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002 2回目の憑依 ~自称、漢王朝の臣ですが何か?~

―― 184年1月 春 ――


『蒼天已に死す!』


 中華全土を駆け巡った1つの言葉が漢王朝400年の歴史に終止符を打とうとしていた。


 自らを「大賢良師」と称し、蒼天――漢王朝に代わり天下を平定させるため教主張角は鉅鹿の地で立ち上がる。党員たちは黄巾を身につけ、各地で反乱を起こした。中華全土を巻き込んだ農民反乱に動揺する漢王朝は、すぐさま皇后の外戚である何進(かしん)を大将軍に任命し、事態の収拾をはかる。

 そして、各地に派遣された官軍と黄巾党員の永きに渡る戦いは、群雄たちの野心を刺激していった。


――西暦184年、中華全土を天下泰平へと導くため各地で群雄たちが声を上げた……。


 ん? 終わってない……?


「孔伷様、ご命令を――」


「おおう? お前……漢文官英か?」


 4日前の出陣するときに会って以来の能面宦官の漢文が目の前に立っている。


「――孔伷様、我が名は漢文官備(かんぶんかんび)と申します。我が一族に官英という者はおりませぬゆえ」


 え? そっくりさん? 声も姿も同じ、兄弟姉妹でもないのか。


「……そうか」


 ……過去に戻ってるわけではない? 官英が存在せず、官備が存在する別の世界線、つまりこの世界の孔伷は死んでなくて、俺も引き続き憑依している状態だと。


「孔伷様、ご命令を――」


 急かすな、待て! 頭の中を整理しよう。小窓にはやっぱり孔伷さんがいて、勢力図を見るとうちの領地状況も前回と同じ、人も足りない、敵に囲まれている。なら1月から何をやればいいか。最悪の場合、4月には黄色い奴らがやってくる。


 いつかこの世界で後宮ハーレムを築くためにも、孔伷さんには是非とも生き長らえてほしい。


 てなわけで、まず人材不足の解消と忠誠度の低い奴らのデータチェックから――


「ッ!?」


 譙の在野に誰かいる、誰だ?


荀攸(じゅんゆう)


「ぶほッ!」


 思わず噴いてしまった。


 荀攸といえば曹操の幕僚、荀彧の6歳年上の甥……年上の甥? いやまあ深いとこまで突っ込まない。この時期なら何進の配下かと思ってたけど里帰りの途中で譙にいるとか?


 知力95、政治90、魅力82のハイスペックな荀シリーズ、武力も孔伷さんよりは高いし何より軍師として頼れそう。


「ちょっと荀攸をスカウトに行ってくるわ!」


「――荀攸を登用しますか?」


「荀攸さんな? 君ィ、荀攸さんに失礼したら許さんからね!」


「――はい」


 もう居ても立ってもいられない! 頭を下げる漢文を尻目に荀攸のいる宿屋へ走れ、孔伷さん!


――すた、すた、すた、すた、すた……。


 いやもう遅いぃ! 走れえ! 優雅に歩くなッ!



 とまあ俺は勝手に焦ってたけど、今月が終わるまで荀攸さんは動かないはずなのだ。だってゲーム風味だから。


「わしは孔伷、譙の太守をしている。今日は荀攸殿に話があって参った」


「本日は私のような者に太守様が会いたいと聞いて、大変驚いておりました」


 うーん、爽やか! 渋めの伊藤英明風のマスクに、都の職人技が光る蒼い漢服の男、荀攸さん。孔伷の老け顔も慣れてくると愛嬌があるんだけど、完全上位互換の軍師タイプを目の当たりにすると憑依(チェンジ)したくなる。――多分無理だけどねッ!!


「今は乱世、貴殿のような若き才覚をわしの元で発揮してほしいのだ。どうだ、わしにその命を預けてくれないか」


 お前の命、俺に預けろ! 頼む! ……あれ、この展開は――


「ふっ、国賊め……その手に乗らんぞ!」


 んへえ! まだ何も悪い事してないはず! え、孔伷さん何かやらかしてた?


 ああ……、孔伷さんがぺいっと放り出された追い出された。君主だし太守なのに……屈強な護衛に担がれてお外にぺいってされた。


 すごすごと帰る孔伷さん、あんたの背中……すすけてるぜ。


「荀攸の登用に失敗しました」


 知ってるよ! この際、呼び捨ては構わんが、孔伷さんへの死体蹴りやめてやれ! ほら、孔伷さんのつぶらな瞳ダムが決壊してるぞ。


 ……そして今月の行動は終了か。来月も荀攸いるかな? いてくれ!



◇◇◇


―― 184年2月 春 ――


 どこそこで同盟活動が始まった。陶謙たちから同盟持ちかけられたら、今度はどうしようか。


 断ったら敵対数値って上がるんだっけ? 一応、今のところ敵対20と低い。張角は70、こっちが嫌っているのか、向こうが嫌っているのか……。


「孔伷様、ご命令を――」


 おう、そうだ。それより命令の時間だ。在野チェック――


『荀攸』


「よし! まだいてくれたよッ! 登用するぞッ!」


「荀攸を登用しますか?」


 リベンジよリベンジ! 国賊呼ばわりされてもプライドなし、孔伷さんは心なしか嫌そうだな。でも関係ない、傷ついたのは俺じゃない。


 はい、そんなわけで再び宿屋に訪問なう。


「どうだろうか、貴殿のような若き才覚――「国賊め……何度来ようとも私にその気はない!」――が欲しいとか言ってないし! どうだろうかって最近どう? って聞いただけだし! 勝手に勘違いしてバカバーカッ! ――「……太守様がお帰りだ」「――はい」――おい、なんだよ! わし太守だぞ! おい、やめッ! 痛ッ! ちょ、ぐあああああ!」


 口説き途中で食いぎみに断られる孔伷さん、途中だったから無理やり路線変更して口汚く罵りだす孔伷さん、そのまま屈強な護衛に両脇抱えられてお外にぺいっ! 今ここ。


 孔伷さんの素って俺と同レベルなのか? だから憑依先になった? いやいや。


「荀攸の登用に失敗しました」


「そんなん知ってるわいわいわいぃ!!」


 はぁはぁ、漢文の挑発スキルたまんねぇな! 戦場で会ったら100パー挑発される自信あるよ。


 はい、2ヶ月目終わりッ!


◇◇◇


―― 184年3月 春 ――


『我ら義兄弟となり、中華全土に安寧の日々が訪れるその日まで共に戦い抜くことを誓う!!』

『おおッ!』

『我ら、生まれし時は違えども! 同年同月同日に死なんことを天に願うッ!!』



 うっるせええええええッ! ヨコヤマ三国志のときは大ファンだったけど、今は妬みしかねえわ。


 もう3月、下手したら来月か再来月には孔伷さんの命運が尽きそうなのだけど。


『喬玄と韓馥が同盟しました』


 引き続き同盟活動が進んでいるけど、今回は誰もうちに来ないな。来たら断ってやろうと意識してると来ないのか。


 さて、荀攸はいるかな? 三顧の礼ってやつだ。


「孔伷様、ご命令を――」


 えーと、荀攸は――汝南か。そこ黄巾の人が支配してるとこだぞ! ガチ国賊のとこだぞ! 荀攸が黄色い巾を頭につけてるとか想像つかない。


 うわぁどうしよ、荀攸がダメなら情報で忠誠の低い武将をチェックするしかない。


 袁術の甥の袁胤、袁術の配下で韓胤、前回振られた周倉……、袁術ッ! 忠誠86、そうか今は何進の配下やってんのか。


 誰に行くかを考えると、忠誠が周倉より高いけどネームバリューと能力値で――袁術、君に決めたッ!!


 場所は弘農(こうのう)か、馬で行って袁術と交渉、そして戻ってくる。


 ……普通に考えると1ヶ月で戻れる距離じゃない。関所とかあるだろよ……。


「とりあえず今月は、未来皇帝袁術さんをお迎えしよう」


 この際、猿の手でも借りたいのだ。とにかく来てほしい。


 もし登用できればご褒美上げまくる所存なんだけどな。


 ごほん! それじゃ目標は弘農の袁術、孔伷さんッ!


 パカラッパカラッと軽快な蹄の音が聞こえてくるよ。いくつもの関所をフリーパスして弘農にさくっと到着。ビバ! 間諜入り放題。


 ピンポーン、孔伷さんがスカウトに来てあげましたよー!


「この乱世、名門袁家のお力添えがあれば天下は近い。袁術殿、どうだろうか?」


 袁術とか天下がどうとかよりも、金、じゃないか?


 ほら見てみろ、首を斜めに傾けて疑いの目でこっち見てるよ彼。もちろん答えは――


「国賊……その手に乗らんぞ!」


 おら、国賊がぁ! 孔伷さん、名声低いってことは小悪党なのかもしれん。全然人望なくない? 頭良いのに政治力(かけひき)ダメって、学級委員長になれない丸尾君じゃない? はあ。


 さて、高速の馬移動で1ヶ月以内に譙に戻ってきたよ。


 しかしあれだな、孔伷さんの馬術がすごいな。来月は西涼(せいりょう)の騎馬民族辺りにスカウト行こうかな。


「袁術の登用に失敗しました」


「――あー、言うのね、絶対に言いたいセリフなのねッ!」


 ポーカーフェイスのくせにボディランゲージがうるさいね。出納帳の人件費のところ何度も見てはため息するんじゃないよッ!! 無駄に経費使ってすみませんね!


「孔伷様、ご命令を――」


「ねぇですよッ!」


 だから武将孔伷()しかいないっての。


 ……来月にかける!



『張角軍が譙へ攻めこみました』


 ……へ? まだ4月にもなってない……よ? 世界線が違うから? なんか変なフラグ踏んだか!?


――バタバタバタバタッ!


「孔伷様、張角軍が譙へ攻めこんできましたッ!! 張角軍の兵力はおよそ10万ですッ!!」


「……早くない?」


 あと毎回10万も動員しなくても勝てるでしょ。オーバーキルやめよ?


「――出陣武将を選んでください」


「君は君でマイペースすぎない?」


「――出陣武将を選んでください」


 うん、孔伷さん頑張れ! 前回と同じく森林に隠れよう、兵士2万の命を大事にする孔伷さんって後世で語り継がれるよ、きっと。



『孔伷の一族は、歴史からその姿を消した……』


 はーい。もうやめやめ、これ無理ゲーよ。

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