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001―3 はじめての憑依 ~チュートリアル的な説明を添えて~

―― 184年3月 ――


『我ら義兄弟となり、中華全土に安寧の日々が訪れるその日まで共に戦い抜くことを誓う!!』

『おおッ!』

『我ら、生まれし時は違えども! 同年同月同日に死なんことを天に願うッ!!』


 3月に入った、ここから北にかなーり進んだ先にある幽州であの超有名人たちが義兄弟になるって歴史的イベントを見せられた。いらんわ!


 あーあ、どうせなら劉備に憑依したかったな。芙蓉姫とか糜夫人とかね、キャッキャッうふふのチョメラニアンしたいわん。


 高校の頃は三国志2で王道劉備の俺TUEEEEEなプレーしてたし、せっかくこんな世界にいるんならさ、後宮ハーレム築いたりしてぇよ! どうしてこうなった!


「孔伷様、ご命令を――」


 人の気も知らずにのこのこと漢文が命令書を抱えてやってきた。いやもう孔伷()1人なんだから命令書は1つでいいよ。


 今月のやること。周倉にはフラれたし、【巡察】で譙見物でもしてみるか。


「――譙で巡察を行いますか?」


「領地、譙しかねえよ」


「――御意」


 嫌みも通じない、一礼してすたすたと行っちゃったよ。


――お供ぐらいつくよね?



 のどかな田畑が広がって……ない、そこそこに民家や商家が建ち並んでいるし、この辺りの山では薬草が採れるらしくて、漢方薬を求めて行商人が行き来してるのが見える。やっぱり黄河に近い都市は栄えやすいのかもしれないな。あ、今は主導権は俺にある。


「あー、ちょっとすまない」


 聞きたいことがあって近くの商家に突撃取材を。


「はいらっしゃい! チッ……官吏が何用だね? 税金は1月にきちんと納めてるが?」


 うわぁ……。超絶営業スマイルからの渋々ブルドッグへのグラデーションはお見事! 民忠70でこの嫌われ方って、やっぱり漢王朝の官吏って終わってんだな。


「いや、違うぞ。税金の事ではない、この辺りで米を取り扱ってる店はあるか?」


「はああ? 米商人なんかこんな町にいるわけないだろ。米を買いたいなら許昌にでも行けよ! おーい、お客様がお帰りだぁ! 塩まけ塩ォ!」


 許昌には張宝がいるので……行けません。塩ってこの時代なら高級品とか勝手に思ってたけど、その辺もゲームだからいいのか? 米商人はやっぱり都市情報で【商人】って出てるところだけか。


 さて、一応端から端の外れまで来たけど何もなかったな。町中の活気を見る限り、NPCって感じでもなさそう、ホントこの世界は謎すぎる。


――おらー!


――やれやれー!


――今だ、させッ! そこだ、させーッ!!


 なんか物騒な言葉が飛び交ってるけど。


「いったい何の騒ぎだ?」


「はッ! 見て参りますッ!」


 実は巡察は1人ではない。護衛がついている。


 流石に太守1人でうろうろさせるのは国としてどうなん? と漢文にごね続けた結果、なんとか武官を1人だけ回してもらえたのだ。ちなみに名前は漢武官衛。かんぶ、かんえいだって。……名前の付け方、適当すぎない?


 ちなみにだけど、この漢一族の歴史はかなり古く、高祖劉邦の時代からずっと漢王朝を支えている名門で、文官の方は宦官になりがちなんだとか。


 武将らがなんやかやとマウントの取り合いしてるなかでも、我ら関せずのスタンスで上司の命令をこなし続けるプロ官吏らしい。正史でも演義でも聞いたことないゲーム歴史に埋もれた裏方さんたちなのだろう。


「ご報告します、孔伷様!」


 がしっと拳に手のひらを乗せる力強い供手、顔は兜でよく見えないけど漢文と同レベルの無表情。がたいが良いから圧力を感じるわ……。


「で、何の騒ぎだ?」


「はッ! どうやら競馬を催してるようですッ!!」


 ……語尾が強いよ。


「おや? そちらにいらっしゃる高貴なお方、このような町外れにまでお見えになるなんて……。ささ、どうぞ今から第3レースが始まるところでございます、お近くでご覧くださいませ」


 胴元っぽい商人が揉み手で近づいてきたな。漢武が反応しないってことは問題ない人なのだろう。


 ふーん、競馬といっても競馬場みたいのがあるわけでもなくて、広い空き地にスタートとゴールの目印つけて、馬を走らせるだけなのか。人が上に乗るわけでもないし、ドッグレースの馬版って感じ。


 黒毛が2頭、茶毛が1頭がゲートイン!


「さて、高貴なお方はどの馬になさいますか?」


「茶毛……かな」


「ほお! なかなかの目利きでございますね。おい、3番の馬に金300だ」


「へい……」


 え? いや賭ける気とかないのに勝手にやめろよ。


「ご安心ください、高貴なお方。賭け金は私が持ちますので……その代わり、ね?」


 ああ、接待競馬か! こいつ、俺が誰だか分かってるな。いい具合に腐ってるね! ……嫌いじゃないよ。孔伷さんも悪い笑顔で頷いている。


「――おお! また当たりましたね! いやぁこんなに連続で的中されるなんて……」


「――さすが高貴なお方でございますなぁ」


「――なんとなんと! 今日の私の商売は大損にございまする! あっはっはっ!」


 これでもかと連続で勝てた。だって俺が選んでない馬が勝ちそうになると大きな音を鳴らしたり、餌を投げ込んだりして気をそらしてくれるんだよ。


 とまあ、露骨な忖度を受けつつも、競馬レースは結構面白かった。この時代の民衆の娯楽なんて賭け事とかお祭りになるのかもなぁ。


 最終的に金500稼いだけど、そこにいる連中の飲み代に使えって商人に渡したら目を輝かせて喜んでた。おかげで民忠が5、名声が2も上がってくれた。


 ……住民を大事にするのはこの手のゲームでは基本だ。なんでかそんな気がする。



 官府という名の小さな事務所に戻り、孔伷さんの仕事ぶりを眺めているとまたぞろ来客らしい。漢文が誰かを伴って執務室の前に来ている。いや、扉を開けたら使者とご対面はいかんだろ。都合の悪い人のときに居留守使えないじゃん。


「――孔伷様、喬玄殿より外交の使者が派遣されてきました」


 うーん、マイペース! そういえば喬玄っていうと演義の喬公だよな。


 いつの日か大喬、小喬を侍らせたいな。今日は来てないかな?


「失礼する……」


 うん、来てるわけないよね! 秒で希望を砕くのやめてくれ。


 髪も髭も真っ白の顔の整ったお爺がゆっくり入ってきた。ご本人かよ! いやこの世界、武将しか動かない感じなら太守が来てもおかしくないか。うん、もう慣れてきたよ。


「これは喬玄殿! 自らお越しになるとは何か重大なことでも……」


 孔伷さんが焦り顔、これだけ心配するってことは、君主自らが動くことはやっぱり異例なのかも。


 漢文、その辺分かってる!? おい、こっち見ろや! あ、小窓だから見えないか。


「さあ、孔伷殿! わしと手を組み天下を共に語ろう!」


 うわあ、大きく出たなぁ。泡沫君主仲間のくせに志高いよ! でもまあ、持参金と陶謙、喬玄、孔伷の三国同盟のハッピーセットを逃す手はない。


 金縁の弁に橙色の漢服か、暖色系が今年の流行りですか?


「……ちなみに返答期限は――」


「そうじゃな、天下は常に動いておる! 本日、返答願う!」


 やっぱり急かせてくるぅ! まあご老体に鞭打って来てくれてるのだし、電話もメールもない時代だから即答が当たり前……なのかな。できれば先触れとか手紙で相談してよね。


 よく考えると劉備も孔明んとこに3回もアポなしで会い行ってるし、そういうもんか。


「――孔伷様、喬玄からの申し出を受けますか?」


 いや呼び捨てやめぃ!


「ん?」


 良かった、耳が遠いのか聞こえてないっぽい。


「喬玄殿、共に天下泰平を語りましょうぞ!」


 ごまかすためにも大声で返事しておいた。


「さすが孔伷殿、寛大な返事をいただけると思ってましたぞ! では失礼する。……王朗殿に聞いたとおりチョロいな」


 では失礼する、のあとに何かぼそぼそ言ってなかった? 使者が使うお決まりの言葉か?


◇◇◇


―― 184年4月 ――


『世に聞こえし喬玄、今ここに散らん……』


「ほらあ! お爺に無理させるからあああぁぁ!!」


 ゲーム的な通知で、喬玄お爺が逝った。いわゆるナレ死。


 つい先日まで天下泰平がどうこうと話してたのに、老体に鞭打って早馬に乗るから無理が祟ったんだろう。あ、でも息子のための最期の大仕事だったりして。


 そこまでして同盟をうちとしたい理由ってなんだろう。謎だな。


 あ、同盟については息子さんから引き続きよろしくという手紙が来たので、お悔やみ申し上げる的な手紙を孔伷さんがせっせとしたためていた。


『孫堅軍が寿春へ攻めこみました』


 おい、ゲーム的な通知その2! やべぇ、それはダメだ。劉繇なら勝てる気がしても孫堅に勝てるビジョンが見えない。前門の黄巾、後門の海賊……詰んでる。


 劉繇はさくっと負けて張英と南に落ち延びたみたい。んー、地方豪族が治めてる群雄空白地だよね、俺もどうにかそこまで行けないもんかね。


 襄陽(じょうよう)とかゲーム的にもリアルでも激アツな領地な気がするけど、なぜか空白地、あそこにたどり着ければ俺でもなんとか生き残れそうな気がする……まあ現時点では無理だけどね。


「孔伷様、ご命令を――」


 はいはい、えーと今月は――


「巡察しようかな」


 だって楽しかったから! 


「譙で巡察を行いますか?」


 うん、漢文は分かってて聞いてるよな? 嫌みか?


「そうだって!」


「――御意」


「今日も護衛をさせていただきますッ!!」


 漢文が去ったら、漢武がやってきた。


 マジで声が大きいから。執務室どころか小さな官府中に轟いてるわ。


 お前が近くにいると耳がぐわんぐわんするから気をつけて。

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