【第六六話】
遅くなりました!
一応日曜日内なんで許してください!
待機室にやってきた僕たちは、何とも言えない空気の中ソファに座っていた。
というのも、やはりここに来る途中で出会ったウルズ伯爵が原因だろう。
まだそこまで一緒にいたわけじゃない僕ですら伯爵の発言に腹が立ったのに、それが家族なんだから相当なものだろう。
「……大丈夫ですか?」
ずっと黙ったままのマリアンナちゃんにそう声をかけるが、反応はない。
うつむいて震えている。
何とか励ましてあげたいが、こういう場面に耐性がない僕はどうしていいのか分からずに困り果てていた。
「あっ……」
そこで、男爵のお孫さん相手に失礼かと思ったが、昔僕が母さんにしてもらっていたことをやってみることにした。
母さんは僕が何か落ち込んでいたとき、必ず頭をなでてくれたのだ。
僕がマリアンナちゃんの頭を優しく撫でると、マリアンナちゃんは一瞬驚いたように顔を上げたが、すぐにまた下を向いてしまった。
「いくら伯爵だからって言って良いことと悪いことがあるよね」
「……悔しいんです」
話しかけたわけではなく、つい出てしまった独り言にマリアンナちゃんは返事を返した。
僕よりも遥かに幼い少女がこぼした切実な気持ち。
僕はそれを何も言わずに聞き続けた。
「ウルズ伯爵は私を愛人にしたいと言っていて、でも私は私が好きになった人と結婚したくて……貴族として生まれたからには恋愛結婚なんてできないってわかってるのに」
そうか、それならあの時の男爵の殺気も理解できる。
男爵がマリアンナちゃんを大切にしているのはすぐにわかった。
そんな大切な孫娘を愛人によこせと言われて「ハイ、どうぞ」と渡すはずがない。
きっと断っているはずだ。
その中で自分はわがままを言うばかりで何も力になれないことが悔しいのだろう。
僕の場合はシャルが公爵家という立場だったから何の権力もない僕なんかと婚約が出来ているわけで、マリアンナちゃんの家は男爵家、さらに言い寄ってきているのが伯爵という自分よりも爵位が上の貴族。
完全に断ることもできずにいるって感じかな。
「おじい様は私のことをすごく大切にしてくれるけど私はおじい様に何もお返しできないの……」
そう言うマリアンナちゃんの頭を僕は撫で続けていた。
***
しばらくして、モダンさんが部屋にやってきた。
どうやらウルズ伯爵が帰っていったようだ。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。先ほどの部屋に戻りましょう」
「わかりました」
僕がモダンさんの後をついて部屋を出ようとすると、マリアンナちゃんが僕の手をつかんできた。
何事かと思い、後ろを振り向いてみるとマリアンナちゃんは僕の目を見つめて「ありがとうございます」とささやいた。
それから僕たちは男爵の寝室に戻った。
寝室に戻ると男爵はさっきよりも疲れたような顔をしており、顔色も少し悪そうだった。
僕たちが戻ってきたのに気付いた男爵はすぐに元気そうな顔に戻り笑いかけてきた。
「すまなかったね。予定のない来客だったものだから話の途中で退室してもらったわけなんだが……時間も時間だし今日はこのあたりにしておこうか。ぜひとも今日はウチに泊って行ってくれ」
「いいんですか?」
「あぁ、陛下からの頼みでもあるし、何よりマリーがそんなに人に懐いているのも珍しい。泊って行ってくれるとマリーも喜ぶよ」
「それじゃあ……お言葉に甘えてお世話になります」
僕がそう言うとマリアンナちゃんは僕の手を握って「お部屋に案内します!」と言い出した。
そんなマリアンナちゃんをうれしそうな顔で見つめていた男爵が僕の方に行ってあげてくれ、みたいな意味が込められているであろうジェスチャーをしてきたので、抵抗することなくマリアンナちゃんの後をついて行った。
連れてこられた場所は可愛らしい人形がたくさん置いてある部屋だった。
「ここは?」
「ここがルイス様が泊まる部屋です!」
「すごい生活感のある部屋ですけど、誰かほかの人が使ってるとかじゃないんですか?」
僕がそう聞くと、マリアンナちゃんはそっぽを向いた。
「あのー? 絶対誰か使ってますよねこの部屋……」
「……本当は私の部屋です」
隠しきれないとわかったのかマリアンナちゃんは正直に答えた。
最初からそうやって素直に教えてくれればいいのに……。
「じゃあ僕泊まれないじゃないですか」
「……一緒に寝ませんか?」
「いくら歳が離れているとはいえ男女が同じベッドというのはいかがなものかと……」
「私、ルイス様のこと信じていますし! なんだかお兄様がいたらこんな感じなんだろうなって思って……」
うーん。
お兄ちゃんみたいに思ってくれてるのはうれしいんだけど、さすがに同じベッドってのはまずいよなぁ……。
正式に発表されたわけじゃないけど僕はシャルと婚約しているわけだし。
「やっぱり同じベッドっていうのは難しい……ですけど! 横に布団とか敷いてもらえれば一緒に寝るのはいいですよ?」
難しいといったあたりからマリアンナちゃんが泣きそうな顔になってきたので咄嗟に代案を出す。
すると、マリアンナちゃんは一気に顔をほころばせ、部屋を飛び出した。
その場に取り残された僕はどうすることもできずにただ茫然と立ち尽くすことしかできいなかった。
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