【第五三話】
二本目です!
翌朝、目が覚めると既に部屋の外からいい匂いがしていた。
手早く着替えを終わらせて乱れた髪を結び直すと、部屋を出て食堂に向かった。
食堂はもう既に結構な人で賑わっており、僕が席に座ると給仕の人が朝食を持ってきてくれた。
この宿は出される食事が決まっているようで、昨晩のメニューも全て勝手に運ばれてきたものだ。
今回持ってこられたものは海鮮丼というものらしい。
給仕の人がそう言いながら机に置いていった。
海鮮丼にかけるようだと思われるこの『わさび醤油』というものも、他の場所で見たことの無いものだったので別の大陸の特産品とかなんだろうか。
他で食べられないものが食べられるという点で、やはり他所と貿易を行っている国は他の国よりも発展しているような気がする。
海鮮丼をペロリと平らげ、お金を払って宿を出た。
そろそろ船が出る時間だろうから急いで向かわないといけない。
海鮮丼を食べていて船に乗り遅れたとかさすがにシャレにならない。
カバンに入れた『謎の卵』のことも考えつつ小走りで停留所に行くと、昨日はなかった大きな船が一隻溜まっていた。
乗るためのチケット販売をすぐ近くでしていたので、急いで購入。銀貨五十枚は懐に痛かったけど、必要経費だと割り切った。
今空いている部屋を選んで、その部屋のチケットを購入する感じだった。
とりあえずどこがいいとかは分からなかったのでおすすめされた部屋を適当にとる。
チケットを貰って船に乗り込むと、乗船員さんにチケットの確認をされ、部屋まで案内された。
ゴルダンモア大陸に到着するのは明日の夕方頃という話なので、この部屋で一晩寝ることになる。
船というのには初めて乗るけど、どういうものなのか楽しみだ。
「んー……なんか、ちょっと床が揺れてるのが不安かも」
そんなことを思ったが、まぁ、過ごしてるうちになれるだろうとすぐにそんな考えはどこかに行ってしまった。
僕はカバンをベッドの上に置き、昨日買った『精霊視のメガネ』をかけてみる。見ている感じでは何も変わったところはない。強いて言うならば少し視界が狭くなったくらいだろうか。
金貨一枚も払って偽物でした、なんて冗談じゃないぞ……と思いつつ窓から海を見てみると、太陽が海に反射してキラキラと光っていた。
「ん……? なんだあれ?」
少しだけその景色に見とれていると、その光に紛れて何かが海面を飛んでいるのに気がついた。
目を凝らしてみるがよく見えない。
相当小さいのと、数が多いことしか分からなかった。
もしやと思い、メガネを外してみると飛んでいた小さい何かは姿が見えなくなり、キラキラと輝く海面だけが映っていた。
「あれが精霊か!」
もう一度メガネをかけるとまた海面に飛んでいる姿が見えた。
メガネ自体は本物だったけどアイツらがなんなのか、新たな謎が生まれてしまった瞬間だった。
***
僕が精霊を見つけてから数分して、やっと船が動き出した。
ゆっくりと動き出す船にドキドキしながら甲板に出ると、段々と船の速度が上がってきた。
「お、おぉ……!」
なんだかよく分からない感動が生まれ、手すりから身を乗り出して海を眺めていた。
ここまで海に近づくとさすがにアイツら精霊がしっかりと見れるわけで……よく見れば精霊はみんなオッサンの顔をしていた。
なんか思ってた精霊と違ってさっきまで高揚していた気分が一気に沈んでいくのがわかった。
なんでよりによってオッサンの顔なんだろう?
せめて可愛い感じの少年とか色々あっただろうに……。
「うぉっ!」
僕が微妙な顔をして海を眺めていると、僕の目の前を変顔をしたおっさんが通り過ぎて行った。
何事かと見れば、オッサン精霊が船の進行方向に一列に並んで変顔をしているではないか!
僕はそれから十分間ほど、メガネを外せばいいと思い出すまでオッサンの変顔を見続けたのであった。
***
メガネを外してから数時間、そろそろ船にも慣れてきた頃に、乗船員の人達が慌ただしくどこかに走っていくのを見つけた。
「乗客の皆様にお知らせします。ただいま、当客船にモンスターが接近しています。討伐隊がすぐに出ますので問題はないかと思われますが、万が一に備え各自お部屋に戻っていただくよう宜しくお願い申し上げます。繰り返します——」
何かトラブルが起きたのだろうとは思っていたが、まさかのモンスターだった。
どんなモンスターが現れたのか分からないけど、出来れば僕も参戦したいところ。
乗船員さんたちが走っていった方に僕も走って向かう。
すると、途中で鎧を纏った戦士風の人に遭遇したので話を聞いてみると、この人は討伐隊のうちの一人らしい。
冒険者でこの船の護衛依頼を受けているそうだ。
「僕もそのモンスター討伐に参加させてくれませんか?」
かなり無茶を言っているのは重々承知だけど、出来ればこういうところに出るモンスターとも一度は戦っておきたい。
最初は難色を表していた戦士さんだったが、自己責任なので、と言うと渋々ながら了承してくれた。
これから対策会議があるそうなので僕も後をついて行く。
会議室に着くまでに今回のモンスターについての情報を聞くと、現れたのは『大ウミヘビ』というモンスターで、全長十メートルを超える長さらしい。
小型の船ならば一飲みにできるほどの巨体らしく、魔法使いが主体となって戦うのが推奨されているらしい。
危険なのは毒霧で、命の危機を感じると吐いてくるそうだ。
前衛の剣士たちは『大ウミヘビ』の子分である『ウミヘビ』から魔法使いを守るのが仕事となるそうだ。
相当な強敵らしいけど、何とか力になれるように頑張りたいと思う。
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