その聖女、役目を果たして帰還する
他の連載もちゃんと書いてますが更新時期はバラつきがちかと。謝辞m(__)m
翌日、件のサティとまた会った。
「あれ。喚ばれたんじゃなかったの?」
「んーん。瞳の色が合わないって他のコが行ったわ。まーーったく、なーにが輝く黄金の髪に蜂蜜色の瞳、よ!どーせ災害がおさまったら『王子と婚姻を』とか言ってくる気でしょー?てめーら花嫁候補召喚してんのかよ?てカンジ」
「なるほどねぇ…」
サティの髪は綺麗な金髪だが瞳はごく薄い茶色だ。蜂蜜色と言えなくもないが今回は彼女より近い子が候補の中にいたのだろう。
召喚の兆しがあると条件に沿った聖女が教会に呼び出され、中でもその召喚条件に一番沿った娘が送り出される。
この国の聖女に容姿は関係ないが喚ぶ方には色々好みがあるらしい。
私の髪は薄桃色に瞳は紅というどちらかといえば特異な方なので容姿の条件なしの際に呼ばれる事の方が多い。
呼ばれない時はじゃあ何をしているのかというとやはり幼い聖女の教育をしたり病人の治療(癒し魔法は聖女が必ず持っている能力なので医師が殆どいない)をしたり魔力の修行をしたり と過ごしていて呼び出しがなくても現役収入は保証されているので喚ばれなくても特に困らない。
ついでに言えば必ず条件に合致する聖女が空いているとも限らないので髪と目の色は魔法で変える事が可能だがそこまでやる事は滅多にない。
何故かって?
そんな事こだわって召喚を行なってるような世界には誰も行きたがらないからだ。
が、そんな私に教会から呼び出しがかかった。
「ちと災害規模が大き過ぎての。至急魔力の強い者を送り込まねば滅びそうじゃ」
成る程。
「(髪や目の色諸々)私で大丈夫そうですか?」
「うむ。あちらも最早些末な事に構ってはおられんようじゃ」
「わかりました」
そうして召喚された先はやはり私の瞳の色を見るなり怯えや躊躇が見られはしたものの
「どうかこの世界をお救い下され、聖女様」
と頭を下げた。
私はわかりました、と答えまず災害の規模やどこから手を付けるのが一番良いかを尋ね、その情報や助言に従いつつ時にはそれは違う と説きながら速やかに半年かけて役目を果たした。
が、ここでもやはり紅い瞳は魔の色らしく忌避されがちだった。
皆聖女だから腫れ物に触れるようにおっかなびっくり恐れ(畏れではない、多分)かしこまって(敬ってもいない、おそらく)いるだけであって、聖女でなかったら石でも投げられていたんじゃなかろうか。
そんな中不幸にも私の世話役に任命された騎士さまは見た目も美しく腕の立つ青年で比較的そういった事に懐疑的でいつもすまなそうにこちらを伺い時には影口をたたく者を叱咤してくれたりしていた。
いよいよ役目を終えて帰る前夜、その騎士さまが挨拶に来た。
「その……、色々済まなかった。君がこの世界を救ってくれたのは確かなのに皆、、さぞ不快な思いをさせただろう。皆わかってないのだ、髪や目の色で聖か魔かなど測れない事を」
それは賛成だ。
わかってくれている人がいて良かった。
でなければこの先この世界のSOSに聖女派遣協会が応える事は難しくなるだろう。
自分も、この髪だけならともかく瞳の色は忌避されやすい事を良くわかってるので敢えて喚んでもらう必要はない。
「そのーー…君は、ここに残る気はないのか?良ければ俺の所へ……」
「ーーは?」
へどもどと目を泳がす青年にあゝまたか、という思いが顔に出ない様に取り繕う。
こういうのは一番厄介だ。
贖罪と同情、憐憫といったものが入り混じり、好意というものに変換されてしまうのだ。
ーー特殊な状況下長く共にいたなら尚更。
「いえ、私にも故郷がありますので。お気持ちだけ頂いておきます」
「そ、そうか…….だが、その 君のその見っ…、目では辛い思いもしただろう?俺が傍にいればーー」
「ーーああ、言ってませんでした?私、召喚されるのは初めてではないんです」
「えっ?」
「この髪と目の色を好意的に迎えてくれる所もあれば忌避された所も勿論ありますが気にしてませんわ、それが私の職務ですから。」
自分はあくまで職務を果たしにきたのであってそれ以上でも以下でもない事を強調しにっこりと笑ってみせる。
「そ、そうか…」
金の髪の騎士は思いもつかない返しをくらったように黙ったので
それでは、とその場を辞した。
翌日帰しの魔法陣はきちんと展開してくれたので私は問題なく帰れた。
聖女派遣協会の暮らしは快適だし見た目で差別などされようもない。
何しろあそこは所謂〝普通の人間〟から見たら〝普通でない連中〟の集落みたいなものーーそれでいて街はインフラも整っているし居住空間は快適ときている。
聖女が出入り自由の教会は召喚を受け付ける聖女の育成場所でもあるので聖堂だけでなく学舎、図書館、食堂、大浴場まで一通り揃っているし寮もあって候補生のうちはここで寝泊りするも自宅から通うも自由である。私もお呼びがなければ図書館で過ごすことが多い。
ここには古今東西あらゆる世界に行った聖女たちの手記も保存され聖女達はそれらを自由に読む事が許される。
勝手がわからない世界でどんなイレギュラーが起こるかわからない以上、知識を蓄えておく事は必須だからだ。因みに自分が書いたものも少しだがある。
読まないけど。
「しっかしほんっっと、そのまま王子と結婚てパターン多いわよねぇ…」
尤もその王子も聖女だから妃にしたもののやっぱり元の許婚も捨てがたく結局怒った聖女が後は知らんと戻ってきてしまう事も多い。
だから手記も多いわけで。
何度か召喚→帰還を繰り返すうちそんなパターンにはうんざりしてしまう聖女が多く、やはりこの国で結婚する者が多い。
まあ、この国はちゃんと天秤たる聖女に敬意を払い接する男性が殆どなので当たり前の話ではある。
ルディアはいつも通り教会の聖堂の帰還陣に顕現し側に佇む神官長に
「お帰り、ルディア」
「ただいま。ーー私が行ってる間こっちは?」
「こちらではちょうど半月だ。お前にしては、手こずったな」
「うーん、あっちで半年かかったからねぇ」
「そりゃ、お疲れ様じゃな。暫く呼び出しは控えさせる。帰って良く休むといい」
「ありがとう、神官長」
ルディアは家に戻り、入浴してさっぱりした後
「はーっ、つっっかれたぁ…」
とベッドにダイブして眠りについた。
もう先程までいた世界の事など、綺麗さっぱり頭から追いやって。
ルディアは知らない、この後やはりあれは恋だったのだ何故自分はあっさり彼女を帰してしまったのだと件の騎士がどんどんめんどくさい男になっていく事を。
目の色、髪の色で人を差別してはいけないと説いてまわる騎士が危なげな道に踏み込んで行く事も。
まあ、騎士が再度聖女を喚ぼうと何かやらかしたとしてもそんな事はこちらの知った事ではない。
そもそもその思惑がねじ曲げられたものならば派遣協会にその祈りは届かない。
ーーさて、次はどんな世界かしら?
ネタが降ってきたら、次話投稿。
これはそんな連載です。
ポチッとブクマ頂けたら励みになります!