まおう、とられる
わたくしの目の前には見た事もない虹色に輝く球体がゆらゆらと揺れながら浮かんでいました。
何かしらこれ?
マオ学でもこんな不思議な物を見たことがありませんわ。
『久しぶりねメアリー』
「え、エリザベスちゃん⁉︎」
わたくしの目の前に浮かぶ宝珠からエリザベスちゃんの声が聞こえてきましたわ⁉︎ エリザベスちゃんの姿は見えないというのに!
『通信の宝珠も知らないって、あなた、本当に魔王してたの?』
な、なんか呆れられてますわ⁉︎
いや、魔王をしてたかと言われるとちょっぴり自信はないのだけど……
でも一応、わたくしは魔王ですわよね?
「エリザベスちゃん、わたくしだって魔王ぽいことはしてましたわ!」
『へぇー何したの?』
う、疑ってますわね⁉︎
「殺戮ですわ!」
『はい、ダウト』
「そんなあっさり⁉︎」
なんで一瞬でバレましたの⁉︎
この宝珠、もしかしてこちらが見えていますの⁉︎
『いや、流石に雑草を抜いたりしたくらいで殲滅認定は受けないよ?』
「き、聞いてたんですの?」
『ええ、大声を出してお隣さんに怒られてた辺りからね』
起きてからじゃないですの⁉︎
わたくしにはプライベートが皆無なのかしら⁉︎
『あ、安心して? 別にいつも聞いてるわけじゃないわ。近況を聞いてみようと連絡とってみたのがついさっきだっただけだから』
「ならいいですわ」
監視されてプライバシーがなかったら危うくこの宿から出て行かないといけないとこでしたし。
「それにしても、エリザベスちゃんこんな魔道具持ってたんですの?」
『……そこから?』
わたくしが宙に浮かぶ宝珠を突くようにしながら尋ねると再びエリザベスちゃんの呆れたような声が宝珠から響いてきました。
「な、なんですの?」
『その様子じゃ気付いてなさそうだね』
何故か姿は見えないのにエリザベスちゃんがやれやれと首を振っている姿が脳裏に浮かびます。
『これは魔王の書で買ったのよ。色々とあるし』
「魔王の書?」
『マオ学で習ったはずだけど?』
な、習ったかしら?
そう言われれば習ったような気がしなくもない。
『あなたは寝てたから聞いてすらいなかったけどね』
「ぐぅ……」
だ、だってマオ学の授業は眠くなるような授業ばかりだったんですもの!
でも、魔法の授業はちゃんと起きて聞いてたわ。
『まあ、聞いてなかったあなたに説明すると、とあるポーズを取りながら開けと言えば魔王の書が現れるわ』
「おお!」
つまり魔王の書を手に入れればわたくしもエリザベスちゃんみたいにお喋りするための魔導具が手に入るってわけですわね!
「で、そのポーズというのは?」
『間抜けな顔をして両手でダブルピースよ』
な、なんなんですの⁉︎ そのわけのわからないポーズは⁉︎
絶対に人に見られたら馬鹿にされるのが決まっているようなポーズじゃないですの!
「じょ、冗談ですわよね?」
『本当よ』
え、エリザベスちゃんの声が本気の声ですわ……
つまり真実⁉︎
『さ、さっさとポーズを取って!』
「ぜ、絶対わらってますよね⁉︎」
なんか宝珠の向こう側で笑ってるのが分かりますよ⁉︎
でも、わたくしも便利なものが欲しいですわ。
仕方ありません……
両手でピースを作り、間抜けな顔をしてと、
「開け!」
カシャ
なんか音聞こえたんですけど……
『ぷふ⁉︎』
今、笑いましたわね⁉︎
確かに眼の前には分厚い本が出てきましたけど!
『まさかあっさりと思ってなかった。今の顔永久保存しとくね!』
「やめて⁉︎」
わたくしが拒絶したにも拘らず宝珠からはエリザベスちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえ、そして滲むようにして消えていったのでした。