004―1 4回目の憑依 ~一騎討ちするときは体力ゲージに気をつけてね~
―― 184年1月 春 ――
……また始まった。
『蒼天已に死す!』
からの――
――西暦184年、中華全土を天下泰平へと導くため各地で群雄たちが声を上げた……。
きっちりオープニングから始まる4回目のループ。
「孔伷様、ご命令を――」
「ひいぃッ!?」
急に話しかけんな! はあ、心に刻みつけられた死の恐怖が消えない。これはある意味デスゲームに近い、クリアするまで出られない的な……。
そして仮に違う世界線にいるとしても、黄巾軍になろう作戦は無理筋かも。
だって張角の顔を見たくないもの。
なんだよ、あれはッ! 反則だ、プレイヤーにダイレクトアタック出来る能力とか闇のデュエルで充分だろうがッ!!
あーもう、嫌だ。何もしたくないよ。
「孔伷様、ご命令を――」
このマイペース能面マンめ、毎回毎回同じことばかり!
「うるせぇ、この野郎ッ! ……ぶべらッ?」
「――私の名前は漢文官禰と申します。名前はきちんと呼んでいただかないと困ります。ついつい手が出るやもしれませぬゆえ」
すでに手が出てますゆえ? 痛い、君主殴ってるやん、忠告の後付けとかないわぁ。
「ごべんなざい、少々整理しますのでお時間ください……」
痛みの感覚が孔伷さんじゃなくて孔伷に来たよな……。とにかくまずは情報チェックからしよう、世界線が違うから同じ1月じゃないはずだ。
譙の在野に誰かいる……。もしかして荀攸チャレンジ開幕ッ!?
「おう……」
期待を裏切るネズミ顔。どじょう髭の出っ歯――
『曹豹』
「曹豹!? なんで1月に譙にいるんだよ! 陶謙の部下じゃないのか?」
武力69以外は20未満の能力、張飛にぼてくりこかされたことを恨んで呂布を招いたヤバい奴。三国志ファンの中ではかなり有名キャラだ。
正直、猫の手も借りたい状況下で、なおかつ孔伷さんに足りない武力を持つ男。勧誘したい、でも駆け引きの下手な孔伷さんが断られた日には一月無駄になるうえに、精神的に辛い。
……しかし生き残るためには手数は必要。
「城下にいる曹豹殿を登用したい」
「――御意」
◇
うーん、見るからにネズミ男。もしも登用できたら全身がすっぽり入る灰色の外套をプレゼントしたい。
「――曹豹の力が必要なのだ」
色々飛ばして孔伷さんの決め台詞。
「ちゅちゅッ! 黙れ奸賊……その手には乗らんっちゅ!!」
かかかか、奸賊ッ? いつもの学習しない口説き文句への返答が、奸賊だとぅ?
奸賊……心がねじけて邪悪な人。憎むべき悪人。
「おいいいいいッ! 太守に何てこと言いやがる、この無礼ネズミめッ!!」
それはもう激おこプンプンで帰ってきたよ。
「――曹豹の登用に失敗しました」
「はっ! あんな奴、こっちから願い下げだ!」
今月の貴重な一回が溶けた……。
◇◇◇
―― 184年2月 春 ――
「孔伷様、ご命令を――」
おう、一応人材チェックから始める。いや曹豹が在野にいても登用なんかしない、なんて言わないよ絶対。人手不足でなければ……っていない。
あれぇ、アイツどこ行った? あ、陳留の在野に荀彧先生だ。こっちに流れてこないかな……。
え、マジで在野にいないぞ。1月の行動終了までは譙だよな、こっちの行動が終わったあとに2月に移動、陶謙のターンで登用されたとか? 近隣の武将情報――
「アイツぅ! 陶謙の部下になっとる! しかも忠誠92って高いッ!」
まさかマジで埋伏だったとか? ただでさえ人と時間が足りないのに計略とかやめてくれ。
なんかループ重ねるごとに状況が悪化してないかこれ?
「孔伷様、ご命令を――」
えー、どうしよ。
張角媚びルートはアウト、そもそも地理的に汝南、宛の張角軍は譙を取らないと平原につながらない。
正史なら各地で乱が勃発ッ! なんだろうけど、この世界だとこうなるのか。
「理不尽すぎる。そりゃ俺と同盟するぐらいなら、攻めて領地が連携取れるように俺でもするわ! くそッ!」
ぐぬぬッ!
「孔伷様、ご命令を――」
どうする、孔伷さんの政治力で登用できる気が全然しない。早ければ来月の終わりに張角が来るぞ。
孔伷さんの得意分野は計略――あ!
【流言】……敵対君主のあることないこと噂で流そう
【作敵】……戦争のときに寝返ってくれる武将を作ろう
【駆虎】……野心ましましの太守をそそのかして独立させよう
【扇動】……住民の不安を煽って戦争のときに反乱してもらおう
【工作】……お城の壁を破壊しよう
【埋伏】……配下を敵対君主に仕官させて不協和音を奏でよう
さすが計略、色々とえぐいな。
「くくっ、味方と思ってた奴から背後をつかれるのってどんな気分だろうな……」
ここは一つ【作敵】を仕掛けようじゃないか。
「――誰に作敵の計を仕掛けますか?」
「それはもちろん張角軍の――」
◇
――汝南に来ています。
元ネタは佐賀県のローカルCM、松露饅頭。美味しいよ。
さあ、孔伷さんが張り切って訪れたのは譙の西側にある汝南だ。
今回のターゲットは――龔都。
張角の死後は、袁紹、劉備と君主を変えながら乱世を生き抜いている逞しい奴。相棒の劉辟も汝南にいるけど、彼は張角に対して忠誠94とどっぷり太平道にハマってらっしゃるので無理だった。
そんなわけで目の前には龔都がいる。さすがに家の中には上げてもらえず、近所の酒店で密談することになった。
「これは孔伷殿、わざわざこのようなところまで何しに参った?」
「おや、何しにとは辛らつなお言葉。汝南に立ち寄ったのであれば龔都殿に挨拶せぬまま帰るわけにはいくまいよ」
「ほほう? 孔伷殿にそのように言ってもらえるのは悪くないな」
龔都がにやりと笑ったぞ。うおお、知力ブーストのせいか反応がいいぞ! 普段のおっとり丁寧な話し方は消えて、悪巧み大好きなフリートークで結構盛り上がってる。おっといよいよ本題か。
「――そうだ、間もなく我ら張角軍は譙を攻める予定だ」
うーん、やはりそこの流れは変えられないのか。
「うむ、そこで龔都殿に頼みがあるのだ。龔都殿も恐らく譙攻めに加わるはず、そこで汝南太守の管亥の背後をついてほしいのだ。無事に作戦が成功した暁には金1000の報奨金と将軍として迎え入れたい」
ご褒美は1回金100だったし、10回も渡せば忠誠度も100になるだろう。兵士を多く持たせるためには将軍職に就かせる、これも当たり前のこと。
嘘は言ってない。反応は悪くなさそうだが返答は――
「うーむ、もう少し高く評価してほしかったな。わしも寝返りをするのであれば相当の覚悟が必要だ、すまぬが来月まで考えさせてくれ」
「そうか、龔都殿とこうやって契りを交わせただけでも僥倖であった。あ、そうそうコレをお渡しするのを忘れておったわ」
孔伷さんが懐から巾着袋を取り出した。ずしんと机に置いた拍子に袋の口が開いて中から銅銭が見える……。
「おお! 孔伷殿、これからもお互い良い関係でいこう!」
龔都の目が少し輝いたような。今回は失敗したようだけど、少しは親密になれたかな。
孔伷さんも満足気に帰国している。まあ確かに今までの武将応対の中では一番良かったけど――
あのやり取りは、木っ端貴族と悪徳商人の悪巧みにしか見えなかった。
帰ってきて漢文に言った孔伷さんの一言。
「ふむ、今回はしくじったが龔都殿の心は揺らいだようだ。――もう一押しだ」
ニチャッとした顔! 孔伷さん、表情に出てるから気をつけて!
まあ龔都の忠誠度が83に減ったし、ぶっちゃけ俺が憑依してから一番の成果な気がする。
―― 184年3月 春 ――
幽州楼桑村にて――
はい、カット! もういい、だって孔伷には一ミリも関係ないからね!
「孔伷様、ご命令を――」
さて、このままだと来月か再来月には黄巾の人たちが来るだろう。龔都の忠誠83、登用か作敵か……訓練はもう遅いよなぁ。
「ここは得意分野で勝負だ」
「――汝南の龔都に作敵の計を仕掛けますか?」
「うむ」
レッツらゴー!
◇
はい、先月ぶりですね。ちょっと龔都の様子がおかしい、なんかそわそわしてる。
場所は前回と同じ酒店だ。
「やあやあ孔伷殿、先月ぶりだな!」
席を立って孔伷さんを迎えてくれた。目が笑ってないけど、暗殺とか企んでないよな? もう一発で首が跳ね飛ぶ自信あるぞ。
「すまんな、龔都殿に先月のことでもう少し話がしたくてな……」
「あー、あれか! 先月の……なあ、うん!」
歯切れ悪うッ! リアクションの悪い龔都を見て、孔伷さんもなんとか巻き返そうと頑張ったけど――
「――あー、すまんがそろそろ戦の準備がある。……例の件ならば前向きに考えておくからご安心めされい」
う、やっぱり来月ぐらいに張角軍は……。
「おお! そうか! いやあ龔都殿がいてくれれば張角など敵ではないわ。ああ、そうだ、今月もこちらを――」
じゃらりと袋から銀銭混じりのお金がちらり。
「ああ、うむ。いただこう」
懐にしまうスピード中華一だな。さすが盗賊、手際がいい。
「せ、説得できぬかー、き……龔都の忠義、誠に見事ッ! あー、張角殿がうらやましーなー!! いやもー、本当にー困ったぞー!」
酒店を出た孔伷さんが信じられない行動に出た。
――多分だけど、張角軍の密偵に計略が失敗したと思わせるための大声だとは思うけど……演技下手くそかッ!
頭を抱えたあとに、周囲をちらちら見るなって。
さてと……、そろそろ俺も覚悟を決める必要があるよな……。
――ゲームではない兵士を、人を、肉壁にする覚悟を。え? 俺はなるべく死にたくないから逃げるよ。
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