【第四一話】
遅くなりました。
「あの、お部屋の中を少しだけ片付けてくるのでちょっとここで待っていて貰えますか……?」
「あっ、はい」
無言でシャルの部屋の前までやってきた僕達。
このまま入るのかと思いきや、シャルがこんなことをお願いしてきた。
まぁ、確かに部屋に人が来るなら散らかっていなかったとしても少しくらい片付けしようと思うかもしれない。
それに、こんなに可愛くお願いされれば僕に断ることなど不可能。
ということで僕は少し待つことになった。
ちょうどいいので、今のうちに今後どうするか考えておこう。
当初の目的はエストブルに来て、何も言わずに長期間いなくなったことをシャルに謝ることだったからな。
まず、『仲間を探す』と言っても、僕にそんな当てはない。
信頼出来ると言っても、それにも一定の基準のようなものが必要だろうし。
まぁ、その基準は後々考えるとして、今は仲間になってくれそうな人を探す方法を考えるのが先決だろう。
現時点で一番可能性のありそうなのは、僕のオーダーと同じような古代武器所有者を仲間に向かい入れる方法なんだけど、これも古代武器所有者をどうやって探すのか、という問題がある。
各国の偉い人なんかは古代武器がどこに封印されているのかも知ってそうだけど……。
生憎そんなコネクションは持ち合わせていないので、諦める他ないか。
アシュタルさんにお願いすればいけないこともないような気はするけど、あまり迷惑をかけるのも良くないかな。
約二年後に龍が現れる、なんてそん荒唐無稽な話を信じてくれる人の方が珍しいだろう。
「どうしたもんかな……」
「何がですか?」
「ん!? あれ? もう終わったの?」
八方塞がりで困ってしまい、漏れてしまった呟きに返ってきた声に驚いて変な声をあげてしまった。
慌てて顔を上げると、そこには僕のことを見つめるシャルの姿があった。
「は、はい。片付けが終わったので呼びに来たら真剣な表情で何かを考え込んでいたから声をかけるタイミングを逃してしまって……」
「あぁ……色々今後のことを考えてたらつい集中しちゃって」
「今後……それって私にも話してらえる内容ですか……?」
「え? 全然問題ないけど……」
不安そうな顔でそんなことを聞いてきたので、僕がそう答えると、シャルは微笑んで部屋の扉を開けた。
「詳しいことはお部屋の中でお茶でも飲みながら。どうぞ入ってください」
僕は促されるまま部屋に入った。
すると入った瞬間、外とは違う甘い香りがした。
深く息を吸いたくなる気持ちを何とか堪え、先を歩くシャルについて行く。
チラッと見えた寝室のような場所には、ベッドの上になんの動物がモチーフなのか分からないぬいぐるみが大量に置かれており、そのぬいぐるみを抱いて眠るシャルを想像してしまい、悶絶した。
シャルが可愛すぎて僕が死にそうな件。
「……そんな険しい顔してどうしたんですか?」
「いや、なんでもないです……」
まずい、少し思考が変態的になっていた。
しっかりしよう。
普段の僕だったら絶対に考えないようなことを考えていたぞ。
なんだよ、 深く息を吸いたくなるって……。
一回落ち着け。
そうすればこの思考もどっか行くだろう。
「着いましたよ。そこに座っていてください。今お茶を入れてくるので」
「あ、あぁ……」
僕は案内されたソファに座ってシャルのことを待つ。
辺りを見渡すと、全体的にピンク色のアイテムが多く、チェストの上やソファの端にも可愛らしいぬいぐるみが置かれていた。
昔住んでいた家での僕の部屋に比べると、豪華さに天と地ほどの差がある。
平民と貴族っていう違いはあるんだろうけど、装飾品の有無が大きいように感じる。
僕はそんなに装飾品に必要性を感じなかったから部屋にも置いてなかったんだけど、こんな感じで少し飾るだけでも、部屋の雰囲気が一気に明るくなるのなら次は少しくらい装飾してみるのもいいかもしれない。
「えっと……お茶持ってきましたけど……」
「ん? あぁ。ありがとう」
僕があれこれ考えていると、シャルがトレーにカップを二つ持って戻ってきた。
なんかこうやって世話されてたら堕落していきそうな気がする。
カップを僕の前のテーブルに置くと、シャルは落ち着かない様子で
「その、あまり真剣に見られると恥ずかしいのですが……」
と、言ってきた。
そのシャルの可愛さに打ち震えていると、シャルは、ポスンと僕の隣に腰を下ろし、肩に寄りかかってきた。
「……どうしたの?」
「ルイ君は……またすぐにどこかに行ってしまうんですか?」
「うん。明日にでも旅立とうと思ってる」
「その旅に私は連れて行って貰えないんですよね……」
「ごめん。でも、きっと危険な度になると思う。そこにシャルを連れては行けない」
僕がそういうと、シャルは少し顔を伏せた。
「龍って、ルイ君が行かなくても……他の誰かが何とかしてくれるんじゃないですか?」
「そうだね、そうなればよかった。できることなら僕だって死ぬ可能性のあることなんてしたくないから……。でも、誰かが、じゃなくて僕じゃないとダメなんだ。それがこの剣を抜いた僕の運命だから」
あの時、家の地下でオーダーを抜いた時から決められていた運命。
僕だけ、とは言わないけど僕も行かないと龍に勝つことは難しいだろう。
それだけこのオーダーには力がある。
「私は……また離れ離れになるのが怖いんですっ! 今回はちゃんと帰ってきてくれました。でも、次もそうなるとは限らないじゃないですか! もしかしたら……今度はもう帰ってこないかもしれない」
「シャル……」
「好きな人を、大切な人を失いたくない。そう考えるのはおかしな事ですか……?」
その言葉は僕の心に突き刺さり、心臓がキュッと締め付けれるような痛みを感じさせた。
シャルも僕と同じように考えてくれていた。
大切な人を失いたくない。それが不安で、でもついて行くことは出来なくて……。
「……全然おかしくないですよ。僕だって同じだ。僕はシャルを失いたくないから戦うんです。シャルのことが大切だから」
竜に村を焼かれ、大切なものを失って、それからずっと怯えていた。
また僕は大切なものを失ってしまうのではないかと。
大切なものなんて作らなければそんな思いはしなくて済むだろう。。
……それでも、もうできてしまったから。何があっても守らなきゃって、そう思って。
「まだ誰にも話してなかったんですけど、少し僕のことを話してもいいですか?」
何故だろうか。
シャルになら全部話してしまいたいと思うのは。
理不尽に全てが奪われ、どうすることも出来なかったこの気持ちを。
「ルイ君のこと、ですか……?」
「はい。僕がどこで生まれて、今までどうやって過ごしてきたのか」
「……聞きたいです」
あの時のことはずっと覚えてる。
きっと一生忘れることは無いだろう。
「僕はここからずっと北に行ったところにあった名前も無いような村で生まれました。僕はそこで、決して多くはない村の人達と楽しく生活していたんです——」
父さんは剣が得意で、よく一緒に森に入って動物を狩っていた。
母さんは気遣いのできる人で、僕が魔法の適性がないとわかって落ち込んでいた時には沢山慰めてくれた。
魔法の適性がない人間なんて居ないと思っていた当時の僕は、これで村に居られなくなってしまうのではないかとビクビクしていた。
しかし村のみんなはそんな僕を拒絶することなく、それまでと変わらず、いや、むしろ優しく接してくれた。
みんな優しくて、こんな幸せな日々が一生続けばいいとさえ思っていた。
しかしある日、僕がちょうど一〇歳の時に、僕が村から少し離れた川で魚を捕まえている間に、村は突然現れたモンスター群と竜によって無くなってしまった。
助かったのはその時村にいなかった僕だけだった。
僕が大切に思っていたものは一瞬で無くなってしまったんだ。
その後は竜への復讐心だけで七年間、何とか生きてきた。
でも、いざ村に戻ってみたら、父さんや母さん、村のみんなの声が聞こえてきて……復讐だけじゃなくて僕が幸せになるために生きろって、そう言われたんだ。
それからこの街に来る途中にモンスターに襲われているシャルを助けて……って、感じ。
「だから、僕はもう何も失いたくない。僕が頑張れば守れるものがあるというのなら……僕はいくらでも頑張れる」
「…………」
「ついでなんで僕の目標も話してしまいますか」
「目標……?」
「はい。僕の目標は現れる龍を討伐、もしくは撃退することで英雄になることです」
「英雄……ルイ君は、なんのために英雄を目指しているの……?」
これは本人に言うのは……なんか恥ずかしいんだけど。
「シャルに釣り合うだけの男になるため……です」
「え?」
「だからッ! シャルと正式に付き合ってるって、そう言えるような男になるために! 僕は英雄を目指してるんですよ! なんか文句あるんですか!?」
「ふ、ふふっ……そんなことのために……」
「なっ!? そんなことって……」
「私は身分なんて気にしません。ルイ君との交際については時期を見て発表する予定だったんですよ? それなのに、どこかの誰かさんは一年以上も彼女のことをほっといて失踪するんですから」
「うっ……」
「でも……そうやって色々考えてくれてるって知れて、すごく嬉しかったです。ルイ君の過去を聞いて、今までよりもずっとルイ君と近く慣れたような気がします」
「そう、だね……僕もシャルに話して少し気持ちが軽くなったように感じる」
「今回の龍については、ルイ君の目標のために協力します。本当はルイ君と離れたくないですけど、私のために頑張ると言ってくれている彼氏を信じて待つのも彼女の務めなのかなって、そう思ったので」
そう言ってシャルは僕の顔を両手で包んだ。
「ですが、ちゃんと帰ってきてください。怪我もしないでください。それと……無事に帰ってきたら私と結婚してください」
「……ははっ、わかった。何としてでも帰ってくるよ。怪我をしない、なんてことは言えないけど……。結婚は、無事に帰ってきたら僕から改めて言わせて欲しいな」
「じゃあ楽しみにしてますね」
シャルはそう言いつつ目を瞑り、ゆっくりと顔を近づけて来た。
そのまま僕達の唇が触れ合い——。
「ッ! これはルイ君が頑張れるように先にあげるご褒美です。帰ってきたらもう一度、今度はルイ君からしてくださいね……?」
僕はそう言って微笑むシャルを直視することが出来ず、「んっ!」と、返事とも言えない返事を返すので精一杯だった。
なんか書いてて私が砂糖吐きそうになりました。
一度でいいからこんな恋をしてみたい(白目)
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