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【第四四話】

「……さい。起きてください!」


「んぅ……?」


 朝、シャルの声で目を覚ました。


「起きましたか?」


 未だ覚醒していない脳で現状を理解しようとする。

 そこで、腕の中になにか柔らかいものがあることに気が付いた。

 その柔らかいものは暖かく、もぞもぞ動いていて……。


「……ッ!」


 姿の見えないシャルと、腕の中の何か。

 このふたつで答えに行き着いた僕は慌てて腕をどかし、飛び起きた。


「お、おはようございます」


「……おはよう。もしかして、ずっと抱きしめてた……?」


「……はい。私が目を覚ました時にはもう」


 やってしまった……。

 何故だ? 普段ものを抱きしめて眠る癖なんてなかったはずなのに、こういう時に限ってどうしてこんなことが起こるんだ……。


「その、私は嫌じゃなかったですから。むしろ役得だったと言いますか……!」


 僕が何と言おうか悩んでいるとシャルが顔を赤くしながらそんなことを言ってきた。

 その言葉を聞いて僕も顔が熱くなるのが分かった。


「そ、そっか……。でも、どっちにしろ知らないうちちあんなことになっちゃっててごめん……」


「いえ、気にしないでください。……なんなら今度はちゃんと起きている時に抱きしめますか?」


 そう言ってシャルは両腕を広げた。

 ウェルカム、と言わんばかりのニヤニヤ顔を見ると、つい先程の感触を思い出してしまい、余計に恥ずかしくなった。


「か、からかうなよ! ちょっと頭冷やしに行ってくる!」


 僕は恥ずかしさを誤魔化すように急いで立ち上がると、寝る前に壁に立てかけておいた剣を持って部屋を出た。

 最初、練習用の鉄の剣だけ持っていこうとしたら、オーダーから不満の声が上がったので腰にはオーダーも下げている。


 僕は庭に向かいつつ、熱くなった顔と頭を冷やした。



 ***



 庭で朝のトレーニングを済ませた僕は、井戸で軽く汗を洗い流してから中に戻った。

 今日はトレーニング中、窓から来るシャルの視線が気になりすぎてあまり集中できなかった。

 オーダーにそのことを指摘され、余計に気になってしまったが何とかやりきった。

 玄関に着くと、シャルがタオルと僕の装備を持って待っていてくれた。

 なので、僕はそれらを受け取って部屋に向かった。


「お着替えは終わりましたか?」


 着替えが終わったのとほぼ同時に外からシャルの声が聞こえてきた。


「あぁ、大丈夫だよ」


「そうですか、それなら朝食の準備ができたそうなので食堂の方まで一緒に行きましょう」


 僕が部屋から出ると、そこには先程までのパジャマ姿とは違い、しっかりとした薄緑色のドレスに身を包んだシャルの姿があった。

 僕はそんなシャルを見て、今までとのギャップもあり目が離せなくなってしまった。


「どうしたんです?」


「あっ、いやっ……なんでもない」


 思わず顔を逸らしてしまったが、普段はあんなにお転婆というか公爵令嬢っぽくないのにこういう時はちゃんとしてるのはずるいと思う。

 食堂に向かって歩きつつ、横目でシャルを見ると僕の視線にきづいたのか、こちらを見て微笑んだ。


「うっ……」


 このまま見ていたら、心臓がいくつあっても足りなくなりそうだ。

 極力シャルの方は見ないようにしながら食堂にたどり着くと、今回はアシュタルさんたちはまだ来ていないようだった。

 いつも待たせてしまっていたから申し訳ないなと思っていたから最後にこうして先に来れて良かった。


 席についてしばらく待っていると、二人がやってきた。


「おはようルイス君。今日は早いね」


「おはようございます。さすがにいつもお待たせする訳にはいかないので、今回は早くつけて良かったです」


 と、僕とアシュタルさんが話していると、シャルはハンリエッタさんと話していた。


「あら、今日はシャルもちゃんとした服なのね?」


「わ、私だってドレスぐらい着れますっ!」


「普段はほとんど着ないじゃない。やっぱり今日はルイス君が出発するから気合を入れておめかししたのかしら?」


「もう! そういうことはお母様ならわかっているでしょ!? ルイ君の前でそういうこと言わないで!」


「あらあら、ふふふ……」


 僕とアシュタルさんは、二人のそんな話を聞いて苦笑いすることしか出来なかった。



 ***



 朝食も済み、少しだけ休憩したら出発することにした。


 まず向かうのはここエレチナの王都だ。

 エリカとミリカがまだいるようなら一声かけて、それから龍の出現についてアシュタルさんから話をつけてもらって王城に住むこの国の王様に話を聞くことにした。

 最初はそこまでアシュタルさんにお世話になるのもどうかと思うけど思ったが、今はそれよりもしっかりとした情報と信頼出来る仲間を集めることが最優先だ。

 僕のプライドで大切な人を守れる可能性が高くなるのなら、僕は喜んで頭を下げよう。


「よし、これが国王に渡す手紙だ。城門でこれを見せれば無下に扱われることは無いだろう」


 僕が今後のことを考えていると、アシュタルさんが一通の手紙を渡しながらそう言った。

 その手紙はフォーサイス家の家紋が描かれた封蝋がされており、これを門番の人に見せれば僕が公爵の関係者で王に手紙を持ってきたということがわかるそうだ。

 僕はやらないが、この封蝋さえ再現出来れば王城に入り放題ということにならないだろうか?

 さては王城のセキュリティはガバガバだな?

 まぁ、そこら辺がどうなっているのかは分からないが、本物と偽物を見分ける方法があるんだろう。


 エレチナで王に話を聞いたあとはどこに行こうか。

 治安的にはマレガストの方がいいんだけど、ヴァスガラハの方が強そうな人が多いような気がするんだよね。

 後は、マレガストには王が存在しないらしいから、詳しく話を聞くにしても誰に聞けばいいのか分からないって言う。

 聞ければエレチナ王にそのへんも聞いてみよう。


「そろそろ出ます」


 今後の方針も固まったし、充分すぎるほどに休憩はした。

 後はやれることをやって、龍の出現に備えるだけ。

 今までの努力を無駄にしないように頑張るとしよう。


「分かった。何かあったら直ぐに言ってくれ。私はルイス君に力を貸そう」


「私は待っていることしか出来ませんが、ルイ君が無事に帰ってくることを祈っています。どうかお気をつけて……」


「怪我に気をつけて行ってらっしゃい」


 三人の温かい言葉を受けて、僕はこの街を出発した。

 目指すは王都。

 これから辛く厳しいこともあるだろうけど、大切な人たちを守るために頑張ろう。

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