23 早くしゃべれ!
僕は、シンイチに話したかったが父親に止められていて話せない。
ある時、坂井を見つけた。坂井も附属上がりでシンイチの友人だ。小学校では、加藤が二人いたから僕はタケルと呼ばれていたし、槇は下の名前が「マキ」って女子がいたからシンイチと呼ばれていた。坂井は坂井だった。
「坂井!ちょっといい?」
僕は坂井に駆け寄った。
「あぁ。タケル、何組になった?」
「僕は、1組。坂井は?」
「こっちは4組」
「シンイチは?」
「シンイチは……あ、出てこない。忘れたー」
「ごめん、クラスじゃなくて元気かどうか。最近見た?」
「昼に図書館行くとこ見たけど普通だったぞ」
「そっか……」
「おい、お前が元気ないように見えるんだが」
「うん、ちょっと……今言えないんだ。ごめん、ありがとう」
どうしようかなぁ……。その翌日も翌日も、僕は、妹とお母さんのことで頭を悩ませながら、早く帰宅する気になれず、毎日違う部活動をぼんやりと見学していた。
月曜日は将棋部。
火曜日は合唱部。
水曜日は弦楽部。
木曜日は囲碁部。
今日、金曜日は……。
「加藤君?今から吹奏楽行くけど、見学行かない?」
名前は確か……名札を見た。倉上か。
「行く」
「よかった。一緒に行こう。坂井君!また明日ー!」
「あ、倉上に……タケル、じゃな!」
坂井は走っていった。速いなー。
「倉上君、坂井と知り合い?」
「うん、子供の頃サッカーチームが一緒だったんだ」
「へえ?それで吹奏楽に?」
「うん。サッカーはもういいや。吹奏楽は女子もいるし、男子も結構いるしさ。音楽も好きなんだ。加藤君、音楽関係を見てたみたいだから。好きなの?」
「うーん、やったことはないけど、楽譜が少し読める位で……」
吹奏楽部が使う音楽室は、教室棟から離れた棟にある。中学の校舎にはまだ慣れていない。階段を降りて、渡り廊下を、新しく友達になった倉上君と話しながら歩いた。
そこまで言った時、角を曲がってきた人とぶつかりそうになった。シンイチ?
「すみません!……あ、タケル!探してたんだ!」
僕を、探した?走ってきて、息を弾ませているシンイチを見て、僕は……僕を悩ませ、緊張していたものが一気に解けて、泣きそうになってしまった。
「タケル、どうした?まだ怒ってるのかな?って、心配になって……怒ってない?」
何のことだよ……何でもいい。
「怒ってなんか……ごめん、倉上君、今日行けない。また今度行く」
「加藤君?うん、わかった。また今度」
倉上君とシンイチは、お互いにどうも、みたいに頭を下げた。
「タケル、今日僕の家に来ない?」
「行く」
僕は、もうそれだけでシンイチの優しさに救われた思いだった。
吹奏楽部の見学に行ったことにすれば、多少遅くなってもいいか。そこまで思ってから、僕のことはあまり心配されていないことに気がついた。
歩きながら、シンイチは優しく聞いてくれた。
「前に、話したいことがたくさんあるって言ってただろ?まだ、ある?」
「ある」
「よかった」
「シンイチ、聞き出すの上手いな」
僕は、何だかシンイチの弟になった気分だった。
「かおりは、ほとんどしゃべらないんだ。でも、音と表情でわかるから」
「まるで恋人だね」
僕は素直に羨ましかった。可愛かったその子を思い出した。僕の妹ももちろん可愛い。そして大事な妹だ。
僕がそう言った時、シンイチは意外なことに照れていた。シンイチとは、幼稚園からずっと友達だったけど、初めて見る表情だった。
「誰にも言うなって言われたことがあって、辛かったんだ」
「誰に口止めされたんだよ?」
「お父さん……」
「お父さん?意外だな。僕は会わないし、言わないから大丈夫。タケルの心がヤバそうだから、早くしゃべれ!」
僕は、シンイチの口調が可笑しくて笑った。
僕はシンイチの家に向かいながら、高田先生に話したことと、その続きを話した。
美桜がシンイチを好きなことは話さなかったが……。
話し終わると、シンイチは少しの間黙っていた。
「僕もタケルに話したいことがあったんだが、こっちが解決してからだな」




