた。

 王の叔父であるゴールディング大公は、9年前自領を荒らした漆黒の旅団に関わっていたジェマーソンが再び現れた事を持ち出して、国の威信にかけても漆黒の旅団を壊滅すべきだと大演説をかましたらしい。

 ランバート辺境伯から話を聞かされた、ショーン達辺境騎士団の面々は、それは難しいと思っている。


 漆黒の旅団が動いているという第三騎士団からの情報は根拠のないもので、これは撹乱するための情報操作ではないかと睨んでいた。


 何故なら、辺境の地の拉致された農民達はそう多くはなく、売られる筈だった女性と子ども達を連れ去るための売買契約書が偽物だったのだから。

 集められていた農民達は、抵抗した際に怪我をした者もいたがそれは治療されていたし、婦女暴行も行われていなかった。

 見張り役にたっていた男達は、ジェマーソンについて何も知らなかった。ただ、クレア達が閉じ込められていた部屋を見張るだけの仕事だった。

 レスターは暴力を受けだが、それは見張りとはまた別の男たちだったらしい。ジェマーソンと同じ組織の仲間だと考えられた。


 ジェマーソンと名乗った人物が、ゴールディング大公家の家令をしていた者と同一人物であったのか?など、多くの謎が残ってしまった。辺境騎士団はその後始末に追われている。


 そんな中、ブリトニーを連れて帰ったアトキンズ伯爵から手紙が届き、養子縁組が解消された事をレスターは知った。

 この養子縁組が、エヴァンズ家から自分を遠ざけて守る為のものだったと理解しているレスターはアトキンズ伯へ感謝した。ただ、自分を慕ってくれたブリトニーに対する申し訳なさが残ってしまった。



お読みいただきありがとうございます。

後半、端折った感が否めませんが、次回で第一部ラストになります。


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