まおう、さわる
「お嬢様……」
「何かしら?」
わたくしとフブキは地面に腹這いになるような体勢で街道から少し離れた場所に身を隠していました。
ここは草が中々に深い場所ですし、それにフブキにちょっと穴を掘ってもらって低くしてますから、わたくしとフブキが地面に寝そべれば近くを通らない限り気付かないような場所ですわね。
いい仕事してますわよ、フブキ!
「これ上手くいくのです?」
「フブキ、わたくし達には圧倒的に戦闘力が足りないわ。わたくしはおそらくその辺にいる弱いモンスターくらいなら倒せますけどちょっと強いモンスターになら負ける自信はありますわ! 魔界で流行ってた薄い本みたいに!」
「薄い本が何かわからないですけどそこは自信満々に言って欲しくないです⁉︎」
でも事実ですし。
ここで、自信満々に言い切っていざって時に逃げるよりはマシですわ。薄い本案件はほら、精神的にきついですし。
でも戦闘力がないからといってポイントが稼げないというわけではないはずですわ。
ですからフブキを引いて残ったポイントを全部これに注ぎ込んだわけですし。
「でもこれ大丈夫です?」
「大丈夫よ。ここを何度か馬車が通るのは確認済みですし」
なにせわたくしが街に入る時にも通りましたし。
そしてよく見てみると比較的新しい馬の走った跡と車輪の跡が見られますからここが馬車で頻繁に通る場所であるのは確定的です。
「でも意外と安かったですわね。魔鉄の糸」
「魔力がないとただの脆い糸ですから」
残った魔王ポイントで交換したのは魔力を込めると硬くなるという魔鉄の糸。
魔力を込めないと普通の糸と変わらない硬度なので嵩張らない上に持ち運びも便利ですし、色々と使えますもの。
武器とか色々考えたんですけど、わたくしとフブキではまともに扱える事はないと思い諦めました。
その点、魔鉄なら魔力を込めるだけで硬くなりますから非常に楽ですし。
「あとは馬車を待つだけですわよ」
「上手くいきますように……」
フブキが涙目になりながら手を組みながら祈ってますわね。
魔王の従者が神に祈ってたりしてるのかしら?
しばらく祈っていたフブキでしたが、唐突に頭の上の耳がピコピコと動き出しました。
「来ました! ってなんで触ってるんです⁉︎」
「はっ⁉︎ つい」
思わず動いていた耳が気になって無意識の内に手を伸ばして堪能してしまっていましたわ!
そんなフブキのフワフワのケモミミを堪能しながらわたくしは手にしていた魔鉄の糸へと思いっきり魔力を流し込むと力一杯引っ張りました。




