【第六〇話】
二本目です!
「それじゃ、出発するぞ」
初めに声をかけてきた男性がそう言うと同時に、飛行船はゆっくりと浮上し始めた。
特に揺れもなく、大きな音がなる訳でもないのに、スーッと上にあがっていく。
「男爵領に着くのは四日後だべ。それまであんたは部屋でくつろいでていいで。部屋は適当なところを案内させるべ、ゆっくりしてくんろ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
男性は近くにいた乗組員を一人捕まえて、僕を部屋に案内するように言った。
そのまま僕は乗組員さんに景色のよく見えるいい部屋に連れていかれた。
陛下自らの紹介ということもあって、一番いい部屋に案内されたらしい。
僕はそそくさと出ていった乗組員さんを見ながら、ベッドに腰を下ろした。
「これから四日間、何をして過ごそうかな……」
やることがない訳では無い。
今のままでは力不足の可能性が高いから、意識世界でオーダーに稽古をつけてもらったり、装備品の手入れをしたり、あとはこの飛行船を見て回ったりなんかもしたい。
やりたいことは結構あるけど、何から手をつけようか迷うところ。
「……ん?」
そんなことを考えつつ、バッグを下ろすと若干動いているのに気がついた。
何事かと思い、急いでバッグを開けると謎の卵が高速振動している。
「孵化するって感じではない……よね?」
なんか、鳥の卵が孵化するのは見たことあるけど、揺れるっていってももっとなんかコロン、コロン、みたいな感じだったよ?
なんでこの卵こんなブブブブブッ! って感じで揺れてるの?
恐る恐る包んでいたもふもふのタオルを外してみると、パキパキと音を立てながら卵にヒビが入った。
やはり孵化するのかとハラハラしながら見守っていると、ヒビに穴があき、ズボッと鳥のような足が飛び出してきた。
「お、おぉ……!」
この足の感じからして生まれてくるのは鳥かな?
強くてかっこいい子だと嬉しいんだけど、まぁどんな子が生まれてきても僕が全力で育てるのに変わりはないんだけど。
続けて卵からもう一本足が飛び出してきて、穴を広げようと暴れだした。
「頑張れ! もうちょっとだぞ!」
懸命に頑張る姿が可愛くて、つい声に出して応援してしまう。
ここで僕が手を貸してしまったらこの子は軟弱な子になってしまう気がして、心を鬼にして見守る。
そしてついに、ヒビが大きくなって卵が割れると中からは——
「みゃぁ!」
ちっちゃいライオンみたいな生物が現れた。
「……え?」
鳥かと思って見守っていたら子ライオンが生まれた件。
まだ下半身の方には殻がついたままなので、全体をはっきりと見れた訳では無いけれど、現状わかることといえば鳥のような足を持ったライオンみたいな顔の生命体。
なにこれキメラ?
「みゃ、みゃあ!」
キメラ(仮)はよたよたと僕の方によってきて、足にへばりついてきた。可愛すぎて辛い。
「どしたの〜? かわいいでちゅね〜」
かわいい我が子を抱き上げ、頭をなでなでする。
生まれたばかりだと言うのに、たてがみがモフモフで手触りが最高に気持ちよかった。
キメラ(仮)は僕の腕の中で首を回して下半身についた殻を食べ始めた。
鳥類なんかは生まれた時に、自分の入っていた卵を食べるって話は聞いたことがあったけど、この子も食べるのか……。
「もう本格的にこの子がなんなのか分からなくなってきたな」
まぁ、可愛いからいいんだけど。
卵の殻を食べていくと、段々と下半身もあらわになってきた。
すると、さっきまで見えなかった背中に小さな翼が着いていることがわかった。新たな発見だ。パタパタ動いているのが可愛い。
翼が外に出ると、残った殻はするりと落ちていった。
どうやら翼が引っかかって落ちなかったようだ。
やっと全体が見えた、と思ったのもつかの間その尻尾がヘビなことに気づいてしまった。
「えぇ……? もう本当にキメラなんじゃなかろうか?」
鳥のような足にライオンの体。なんかよくわからない翼とヘビの尻尾。
僕の知ってる生物にこういうのはいなかった。
「みゃあ! みゃあ!」
でも……可愛いからおっけーですっ!
「よしよし! あぁ可愛いなぁ! お腹すいてないか? お前は何を食べるんだろ?」
僕の方を見て鳴いてくるキメラちゃんが可愛すぎて、頭を撫でるとキメラちゃんは僕の手をペロペロと舐めてきた。
「そうだ、名前つけよう。どんな名前がいい?」
「みゃ!」
「うん、可愛い!」
僕の言葉を理解しているのかは分からないけど、返事を返してくれた。
可愛すぎて死にそう。
まぁ真面目に名前を決めるけど、もしこの子がキメラなのだとしたら、キメとかメラとかそんな感じの名前がいいかな。
安直ではあるけどわかりやすいし。
可能性は低いだろうけど、キメラじゃなかった時が怖いんだよね。
キメラじゃないのにキメとかメラって名前付けられてるのは少し可哀想だし。
だったら見た目の特徴から名前をつけた方がどんな生物だったとしても問題ないんだよね。
見た目の特徴とは言うけど、特徴がありすぎて逆に困るパターンだなコレ。
うーん、色々な生物の姿を貰ってるから、姿とか形っていう意味のイデアとかどうだろう。
「イデア……」
「みゃあ!」
うん。結構しっくりきた。
名前はイデアで決まりだな。
「今日からお前はイデアだぞ。僕はルイス、よろしくね」
「みゃ、みゃ、みゃあ!」
イデアは抱いている僕の手に自分の足を重ねて鳴いた。
僕はそんなイデアの姿にまた悶えるのだった。
ついにペット枠が埋まりました。
最初ニワトリにしようと思ったんですが、なんか可愛さが足りない気がして急遽こうなりました。
これからはイデアのこともよろしくお願いします!
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