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【第三話】

「とりあえずやりたいことはやったから、街に戻ろうかな……」


 いつまでもここにいてもしょうがない。

 みんなへのお別れは済ませたし、来ようと思えばいつでも来れる。

 ここは僕の故郷なんだから。


 僕は剣を持ったまま、街へと続く道を歩き始めた。



 ***



 人気のない道を歩き続けること数分。

 遠くから金属同士のぶつかり合うような音が響いていた。

 ていうか割と前から聞こえていた。

 流石に無視し続けるのもどうかと思ったからちょっと様子を見に行くことにする。

 小走りで音のする方に向かう。


 結構音が近くなったことから、この辺で何かあるのは確かなんだけど、なんか……悲鳴みたいなのが聞こえるんだけど、これ行っても大丈夫かな?


「まぁ、ここまで来て見て見ぬふりして街に行くとか出来るわけないよな。悲鳴とか聞いたら尚更……」


 足音を立てないようにこっそりと音のする方へ向かう。

 そして、木の影からその場所を見てみると、三体のモンスターと二人の騎士が戦っているところだった。

 どうやら金属同士のぶつかり合う音は剣戟の音だった様だ。


 モンスターとはこの世界に生息する危険生物の総称だ。

 この世界には多種多様な生命体がいるが大きく分けると、人、亜人、モンスター、動物の四つに分けられる。

 人はまぁ、そのまんまで純粋にただの人だ。

 亜人はそのひとくくりでもいくつかの種族がおり、獣人やエルフ、ドワーフなどがいる。

 モンスターは、人や亜人に危害を加える生物のことを言う。

 モンスターも多くの種族がいるが、数が多すぎるため紹介は省略する。

 最後に動物だが、これもそのまんまで僕達が普段食べている牛や豚、ペットなどとして飼われる犬や猫などのことだ。


 今回あの騎士たちに襲いかかっているのはファントムソルジャーと呼ばれるモンスターだ。

 見た目は普通の人だが、幽霊であり手に持った武器で攻撃してくる。

 このモンスターには厄介な性質があり、一人で倒すのは困難とされている。

 なんとこのファントムソルジャー、持っている武器と頭以外は衝突判定が無い。

 それ以外の場所を攻撃しても攻撃がすり抜けてしまう。

 倒し方としては、一人が正面で攻撃を受けている間に、もう一人が不意打ちで頭を狙うのが一番いいとされている。


 だが、騎士たちは三体のファントムソルジャーに苦戦していた。

 それも、さっきの倒し方は相手よりも自分たちの人数が多いことが前提条件となっているから、こうして三対二の状況を作られるとどうすることも出来ない。

 途中聞こえてきた悲鳴は騎士たちの後ろに倒れている馬車から聞こえてきたものだろうか。


「ま、そんなことはどうでもいいか……」


 ちょうど相手の気を引いてくれている人達がいる事だし、今から僕がこっそりバレないようにファントムソルジャーをぶん殴れば全て解決する話だし。


 問題点としては、普通の武器ならその一撃で倒せるだろうけど僕の場合は鞘に入ったままの剣という舐め腐ったような武器しかない。

 これで倒しきれるかが一番心配だ。

 腰に使える武器があるのに利き手じゃないからまともに使えないのがもどかしい。

 こんなことなら両利きで生まれたかった!


 グダグダ言ってもしょうがないので、僕はこっそりとファントムソルジャーに近づいていく。

 木影から出た時点で騎士たちには僕の存在がバレたが、何とか手に持つ剣でファントムソルジャーを殺るというジェスチャーをすることで受け入れて貰えた。


「ふっ!」


 そして、ファントムソルジャーのすぐ近くまで行けたので、僕は全力で剣(鞘付き)を振り抜く。

 一体の後頭部をぶん殴ると、直ぐに次の敵へと殴り掛かる。

 最低でも二体は倒しておきたいと思っていたからだ。

 何とか二体目もぶん殴ってそいつが地面に倒れると同時に、最後の一体は僕の存在に気づいて、そして仲間が倒されたのを見て逃げ出した。


 一撃殴っただけじゃあやはり倒しきれなかったのか、たった今倒したファントムソルジャーが立ち上がろうとしていたので、僕は追加で剣で叩き潰した。

 このままだと最初のやつも生きてるだろうなぁと思って振り返って見ると、そっちは二人の騎士によって消されていた。


 僕が見ているのに気づいた騎士のひとりが、僕の方に近づいてきた。


「色々と聞きたいこともあるが、まずはご助力感謝する。あのままでは我々二人ともやられていただろう」


 そう言って、頭を下げた。


「いえ、僕もたまたま近くにいたから来ただけなんでそんなに気にしなくてもいいですよ。」


 相手が騎士ということもあり、普段よりも丁寧な言葉遣いで返事をする。

 騎士が守っているということは後ろにある馬車に乗っているのは貴族だと思ったからだ。


「……お、終わったの?」


 そんなことを考えていると、馬車の扉が少し開き、中から金色の髪の女の子がこちらを覗いていた。


「お嬢様! お怪我はございませんか!」


 すると、もうひとりの騎士が、そんなことを言いながら女の子の方へ走りよって行った。


「私は大丈夫だけれど、あなたたちの方が怪我をしているじゃないですか」


「我々はいいのです。お嬢様の盾であり剣なのですから。この程度なんのことありません」


 騎士がそう言いながら胸に手を当て敬礼した。


「もう。お屋敷に戻ったらちゃんと治療するんですよ?」


 女の子は呆れたような顔をしながらも騎士にそう言った。


「それで、そちらの方は……?」


「はっ、我々がモンスターに苦戦しているところ加勢して頂いた……」


 僕と話していた騎士が女の子に尋ねられ、答えていく。

 最後なんか僕の方見てるけどなんでだろう?

 一通りの説明は今してたし……あ、そういえば名乗ってなかったっけ?


「えーっと、ルイス・イングラムです、ルイスって呼んでください。まぁ加勢って言ってたんですけど、本当たまたま近くを通りかかったら戦闘になってたんで割り込んだだけなんですけど」


「ルイス様ですね。私はシャルロット・フォーサイスと申します。シャルとお呼びください」


 そう言って女の子、シャルロットはスカートの両端を摘みながら優雅に一礼した。


「ルイス様はたまたまと言いましたが、私たちが助けられたのも事実です。何もお礼をしないという訳にはいかないのでどうか一度お屋敷の方まで来ていただけませんか?」


 名前聞いた時は思い出せなかったけど、フォーサイスって言ったら僕がこれから行こうとしてた街の領主じゃないか?

 7年間生活していくうちに色々と情報も集めてたけど確かあの街の領主って公爵だった気がするんだけど……


「いえ! ほんとたまたまなんで。全然気にしないでもらって……はい」


 僕が何とか屋敷に行かなくて済むように断るが、言えば言うほどシャルロット様の顔が悲しそうなものに変わっていく。


「今お時間が無いようでしたら後日でもいいのですが……それとも私のお家にいらっしゃるのは……嫌ですか……?」


 くっ……

 ちょっと涙目で上目遣いにそんなこと言われたら……

 正直行きたくないけど。

 公爵家にお呼ばれとか何かちょっとでもミスしたら首とびそうで怖い……

 でもなぁ。ヘタに理って「せっかく誘ったのに! 断るなんて信じられない! 殺っておしまい!」とかなったら嫌だしなぁ……


「えーっと……じゃあ……お邪魔させてもらいます」


 どうしよ……僕全然敬語とか使えないんだけど。

 このまま行ったらそれこそ首飛ぶんじゃ?


「それならすぐにでも出ましょう! ルイス様は私と一緒に馬車に乗ってもらうことになるのですが良いでしょうか?」


「え? いや、僕は歩きでいいですよ?」


 武器から手が離れない状態で貴族のお嬢様と同じ馬車に乗るなんてとんでもない!

 歩きでいいと言うか歩きがいい。


「そんな! お招きする立場なのにお客様を歩かせるなんてそんなこと出来ません!」


 シャルロットはそんなことを言ってくるが、どうにかして断れないものだろうか……


「ルイス殿、どうかお嬢様と一緒に乗っていただけないだろうか」


「えっ……?」


 僕がどう断るか悩んでいると、騎士の一人がそう言ってきた。


「今でこそ気丈に振舞っているがまだ怯えてらっしゃる。分かりずらいが肩が震えているのがその証拠だ。我々は護衛として外にいなければならないがルイス殿はそうでは無い。お嬢様と馬車に乗っていただければ、お嬢様の不安なども安らぐと思うのだ。どうかお願いしたい」


「……分かりました。それじゃあ一緒に乗らせていただきます」


 僕がそう言うと、騎士は「ありがとうございます」と礼を言ってから馬の手入れをしに行ってしまった。


「それではルイス様! こちらへどうぞ!」


 そうして僕はシャルロットに案内されるまま馬車の中に乗り込んだのだった。

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