003―2 3回目の憑依 ~当事者意識って大事ですね~
―― 184年4月 夏 ――
『各地で住民反乱が起こっています』
蒼天すでに死んでますしおすし。
『北平の住民が圧政に対し立ち上がったようです』
公孫瓚、何やってんのよ。まあ、対岸の火事だし気になる情報でもないな。
「孔伷様、ご命令を――」
やっぱり張角、だよなぁ。いきなり同盟だったのが不味かったのかもしれない。
「張角のところに進物を届けてこようと思う」
全力で媚びていこう! 米5000ッ! 使者は孔伷ッ!
「――では準備をして参ります」
「あ、そうだ。ほら先月受け取ってもらえなかった米俵あるじゃん。あれ持ってくから」
食べ物は粗末にしてはいけない。地球と財布に優しいリサイクルだ。
「――あの米はもう賞味期限が切れておりますゆえ」
「賞味期限は美味しく食べれる目安、消費期限はまだ先だから大丈夫。どうせバレないって」
そんな細かいところ気にすんな!
んんんん~? って孔伷さん、そんなに首を捻ったらねじ切れるよ?
◇
またまたやって来ましたよー! 黄巾の人たち、ビビってるね。
――おい、あいつ先月あれだけバカにされたのに、また来たのか?
――しっ! 聞こえるぞッ! 鴨がネギって奴だろ、ほっとけ!
「ん?」
え、何かこっち見てひそひそしてるから、視線を向けたら露骨に顔を逸らされた。まあ、敵対70なら兵士も孔伷さんの顔なんて見たくないか。
孔伷さんはそ知らぬ顔で、執務室まで進撃してさくっと張角の前に進み出た。両膝折りの拱手しながら額を地べたにタッチング。最上級の媚び、姿勢がとても綺麗です!
「また貴公か……本来なら殺してやるところだが、その蛮勇に免じて話ぐらいは聞いてやろう」
気のせいか張角が引いてる。つまり――チャンスだ。
「この孔伷、貴国との親睦を深めるため参上した。ぜひ受け取ってくださいませ、へへー」
どうよ、この下から下からの媚び台詞は。孔伷さんが『この孔伷』って言い始めたから、俺が主導権握って修正した。危ないところだった。
「ふむ……」
お、張角が顎に手をやって考えてるぞ! いいぞ、効果ありか?
張角がちらりと視線を横にすると、なんかしかめ面のおっさんが口を開いた。
「――怪しいですなぁ。我が君におかれは言わずもがなではございますが、あえて申し上げます。ただより高いものはございません、そのような物受け取りなさるな。――それとその米俵、ずいぶんと汚れておりまする。もしや先月の献上品を使い回しておるのではないですかな?」
こんのチョビヒゲ野郎ッ!! 誰だてめぇ! 米俵が先月の物とか、余計な事実を言うんじゃない! ああ、もう名前が分からんっ! 孔伷さん、とりあえずガン飛ばしとけ! おぉん?
「金品で人の心を動かそうとは貴公、そこまで墜ちたか! さっさと立ち去るがいいッ!!」
あ、やべ張角がマジ切れしてる。白黒反転やめて……。
「残念だぞ、貴公ほどの英傑な――「帰れッ!」――らばわかって――「こいつを叩き出せッ!」――くれると信じていたのにな……」
城門でぺいってされた。米俵も受け取ってもらえなかったよ……。
米俵乗せた早馬が譙に戻りますよー。
「――孔伷様、お帰りなさい……」
あれ、もしかしてもう失敗した情報が届いてる? 顔がひくひくしてるけど、こないだのお説教リターンか? ここはうまく誤魔化さねば――
「わしの好意を無にするとは……先が見えぬ御仁ゆえ、誠意が伝わらなかったのだろう」
「――誠意のある者は贈り物を使い回しませんゆえ。孔伷、ちょーっとだけ、お時間いただきますね」
あ、お説教確定……。このあとお説教ねちねちされて1ヶ月が終わった。
と、思ってたら喬玄から外交の使者が来た。
またご本人登場、金1840で同盟やろうぜって。
「たとえ喬玄殿の頼みとあってもこればかりは……」
お断りしておいた。攻めてこない保障よりも救援を送ってくれる保障がほしいのよ。
◇
『孫堅軍が寿春へ攻め込みました』
あ、劉繇が負けて落ち延びた。
『張角軍が譙へ攻め込みました』
あるぇ? 何で……。
漢武官志――前の漢部きゅんと似て非なる武官が、俺にオーバーキリングマシーン張角の殺意ましましの兵力を伝えてくる。そして――
「――出陣武将を選んでください」
「俺しかいねぇ!」
ここでお別れだよ漢文C。次にまた憑依するようなことがあれば、また会おう。
悲壮な決意を持って孔伷さんは戦場へ向かう。まあ、首ちょんぱを生で見るのは精神的にキツいけど、今のところ俺自体は痛くない。むしろ戦場にいるときの汗臭さとか、緊張感の方がキツい。あいつら捕縛するときが結構扱いが荒いんだよな……。
お城を取られる、森に隠れた俺の部隊が全面降伏する。これが一番スマートな負け方。ループも3回目となるといい加減慣れてくるよね。
嫌な慣れだけど――
『孔伷軍のすべての城が陥落しました』
『孔伷軍の孔伷が捕らえられました』
はい、ワンツー! 開始から3日でお城占拠からの捕縛ッ!!
もう正直やる気ないし、出来れば憑依剥がしてくれんかな……俺をこんな目に遭わしてる誰かさんよおッ! ……俺が何をしたというんだよ。
『孔伷軍の敗北です』
はあ、処刑台に孔伷さんが座らされ、張角と最期のフリートークからの首ちょんぱの流れ――
「……今日で貴公と会うのは三度目か、一度目はバカな条件の同盟、二度目は古米5000ごときでわしを懐柔しようと目論み、いざ戦いとなると臆病にも民と城を捨て矛を交えることもなく降伏するとは――情けないッ!」
うわ、めっちゃ孔伷さんが怒られてる。動くのは孔伷さんだけど指示してるのは俺なんだよなぁ。でも結果的には兵士の命を守ってやったんたんだぞ、戦えば肉壁が傷つくし、ときには肉壁の一部が亡くなることだってある。
「どの口で天下泰平を語った? どんな志を抱いてわしの前に来たのだ? 貴公の覚悟の無さには虫酸が走るわッ!」
ええぇ! だって孔伷さん、文官タイプなんですもん。枯れ木に花を咲かせる系のメルヘン腹黒ですもん。勝手なイメージだけど。
「…………」
見てよ、べっきべきに心折られて諦めの境地にいる孔伷さんをさ。今からでも雇ってくれませんかねぇ? って俺が憑依してるせいで無理なのか? くそが、バカバーカッ!
「うっさい、はよ殺せよ! バカバーカ!」
あ、やべ孔伷さんの口から飛び出ちゃった! 張角よりも周囲の奴らが剣に手をかけたね。張角はじっと孔伷さんの顔を見てる、こっち見んな!
「む…………なんだこの気配は? 貴公、いや貴様は何者だ?」
え? 今の張角は俺に話しかけた? 俺を見ている? 白目と黒目が変えてまで凝視しないで……恥ずかしい。
「――なるほど、清談高論の得意な孔伷殿とも言えぬ立ち居ぶるまい……。おかしいと思っておったのだ、どうやら貴公には別の魂が混じっておるようだ」
これガチで俺のこと言ってるぞ。え、やめて孔伷さんの頭を掴まないでくれます? なんかごにょごにょと呪文を呟き始めたよこの人ッ!!
「ふむ、この乱世を生き抜く覚悟がないのは貴様だったか。死を孔伷殿に肩代わりさせるから恐怖がないのだな、良かろう。わしの力でこれからの事を実感させてやろうぞ!」
これからの事を実感ってなんだよ! なんだやべぇ、語彙力が低下するほどやべぇぞ! なんか黒雲と風がびゅうびゅう吹き始めてるし、遠くで雷鳴が……。
「こおおおおおおッ! かああああああああッ!!」
――ピシャッ!
あばばばばばばばばばッ! 熱くて痺れる痛みがあああああッ!!
「どうだ、これが痛みだ。よし、殺れッ!」
え、ちょ……。ゆっくり振り下ろされる剣が俺の首に触れた。
「冷た――」
『孔伷は張角に斬られました』
冷たい、痛い、恐い、死ぬぅ! って死んだあああああ!!
なにこれ死んだのに痛みが終わらない、苦しい、辛い…………。
『世に聞こえし孔伷、今ここに散らん……』
…………。
『孔伷の一族は、歴史からその姿を消した……』
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