【第七〇話】
祝70話!
なんだかストーリーは大して進んでないくせに話数ばっかり伸びていく……
これからも頑張って書いていくので完結まで気長にお付き合いください。
ウルズ伯爵の叫び声を聞いて、外に出た僕たちの目に飛び込んできたのは、屋敷を囲むおびただしい数の騎士だった。
「ぐっふっふ……貴様がいくら強くともこの数を相手にすることは不可能ッ! おとなしく投降すれば命だけは助けてやらんこともないぞ?」
屋敷を囲んでいるのは大体二千か三千ってところかな。
僕一人だけならともかく男爵たちを守りながらっていうのは確かに厳しいかもしれない。
まぁ、だからと言ってウルズ伯爵に投降するなんてありえないんだけど……。
命だけは助けるなんて言ってるけど、それが嘘じゃない保証なんてどこにもないんだし。
「男爵たちは何とか自分の身を守る手段とか持ってたりしないですか?」
「わしらくらいならモダンが守れると思うが……」
なら大丈夫かな?
どこか一か所に穴をあけて、そこから一斉に脱出するのがよさそう。
「僕が包囲に穴をあけるので、皆さんはそこから脱出してもらえませんか?」
「わしらが逃げた後、ルイス君はどうするんだね?」
「何とか隙を作って逃げるなりしますよ」
「……そうか。わかった」
素直に聞いてくれて助かった。
実際僕一人だけならどうとでもなるしね。
「じゃあ行きますよ」
僕はオーダーに魔力をためて、いつでも撃ち出せるようにする。
オーダーに集中した魔力は、暗い光を放っていたので、相手にはすぐに僕が何かしようとしているとバレただろう。
その証拠に、僕が魔力をため始めた次の瞬間には騎士たちは槍を構えて一斉に詰め寄ってきていた。
「ハァッ!!」
一気に魔力を開放すると同時に、僕は剣を振り抜く。
すると、溜められていた魔力が形無き刃となって敵に襲い掛かった。
それでもその一撃で倒せたのは数十人程度で、包囲網が崩れるほどではなかった。
「“狂った世界に安寧を”」
僕はオーダーの力を覚醒させる。
さっきまではただの魔力を纏っていただけだった刀身に炎がまとわりつき、僕の周りには強風が吹き荒れる。
そのままオーダーを振ると、刀身から炎が離れ、火の鳥となって敵へと飛んで行った。
本来なら灰すら残らない温度の炎を、死なない程度の火傷で済むように調節した非殺傷の炎が敵を焼いていく。
当然相手はそのことを知らないので、当たれば焼け死ぬと思い、必死に逃げ惑う。
その隙をついて、男爵たちは包囲網の外へ逃げて行った。
僕一人がその場に残り、他の騎士たちを威圧し続ける。
重圧に耐えきれなくなった騎士がこちらに仕掛けてきた瞬間――
「なんだ!?」
突然僕の体が白く光り始めた。
いきなりのことに驚いて動きを止めてしまったのがいけなかった。
刺突を繰り出した一人の騎士の槍を避けきることができず、脇腹を刺されてしまった。
「ッ!!」
さすがキャメルさんたち特製の防具というべきか、深く刺さるだけの力が込められていたはずの槍は軽くえぐられるだけで済んだ。
僕がその騎士を弾き飛ばすと、僕の足元に大きな魔法陣が現れた。
何かしらの攻撃かと思い、その場から飛び退る。
まばゆい光が魔法陣からあふれた。
するとさっきまで僕のいた場所に、数人の人影が見えた。
新手かと思い警戒度を上げるが、光が薄れるにつれてその人物が僕の知っている人だということに気付く。
「なんなんですかね、これ」
「ふふん、どうだ? 転移魔法の力はッ!」
光が完全になくなると、周りに騎士たちも誰が現れたのか分かったらしく、一斉に跪いた。
「転移魔法とやらも気になりますけど、どうしてここにいるんですか……陛下」
そう。突然戦場に現れたのは、このエインザ帝国の現皇帝、エレナ・アン・エインザだった。
現れたのは全部で五人。
真ん中で守られているのが陛下、その両脇にアイリスとフェリシア、さらに外側に鎧を着こんだ騎士が二人。
アイリスとフェリシアは帝国に着いたときに、宮廷に拉致……もとい案内してくれた人たちだ。
「宮廷で私に体を触らせただろう? あの時私がただお前の体を触っていただけだと思うのか?」
「え? 違うんですか?」
「…………七割はそうだな。だ、だが! 本当はお前に魔法式を書き込むのが目的だったのだ!」
これはノっておいたほうがいいのか?
めちゃめちゃドヤ顔でこっちを指さしてくるのがイラっと来るが……。
「な、なんだって~!?」
「なんだその棒読みは……まぁいい、ウルズ伯爵が法帝騎士団と手を組んで裏でいろいろやっていたのは知っていた。今回のマリアンナ嬢が狙われていたということもあの時にはすでにわかっていたからな……転移の座標を固定する術式をバレないように書かせてもらった」
「やってるこがわかっているのならすぐに捕らえることはできなかったんですか?」
「捕まえられるのならとっくに捕まえていたんだが、証拠を全て法帝騎士団がもみ消してしまっていたせいでなかなかとらえることができなかったのだ」
「だからこうして現行犯で捕らえに来たと、そういうことですか?」
「あぁ、それであってる」
なるほど。
つまり初めからウルズ伯爵は積んでいたと……。
たまたま今回僕が男爵に用があったから利用されただけで、もし僕がいなくてもこの女帝なら何かしらの対策を講じていただろう。
あそこまで至れり尽くせりだったのも、勝手に利用することの迷惑料と考えれば納得できる。
「ただの筋肉好きじゃなかったんですね……」
「当たり前だ。そんなことで皇帝になれるわけがないだろう」
そこで今まで黙っていたウルズ伯爵が声を上げた。
「陛下! あなたはそこの平民に騙されているのです! 今回のこともすべて――」
「黙れ。……誰が頭を上げていいと言った?」
陛下の声は決して大きくはなかったがこの場によく響いた。
それだけで伯爵は黙ることしかできなくなり、また跪いた。
これが一国のトップに立つ者のカリスマか……。
「今回のことは迷惑をかけたな。あやつが行ってきた数々の悪事はもう証拠が出そろっている。これ以上騒がせることはない。用が済んだらぜひもう一度宮廷に来るといい。褒美も出そう」
そう言って陛下は騎士の二人に伯爵を捕らえるように指示を出した。
その指示を聞いて、騎士の人たちが伯爵を捕らえようとするが……。
「私は、ここで終わるような男では……なぁぁああい!!」
今まで一度も使ってこなかった魔法を使い、あたり一面の土を巻き上げると、一目散に逃げだした。
陛下はそれを見てつまらなそうに、「短距離転移」とつぶやいた。
瞬間、逃げ出しいていた伯爵は騎士の目の前に移動しており、騎士の一太刀で地面に倒れた。
「全く、最後の最後にやることが逃亡とはな……帝国貴族としてあるまじき行為だ。できることならこの場で首を落としてやりたいくらいだが、こいつには然るべき罰を受けてもらわねばならん」
そのまま簡単な応急処置だけ済ませると、鎖で縛りあげた。
「それでは一足先に私は帝都に戻るとする。後日宮廷に呼び出す旨を男爵家の者に伝えておいてくれ。ではな」
陛下の足元に伯爵が転がされ、騎士の人達は屋敷を囲んでいた法帝騎士団の人達に指示を出していた。
そうして隊長と呼ばれていた男も伯爵と同じように鎖で縛られ、連れていかれる。
現れた時より二人増えた状態で同じ場所に立つと、陛下の足元に魔法陣が現れ、その魔法陣から光があふれると、そこには誰もいなかった。
70話というおめでたそうな数字なので、評価や感想などお願いします。
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楽しんで頂けたら幸いです。