25 俺に任せろ!
シンイチのお母さんが帰ってきたのかと思ったら、お父さんも一緒だった。
「あら、シンイチのお友達?こんにちは」
本当に、あのコンサートのプログラムの綺麗な写真の人だ。ドレスじゃなくてスーツだけど、本物だ!
「こんにちは。お邪魔しています」
僕は立ち上がって挨拶をした。
お父さんも。シンイチと同じ顔だ。
「お友達か?食べていく?それとも、時間が気になるなら送っていこうか。家はどこ?」
親しげに聞いてくれた。僕は「板橋区です」と答えた。そうだ、そろそろ帰らなきゃ。
「車なら40分だ」
お父さんは、お母さんがリビングから出て行った隙に、僕とシンイチだけにこっそりと言った。
「ごめんな。るり子、今機嫌悪いから。すぐに帰ろう。送ってく」
お父さんは向きを変えて、かおりちゃんを自分の方に手招きした。そして、ゆっくり優しい声で言った。
「かおりはこれ持っておうちに帰りな。これ、ママにお土産。クロワッサンのサンドウィッチだ。具がたくさん入ってるから、大きなお皿の上で食べろよ」
お父さんは、かおりちゃんの頭をポンポンとした。
「ありがとう」
かおりは僕達皆にお辞儀をして、クロワッサンの包みを両手で抱え、小さい声でさようならと言って一人で出ていった。
「かおりちゃんは?」
「この真上。社宅なんだ」
シンイチは手で上を指した。なるほどね。いろいろ納得。
三人で車に乗った途端に、シンイチのお父さんが謝った。
「悪かったな。実はさ……あ、これ食べてろよ。こっちはカツサンドとか、ガッツリしたもの。飲み物はこっち」
「すごい大きさ!お父さん、ありがとう!」
シンイチが食べ物を見て歓声を上げてる。友達みたいな親子だな。
「ありがとうございます」
「どうぞ。実はさ、るり子の知り合いの知り合いの、そのまた知り合いか?るり子は『そんなの知り合いじゃないわ!』って吠えてたけど。音大目指す女の子に、法外に高額レッスンを売りつけるような真似をしやがる人がいるらしくて、カッカしてんだ。あの通り正義感が強いからさ、聞いてるだけで俺が刺されるかと思ったよ」
「お父さん、何とか助けてあげたいから協力してよ!」
「あ?ここにも正義の味方がいたか。誰が困ってるんだ?」
「僕の妹と、僕の家族です」
僕は、正直に打ち明けた。
カツサンドを持った手が、ガタガタ震えた。
「俺に任せろ。芸術はそんなもんじゃない。学ぶことは尊いこと。誰にも邪魔されない、清く正しく、明るい道を進め」
シンイチのお父さんの言葉に、僕はそれ以上、カツサンドが入らなくなった。




