やっぱり私は聖女様……じゃなかった!
呼び出しは、突然だった。
見知らぬ世界に召喚され、私の周りは沢山の人達が取り囲むように平伏していた。
足元には魔法陣。
願いが天に通じた、と彼らは涙を流しながら喜んだ。
そして私を”聖女様”と呼んだ。
え、え、聖女様? 私が?
「救済の聖女様を」と祈り、私が現れたらしい。
それから、お姫様みたいに手を引いて貰って。
大切に傅かれてお城に招かれ、歓待を受けた。
並ぶお料理より、純白でヒラヒラの衣装に感激した。
動くたび、幾重にも重なった布が軽やかに揺れる。
憧れてたドレス!
こんなの初めて!
神聖な力を授かった感覚はまるでないけど……。
私はすっかり嬉しくなってしまった。
だけど。
「聖女のお仕事を」と促され、森奥の祭壇らしき場所に連れていかれたあたりから、雲行きが怪しくなった。
私を祭壇に残すと、人々は潮が引くように、さっと遠のき離れて隠れた。
何か変。
すごく変。
そう思った背後に、あからさまな気配を感じる。
――ドラゴン!!
木々より高いドラゴンが、私を見下ろしていた。
え……?
そういうこと?
この世界の聖女様は、ドラゴンに捧げられる生贄だったんだ。
能天気な私はそんなことにも気づかず、弾む乙女心のまま、チヤホヤされて浮かれ舞い上がっていた。
こんな時、本当に聖女なら両手をかざして聖なる力でドラゴンを退け……れる筈ない。
所詮、私は偽物。
都合の良い奇跡はない。
広げた両手は空しく、ただ静寂を招いただけ。
ぽたり、ぽたり。
眼前に開いた大きな口から、牙を伝って涎が落ちる。
私を包む異臭は、ほのかに熱く。喉奥に揺れる炎がチラと覗く。
情けないな。
自分にガッカリだわ。
私が聖女様だなんて、そんな美味しい話があるわけなかった。
そうよね、だって、いろいろと無理がある。
わかってたことじゃない。
こんな私が、聖女様だなんて。
夢でしかない。
でも目の前はドラゴンは――本物だ。
ため息の後、覚悟を決めた。
そして、目を閉じる。
潔く膝を折り……
身体を沈み込ませて……
ひといきに地を蹴った。
跳躍は、軽くドラゴンの頭上を凌駕する。
くるりと空中で回り、
勢いのまま、かかと落としをドラゴンの頭頂部に見舞った。
クシャリ
脆い音ともにドラゴンの頭蓋があっさり砕ける。
着地と同時に竜体も崩れ落ちた。
もう息してない。
離れて見ていた人々が、一斉に息を呑んだのがわかった。
「ねぇ、あの聖女様、おねぇ……?」
「しっ」
潜めた子どもの声を、高性能な耳が拾う。
ちげーよ。元の世界じゃ勇者だわよ!
お読みいただきありがとうございます!
おかしいな? どうしてこうなったんだろう……。食べられて終わりじゃ救いがないな、と思っただけで……。
本文へテーマワードいくつか盛りが出来て良かったです。(^v^;)
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