まおう、せんのうされかける
流石に一日で三件の雑草駆除は魔力じゃなくて体が堪えたようで昼過ぎまで寝てしまいました。
そろそろ起きて仕事にいかなければと寝る時は全裸派のわたくしは服を着ようとノロノロと起き上がり、
「って違いますわよね⁉︎」
大声で叫びました。
ええ、叫びましたわ。
「朝から煩いぞ!」
「ひっ! すいません!」
あまりに大きな声だったからか横の部屋の方が煩いと言わんばかりに壁を叩いてきたので思わず大きな声で謝りましたわ。
宿屋の壁、すっごい薄いんですのよ。
たまに夜の情事の音が聞こえてくるくらいに薄っすいんですのよ。
「危なかったわ。危うく労働の喜びに目覚めるところでしたわ」
これは冒険者ギルドによる悪質な洗脳ですわ。いえ、この街全体で冒険者に成り立ての方を褒めて働き手を増やすという策略!
危なかったですがわたくしには通用しませんわ!
「とりあえず魔王としての仕事をやらないと!」
雑草駆除はとりあえずやめよう。
お金がなくなったらたまにやるくらいでいいかしら?
「とは言っても、何をすれば魔王っぽいのかしら」
一枚しかない白いドレスを着込みながらわたくしは考え込みます。
自慢ではないけどわたくしはマオ学下から二番目の女なわけよね。
つまり、マオ学でやってた行為は魔王っぽくなかったということだし。
やっぱりアレかしら? 汚れが気になるからと夜中から朝まで徹夜で掃除したのが不味かったのかしら? 吸血鬼だったから徹夜とか全く苦になりませんでしたけど。
「ハッ⁉︎ まって! 雑草を殲滅してたのは魔王っぽいのかしら⁉︎」
一応は雑草を殲滅していたわけですし!
殲滅していたんだから魔王っぽいんじゃないかしら!
『いや、そんなわけないでしょう』
わたくしの考えを否定するような声が部屋に響いた。
わたくし以外誰もいないはずの部屋に。
「誰ですの?」
声が聞こえた方へと振り返りながら、わたくしはメイン武器である爪を長剣くらいの長さまで伸ばして構えます。
一応はわたくしの爪もそこらの名剣くらいの切れ味はあります
戦闘能力皆無とはいえ一応は魔王。
勇者なら不安ですけど一般人くらいなら軽く捻れるわたくしの部屋に入り込むなんていい度胸ですわ!
男なら窓の外に蹴り飛ばして追い出し、女ならちょっとばかり血を頂くとしましょう。ちょっと働きすぎでしたし、たまには吸血鬼の普通の食事として血が飲みたいですし。
だってこの世界、輸血パックすらないんですもの。確かに吸血鬼も普通の食事で血の飢えは抑えれますけど偶には血を飲まないと吸血鬼として元気に過ごせませんわ。
そんなわけでわたくしもたまには豪華な食事という新鮮な血のために侵入してきた方には悪いですが頑張りますわ!
しかし、意気揚々と振り返った先には人の姿など全く見られず、
「これ何かしら?」
ただ、小さな虹色の球体が宙に揺れながら浮かんでいるだけでした。