まおう、でびゅーする2
「メアリー、あなたは相変わらずプレッシャーに弱すぎない?仮にも魔王になるんだから堂々としなよ」
厳しい言葉を告げつつもエリザベスちゃんはわたくしの頭を撫でてくれる。
何処かわたくしを子供扱いしてくるエリザベスちゃんにわたくしは頬を膨らませる。
「それは余裕のある人だからこそ言えるセリフなんですわ。エリザベスちゃんはもうクジ引いたのですの?」
「勿論、可もなく不可もなくといった所を引いたよ」
エリザベスちゃんはその細い指に挟んだ紙をひらひらと揺らしながらわたくしへと見せてくる。まあ、見せられても異世界の名前なんて覚えてないからわからないのですけど。
エリザベスちゃんはほぼ最下位の順位であるわたくしとは違い、順位は一位、それも他をかなり圧倒しての一位なんですのよね。
他の魔王候補からはその蒼い髪や蒼い瞳、さらには得意な氷魔法を使う事から氷結の魔王なんて二つ名で呼ばれてたりします。
「だってやばい世界に送られたら死んじゃいますわ! わたくしなんて弱いから即死ですわ!」
「仮にも吸血鬼の真祖なんだから即死はないでしょう」
いや、確かにわたくしの種族は吸血鬼で真祖なわけですけど。
先生達も言ってたけどわたくしは歴代の真祖の中でも最弱らしいのです。
本来なら魔王候補には魔王としての能力と種族としての能力が必ず付きます。
魔王としての能力というのは攻撃的な能力がつくことが多かったりするわけですし、種族としての能力もまた普通の種族よりも高レベルな物がついたりするはずなんですけど……
「回復特化の神聖魔法と吸血鬼としての能力しかないのに生き残れませんわ!」
「まあ、かなり尖った能力だとは思うけど……」
真祖だから太陽やニンニク、銀の杭とかでも他の吸血鬼とは違って弱点にはならない。だけど他にわたくしには真祖としての攻撃能力が一切ない。
あるのは他の吸血鬼と同じような能力、噛み付いて自身の血を与える事で眷属に変える力と自分の体を霧に変える力、そして血による強化能力くらいですし……
「でもあなた血で強化したらかなり強いじゃない」
「エリザベスちゃんは片手でわたくしを投げ飛ばしたではないですの!」
「私を基準にするのはおかしいわよ」
そうは言ってもわたくしは弱すぎるから体術の訓練の時も誰も組んでくれなかったですし、基準にするのはどうしてもエリザベスちゃんしかいませんもの。
みんな曰く、わたくしと「戦っても得るものがない」という事らしいですし。
そんなわけでわたくしとは別の意味で「戦っても得るものがない」という判定を受けているエリザベスちゃんと組むことが多かったのです。そんなわけでエリザベスちゃんはわたくしの力のことをよく分かっていらっしゃいますし。
そもそもわたくしの最大の攻撃である血の強化能力による攻撃すらエリザベスちゃんには通じないわけですし。
「それにしてもあなたは本当に魔王ぽくないわね。服も白だし」
「それはわたくしに言われても困るんですけど……」
エリザベスちゃんの視線がわたくしの体の上下に向けられているのに気づいたわたくしはなんとも言えない心地悪さを感じながら胸を庇うようにして身を背けます。
いえ、まあ、わかってますのよ?
「服は初めから選ばれてるからわたくしに言われてもどうもしようないじゃないですの」
「それはそうだけど」
わたくしの自分の服、純白のドレスのわけですし。
髪も真っ白だし、肌も白いし、神聖魔法は使えるし。首元には十字架のアクセサリーまでありますし……どう考えても魔王には見えませんわよね。
唯一、魔族ぽく見えるのは血のように紅い瞳くらいかしら?
「戦闘力のない魔王。ふふふ、いっそのこと異世界に行ったなら聖女として売り出したらどう?」
「吸血鬼なのに⁉︎」
神聖魔法があるでしょ? とエリザベスちゃんは笑ってきます。
いや、確かにそうなんですけど、一応はわたくし、魔王なんですのよ⁉︎
「メアリー・ニントルフ、君の番だぞ」
「ひゃ、ひゃい!」
エリザベスちゃんとの会話で忘れかけていた緊張感が名前を呼ばれたことにより蘇りわたくしは顔を強張らせながら名前を呼んだ先生の方へと進んでいったのでした。