【第四五話】
今回、僕は王都に向かうのに馬車を使わなかった。
理由はいくつかあるけど、特に大きいものは二つ。
一つは、僕の体力的に馬車で移動するよりも早く王都にたどり着けるということ。
キャメルさんたちとの修行で、嫌という程やらされた体力作り。
あの地獄に比べれば、この程度の距離走るなんて造作もない。
そして二つ目は、どちらかと言うとこちらの方が重要なんだが、モンスターの討伐だ。
出発前にアシュタルさんに聞いた話なんだけど、現在世界中でモンスターが大量発生しているらしい。
龍関係なのかは分からないが、知っていて放置するのは気が引ける。
ということで王都に着くまでの道すがら、出てきたモンスターを討伐していこうと思ったのだ。
「よっ、と」
僕は最後の一体だったゴブリンの首をはねながらそんなことを考えていた。
出発してからどれくらいのモンスターと戦っただろう。
つい先日、モンスター群の侵攻があったばかりだと言うのに、ここら辺のモンスターは前回通った時よりも遥かに多くなっていた。
今、約半分ほどの地点まで来たはずだが、既に二桁近くはモンスターと戦闘している。
モンスターの襲撃も一旦落ち着き、僕はオーダーに着いた血を拭き取って鞘に収めると、さらに歩を進めた。
それからちょうど一時間後、僕は王都の入口に立っていた。
結局あれからもまた多くのモンスターが襲いかかってきたが、そのどれも一刀のもとに切り伏せた。
……やはりこのレベルのモンスターではもう相手にならないらしい。
命を奪う行為だから、あまり考えたくはなかったけど、延々と続く襲撃が、段々と作業のように感じてくるほどには手応えを感じることは無かった。
「次の方——」
と、あれこれ考えているうちに、僕の順番が回ってきたようだ。
僕はアシュタルさんから渡された手紙を門番に見せ、中に入った。
これ以外に身分を証明できるものがなかったというのと、公爵家の後ろ盾があれば通れるかと思ったからだ。
……結果は無事に通ることができた訳だが。
公爵家の手紙、ということもあって少しだけ注目されたが、特に何事もなく、街に入れた。
「……ん?」
王城に向けて歩いていると、ふと、気になる人を見つけた。
ボロボロのローブを着て、フードで頭を隠した人。
その人とすれ違った時、なんとも言えない懐かしさ? のようなものを感じた。
咄嗟に振り向くと、ちらっとフードの中が見えたが、その人はそのまま歩いていってしまった。
「あの人も、こっちを見てた……?」
一瞬だけ見えた髪は、この国では珍しい輝くような紫色をしていた。
***
僕はあの不思議な人のことを考えながらも王城に向かって歩き、気付けば城門の前にたどり着いていた。
「何用ですか?」
もんの両脇に立っていた門番の一人が僕にそう声をかけてきた。
もう一人は手に持つ槍こそ向けてこないものの、かなり警戒しているようだった。
「フォーサイス公爵家の使いで、エレチナ国王様に書状を届けに来ました」
僕はアシュタルさんに言われた通り、門番さんに手紙を渡した。
敬語とか自信ないけど、あれでよかったかな?
手紙のなんか丁寧っぽい言い方って書状とかであってる?
いや、そもそもスラムで育ったような僕が国王様だとか貴族に対するマナーなんてできるわけがないんだよなぁ……。
これから各国の偉い人達に話を聞きたいと思ってるわけだからそういうのも学ばないと。
「む、これは確かに公爵家の家紋のようだ……。少々待っていて貰えますかな? すぐに国王様の予定を聞いて参りますので」
「分かりました」
最初に話しかけてきた方の門番さんが、城内に走って行ってしまった。
……それから待つこと数分、もう一人の門番さんと世間話をしていると、先程走っていった門番さんが慌てて戻ってきた。
「公爵様からの手紙を読んだ国王様が直ぐにあなたを連れてくるように、と仰られたので今すぐに着いてきて頂けますか?」
一体アシュタルさんはどんなことを書いたんだろうか。
内容がとても気になるけど、今は国王に会うことの方が大切だな。
まぁ、どちらにしろ国王からのお願い、という名の命令に逆らうことなんてできないし。
「喜んで。すぐにでも行けますよ」
「ありがとうございます。それではこのまま進んで頂いて、城内に入りましたら、案内のものがおりますのでその者について行っていただければ国王様の元までたどり着けると思います」
そう言って持ち場に戻った門番さんに、一言お礼を言って僕は言われたままに城内に入った。
すると、入ってすぐのところに一人のメイドさんが立っていた。
「あなたがルイス様ですね? 国王様はこちらでお待ちです」
そのままメイドさんについて行くと一際豪華な扉の前で立ち止まった。
僕が、「この部屋に国王様が?」と聞くと、メイドさんはこくりと頷いてから扉を開いた。
僕は若干緊張しながら部屋の中に入ると、そこにはソファに座って何かを飲んでいるダンディなおじいさんと、一人の女性がいた。
おじいさんの方は、頭に王冠を被っていることからこの国の王様だということが分かるけど、もう一人、あの女性は誰なんだろう? 王妃様とか?
「ルイス様をお連れしました」
メイドさんがそう言うと、王様と女性はこっちを見て、僕の顔を見た後に腰に下げられたオーダーを見て、目を見開いた。
「まさか、本当に予言が当たるとは……」
「となりますと、この先のことにも信憑性が増しましたね」
それから二人はボソボソと話してから、もう一度僕を見て
「よく来てくれた。ワシがこの国の王、フレデリック・エイン・エレチナだ」
「自己紹介が遅くなってしまい申し訳ありません。私はこの国で読師をやっております、ウナと申します」
「こちらこそお忙しい中お時間をとって頂き誠にありがとうございます。ご存知のことかと存じますが、ぼ、私の名はルイス・イングラムと言います。どうぞよろしくお願い致します」
僕がなれない敬語で何とか挨拶すると、国王フレデリック様は急に笑いだした。
「よいよい、この場にはワシらしかおらぬ。楽に話すといい」
そう言ってフレデリック様は僕にソファに座るよう促した。
「ありがとうございます」と言って、僕がソファに座ったのを確認してから今度はウナさんが話してきた。
「早速で申し訳ありませんが、本題に入らせて頂いてもいいですか?」
「あっ、大丈夫です」
僕がそう返すと、ウナさんは深刻な顔で話し始めた。
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