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001―4 はじめての憑依 ~チュートリアル的な説明を添えて~

――えい! えい! えい!


 修練場ってやつかな、めちゃくちゃ広い運動場で兵士が棒振りしてるところに来た。兵士2万人が訓練してるのを見るとかなり壮観だ。


「お前らッ! 孔伷様がお見えだぞッ!!」


 漢武の声の大きな理由、分かりました。そりゃこんだけ広い場所で叫んでたら声も大きくなるわな。無表情=無口の方程式が崩れた瞬間だった。


 号令が波状に広がって2万人の兵士がざわざわとしながら整列を始める。訓練度が足りないせいかまとまりがないし、だらだら動いてるな……。


「はい、皆さんが静かになるまで1刻(約15分)かかりましたー。君主的に残念でなりません」


 誰も知らない小学校の松山先生の物まね。


「申し訳ございませんッ!! どうぞ我が首にてこの場をお収めくださいッ!!」


「笑ってくれよぉ! 死罪とか言うなよぉ!」


 先生つながりで金八先生の物まね、ダメだスベりまくってる……。


「――ではさらば!」


「待て待て待てぃ! ……漢武よ、ステイだぞ。その剣をゆっくり首から離しなさい。いいから許すから! ちょっと言いたかっただけだし、そんな本気で取られると逆に引くわッ!」


「……はッ!! お救いいただいたこの命、孔伷様のために使いまするッ!!」


『漢武の忠誠度が100になりました』


 おいいッ! どんなマッチポンプだよ!! やべぇ、極端がすぎるよ漢武さんよ。


「あー、あまり気にするな……」


 何も言えなくなってきたし、帰ろうかな……。と漢武の後ろの兵士が一歩前に出てきて立ち拱手。


「孔伷様、恐れながら申し上げますッ! せっかくの機会ですので訓練をご指導願いますッ!!」


「「「「「ご指導お願いしますッ!!」」」」」


 お、お前ら完全文官タイプの孔伷さんをなめるんじゃないよ? ……これどうしよう。


 訓練に参加……いや無理だ。休憩……って感じでもないか。え、わしに任せろ? 孔伷さんの表情がそう言っている。


「では戦術の指導を始める――」


 よーし、孔伷さんの知力81は伊達じゃないところを見せてやるぜ!


「――なるほど、このように動けば良いのですね」


「――孔伷様、この場合は……」


「――おお、分かりやすいッ!」


 孔伷さんの得意分野だったから兵士にもおおむね受けてるみたいだ。


「孔伷様のおかげで兵士の士気が上がったように思えます。本日はありがとうございました!!」


「「「「「ありがとうございましたッ!!」」」」」


 士気が上がったって言っても、50に1足りない焼石に水状態……。


 でもまあ、民忠は77、訓練度は65にアップで、まあ一石三鳥だし、巡察は今のところ好調だな。



『張角軍が譙へ攻めこみました』


 おいおい、時は戦国時代か? 戦国時代だったよ、譙ってどこだっけ――


「んこここここぉ、ここッ! 譙だぞ!?」


 今の通知を聞いてから孔伷さんの汗が止まらない。


――バタバタバタバタッ!


「孔伷様、張角軍が譙へ攻めこんできましたッ!! 張角軍の兵力はおよそ10万ですッ!!」


 漢武が慌てて走ってきたかと思えばそんなことを言う!


「ふっ、圧倒的ではないか……アッチの軍は! はあ? 兵力10万? こっちは2万だぞ!? 士気なんか50いってないし、訓練も65なんだけど!?」


 なんでそんなに殺意高いんだよッ!


「――出陣武将を選んでください」


 すっと出てくる漢文。


「そしてマイペースも甚だしいね君ィ! 漢文、さっそく同盟国に使者を送るんだ! ここは救援を求め――」


「――恐れながら申し上げます。使者に送るための人手が足りませんゆえ」


「え? いやいっぱいおるやん? そこにもここにも、むしろお前さんが行ってもいいんだけど!?」


「――恐れながら申し上げます。我らは仕事がございますゆえ。我らは動けませんゆえ」


「はああああああああああ!? いやいやいやいや、これ戦争だろ? わし……あー! 俺の兵士2万がやられたら誰が譙を守るんだよ! 張角軍って賊みたいなもんだろ? 黄巾賊に町をめちゃくちゃにされるかもしれないんだぞ!? 仕事とか言ってる場合かよッ!!」


 思わず素になるわ! 孔伷っぽい話し方ぶっ飛んだ。


「――誠に申し上げにくいのですが、我らこの()に仕える官吏そして民は、群雄の争いには基本的に関与しない代わりに命が保証されていますゆえ」


 張角が勝った瞬間から、民がせっせと黄色い巾を頭につけるのを想像してしまった……。たくましいな漢民族ッ! 


 ウチより張角の領地は、民忠が高いもんなぁ。全領地の平均民忠90以上って宗教かよ!? 宗教だったよッ!


「……出陣できるのは俺と兵士2万だけ。徴兵しても予備兵力が増えるだけで、そいつら率いるためには武将がいるってか……。漢武たち、お前ら武官はどうなんだ?」


「はッ!! 我ら武官とその兵は孔伷様と共に戦いますッ!!」


 戦います! ビシッ! じゃないの。戦ってくれるんなら誰か1人でいいから陶謙さんと喬帽君を呼びに行ってくれませんかねぇ?


「もしかして、俺が戦うを選択すると2万と1の命が無くなるけど、俺が降伏すれば1人の命で済むとか?」


「はッ!! その場合はそうなりますッ!!」


 いや声大きいって! 俺の選択次第で戦術指導したアイツらも死んじゃうのか。まあ薄い肉壁だけど頑張ってもらおうか。


 ……これって孔伷さんが死んだらどうなるんだ? 俺も死ぬのか? それとも憑依が剥がれて元の体に戻れるとか? いきなり訳のわからない世界で、泡沫君主に憑依させられて、たったの4ヶ月で……死ぬ、え? 俺、死ぬの? ダメだ、2回繰り返したせいで気分が落ちたわ。ネガティブの二度漬け禁止やでぇ……どよよーん。


 えーと走馬灯じゃねぇけど、この4ヶ月を整理すると――


 この世界は正史でも演義でもないゲームの三国時代で、群雄たちが中華全土で統一目指してあちらこちらで戦争してるわけだ。


 んで、ゲーム同じく命令も出陣も武将にしか出来なくて、文官は国を維持するだけ、武官は兵士の仕事しかしないってね。


 日常生活は孔伷さんがこなして、肝心な国政の決定については俺の担当。てことで出陣した場合、戦うのは孔伷さんではなく――俺メインだよなぁ。


 こんなことなら1月からきちんと動けば良かった。なまじ巡察なんかで遊んだもんだから、張角軍の動きを察知出来なかった。


 もっとドライに略奪でも何でもやれば良かった。外交で張角に黄色い巾つけて媚びれば生きていけたんじゃないか?


 あれ、ゲームなら空白地のない君主の未来は――


「斬首……」


「――出陣武将を選んでください」


「どこまでもマイペースねぃッ!! こっちゃ斬首ルートしか見えないっての! 死にたくねぇ、一応聞くけど……亡命って――」


「――出陣武将を選んでください」


「知ってたよ、ちっきしょおおおおおおお!!」


 俺は逃げ出した……。



「ひゃっはー! この龔都様が一番乗りだぁ!」


「この城は高昇がいただいた! 戦利品が楽しみだぜ!!」


「この波才様が城をとったぜ! もう勝ったも同然だ、がはは」


 うん、俺は逃げたつもりだったけど、執務室を出た途端に小窓に戻り、代わりに孔伷さんが出陣してしまった。いまいち主導権の境界線が分からんな。


 嫌だ嫌だって口には出せるけど、誰も気にしないって。怖いわ、この世界……。


 さて、画面は変わり上半分には戦場全体の地図、敵に意識を向けるとどの部隊に誰がいるのか、君主が来てるのか、隠している兵糧庫の場所まで丸わかりの千里眼を俺は使えるらしい。


 勝負は、城を全部取られるか部隊の全滅又は君主の撃破で決着がつく。


 どこに布陣するのか、部隊2万の兵士をどう動かすのか等々は全て俺が主導権を握っている。


 だから城でもなく、張角軍が出陣してきそうな場所から一番遠い森の中に部隊を置いた。いくら肉壁があるとはいえ痛い思いはごめんだ。孔伷()不在を幸いにと張角軍の皆さんは、テンション上げ上げで城を奪いあってくれた。


 つまり――


『孔伷軍のすべての城が陥落しました』


 うん。


『孔伷軍の孔伷が捕らえられました』


 ですよね。亡命できそうな三国志7に今からでもチェンジしたい。


『孔伷軍の敗北です』


 知ってる。


『孔伷は張角に斬られました』


 はい、首ちょんぱ。孔伷さん、お元気で。死んでるけど。


 ちなみに張角さん、近くで見たら怖いよ。瞳の色が白いからね、全体的に黄色いからね。


『世に聞こえし孔伷、今ここに散らん……』


 …………。


『孔伷の一族は、歴史からその姿を消した……』


 孔伷の一族ってどっかにいたのかね。さて痛くも痒くもない俺ちゃんは元の体に帰れるのか、もしくは天国で美少女天使ちゃんときゃっきゃっうふふしたいです!


 ……あ、意識が………………………………。

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