30 愛情を持って伝えたいこと
入学式まであと数日。
まだまだ桜が綺麗だ。
こんな気持ちで桜を迎えられることに、僕はただただ幸せだった。
僕、加藤健は東京都の小学校教諭に採用された。着任式を終えたばかり。専門教科を教えるよりも、全科目を総合的に教える、子供たち一人一人のいろいろな良さを発見して伸ばしていく小学校教諭を選んだ。
小学校での楽しい思い出は、誰にも負けないくらいたくさんある。素晴らしい友達がたくさんいた。また会いたい。……彼はどうしているだろうか。近々連絡してみよう。
今日は、大学時代の友人の結婚式だ。
結婚式会場のホテルに行くと、平山家・高橋家と書かれた、一目でわかる華やかな両家のお客様でいっぱいだった。
僕が招待された高橋の友人席は、2つのテーブルがあり、同期で仲良くしていた大学の教養科目時代の友人達が集まり、他には高橋が後に入学した音楽大学のピアノ演奏科の友人と、ピアノ演奏科以外に高橋が伴奏していたという、それぞれの楽器専攻の男性陣がいて、皆初対面でも盛り上がっていた。僕は音楽が好きだったから、とても楽しかった。
その中に、僕が通った国立の小中高から音楽大学に進学したピアニストの槇慎一がいた。高橋という共通の友人がいるなんて、新しい発見だった。慎一とは中学からクラスが別だったが、小学校では六年間同じクラスだったから、久しぶりに話せて楽しかった。慎一は大好きな友人だ。
慎一は既に結婚したらしい。薬指に、銀色に光る指輪をしている。早いな!高橋にもびっくりしたのに、更に上手がいたとは……。早婚が流行っているのか?
「君がずっと可愛がっていたっていう、幼なじみの小さい女の子と?幸せそうだな。よかったね」
きっとあの子だ。名前が出てこない……慎一が手をつないでいた……初めて見た時は年長さんで、小さくて可愛かった。
「今、ここにいるんだ」
慎一は笑って、彼女を目で呼んだ。
そうだ、かおりちゃんだ!
かおりちゃんは、白い肌に淡い桜色のワンピースで、僕に丁寧に挨拶をした。指輪を通したネックレスが、胸の前に揺れていた。
「まるで恋人だね」
僕は素直に羨ましかった。
その子が可愛くて。
慎一が幸せそうで。
僕が思わずそう言った時、慎一は照れていた。慎一とは、幼稚園からずっと友達だった。大人の男らしく、いい表情をしていた。
「前にも言ったね」
「前にも言われた」
僕達は笑った。
ピアノの生演奏が始まった。弾いているのはかおりちゃんだった。新婦と親友なのだとか。彼女達も、幼稚園からずっと友達だと知った。何て素敵なんだ。僕は、改めて顔が綻んだ。
「おめでとう」
「ありがとう……って、今日は高橋におめでとうを言う日だよな」
僕達は笑った。
いいや、何回でも言ってやる。
おめでとう。
結婚していても、まるで恋人だ。
慎一は、あの可愛い彼女のために、ずっと格好いい男でいるだろう。
長年見つめ続けた大切な相手。
美しい音楽の世界にいる人。
僕達にそれを与えてくれる人。
幼少期より良い環境の中で良い教育を授けられ、あたたかい人々に恵まれた、素晴らしい文化の継承者。
僕も教育に携わる人間として、僕が関わる全ての子供達に、愛情を持ってその心を伝えていこう。
美しいピアノの音を聴きながら、僕はそんな誓いを立てた。
完
本編である槇慎一の大学生活の物語はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n0534gw/




