【第三七話】
遅くなりました
「ふぅ……」
村を出てから何体かのモンスターに遭遇した。
ゴブリンやウルフ、少し強めなやつだとオークなんかが出てきた訳なんだけど……。
「なんか……モンスターってこんなに弱かったっけ?」
久しぶりのちゃんとしたモンスターとの戦闘ということで意気込んで挑んだはいいものの、キャメルさんやイーリスに比べると動きは遅いわ、力も弱い、複数いても連携なんてないし……。
いやね、あの人たちと比べちゃいけないってのはわかってるんだけど、一年前だったら苦戦したような相手がこうもあっさり倒せちゃうと、どれだけあの訓練が地獄だったか分かるというか……現実逃避もしたくなるといいますか……。
相手が弱く感じるのに、この装備の力も大きく関係してると思う。
普通は攻撃されれば怪我するからできるだけ攻撃に当たらないようにするけど、僕の場合はこの装備が優秀すぎてここら辺のモンスター相手なら食らってもダメージがない。
わざわざ避けなくても済むから攻撃に集中できて、モンスターが弱く感じるんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、エストブルにたどり着いた。
検問のようなものがあったので、順番待ちをしてから身分証の代わりに一〇〇〇ペリを払って街に入った。
昔来た時は金なんてものも持っていなかったから、並んでいた行商人の馬車に勝手に潜り込んでこっそり入ったっけ……。
あの時は生きるのに必死だったからしょうがなかったとはいえ、今となっては少し罪悪感が……今度アシュタルさんにお酒でも持っていこうかな。
あれ、アシュタルさんから貰った金で酒を買って、自己満足でも罪をゆるしてもらおうとか、僕ってさては最低なやつか?
「ま、まぁ……それはそれってことで……」
ひとまずエストブルに着いたから、これからどうするか考えよう! うん、そうしよう!
シャルに直接一言伝えてから旅に出るか、それとも手紙で済ませるか……。
公爵家令嬢に釣り合うような男になるまでシャルには会わない、なんて考えていたけどそんな意固地になって考えうる最悪の事態である『僕が死ぬ』なんてことになったら悲しむのはシャルなんじゃないか……?
ここは直接会って、今までのこととかこれからの事をしっかりと話した方がいいな。
「ていうか、『王都行ってくる』とか言って一年以上音沙汰無しとか、愛想つかされてないよね……?」
もしこれでシャルに「ルイス? 昔の男ですわ!」なんて言われたら、ショックで死ねる。
竜は倒せても好きな子には勝てない、か……。
いや、シャルがそんなことを言う子じゃないってのは僕が一番わかってるんだけど!
なんかこんな事考えてたらどんどんと不安になってきた……さっさとフォーサイス家に向かおう。
***
そんなわけで走ってきましたフォーサイス家。
相変わらずでかい。
「おい! 貴様、領主様の御屋敷に何の用だ!」
僕が屋敷の門をくぐろうとすると、門番らしき男性に止められた。
「えーっと、シャルロット様にお話したいことがあって来たんですけど」
何となく敬語になりつつそう答えると、門番さんは僕を怪しげな目で見ながら
「なに? そんな話は入ってないが」
と、言ってきた。
「前にシャルロット様をモンスターから助けたことがあったんですよ」
前回来た時に居なかった人だと思うから一から説明して通してもらおうと思ったんだが……
「あぁ……貴様のような輩がたまに居るんだ。そうやってシャルロット様に言い寄ろうとしてくる奴がな!」
全く信じて貰えなかったどころか、とんでもないことを聞いてしまった。
シャルに言い寄ろうとしている輩が居ると。
どこの誰よ、それ。
「門番さん以外の人って居ないの? 一年くらい前にアシュタル様とも話したことあるんだけど。もしくはシャルロット様に『ルイスが来てる』って伝えてもらったりとか」
「何故私が貴様のような輩のためにそんなことをせねばならんのだ! 貴様をここから先に行かせることは無い! さっさと失せよ!」
ダメだ、全く話にならない。
僕のことを知ってる人でも来てくれないとずっとここで足止めされそうなんだけど……。
いっその事この人ぶっ倒して入っちゃうか?
僕がそんなことを考えていると、いきなり街中に鐘の音が鳴り響いた。
その鐘の音を聞いて、さっきまで普通に生活していた人達が慌てたように走り回り始めた。
この鐘がなんなのか門番さんに聞こうとすると、門番さんは顔を真っ青にして屋敷の中にすっ飛んで行った。
「なにこれ? 緊急事態っぽいけどどういうこと?」
何が起こっているのかも分からず、説明もなしに取り残されてしまった。
門番さん中に入って行ったし僕も入っていいかな?
いやいや、勝手に入るのはちょっと……。
「おぉい! そこの人! 急いで領主様に取り次いでくれ!」
どうするべきか悩みに悩んでいると、どこからか騎士風の鎧を纏った人が走ってきてそんなことを言ってきた。
僕も誰かに取り次いで欲しいくらいなんですけど……。
「門番さんはさっき屋敷の中に走って言っちゃったので僕にはどうすることもできないですけど」
「む、一般市民だったか、済まない、こんな所にいたものだから屋敷の者かと勘違いしてしまった。さっきの鐘は聞いたと思うが、今この街にモンスターの大群が迫ってきている。危ないから早く避難しなさい!」
どうしてみんなが慌てていたのかは分かった。
さっきの鐘もモンスターが攻めてきたとかそういうのを市民に知らせるための鐘なんだろう。
「わかりました。新鮮にありがとうございます。……ちなみになんですけど、モンスターの大群ってどっちから来てるかとかって教えて貰えたりしますか?」
「あぁ、避難のために必要な情報だからな。モンスターの大群は王都の方向から来ているらしい。数はだいたい一〇〇程で、内訳としてはゴブリン、オーク、ワーム、レッドキャタピラーくらいとの事だ。だから王都側には近づくなよ」
「了解です。それじゃあ僕はこれで!」
僕はそれだけ言い、言われた通り王都方面とは真逆の方に走り……騎士風の人が見えなくなった辺りで大通りから裏路地に入り、そのまま王都方向に走り始めた。
「ただシャルに一言伝えに来ただけなのになんでこんなことに……」
一〇〇体ほどのモンスター群。
こちらの戦力がどの程度なのか分からないし、勝てる保証もない。
だけどそれとは関係なしに今ちょっとイライラしてるんだよね。
特にあの門番さんとか、シャルに言い寄ってた人達とか、門番さんとか。
門番さんも僕の言ったことを全部嘘って決めつけるんじゃなくて一回誰かには確認すれば直ぐに本当だって分かることなのに。
シャルに言い寄ってる奴がいるのだってそうだよ。
発表してないだけでシャルは僕と付き合ってるのに……。
発表してないんだから分かるわけないって言われれば確かにそうなんだけど、こう……なんかモヤモヤするんだよ!
……だから、この気持ちを発散させるためにモンスターには犠牲になってもらおう。
八つ当たり感覚で生き物を殺すのもどうかと思うけど、これはしょうがない。
一〇〇の知らない命よりも一の大切な命だ。
命の重さは平等かもしれないけど、命の価値は平等じゃないから。
僕の中で一番大切なのはシャルなんだ。
モンスターがこの街にたどり着けば待っているのは多くの死だ。
もしかしたらその人たちの中にシャルがいるかもしれない。
ならば僕はその原因を断とう。
その為に……大切な人を守るために、僕は強くなったのだから。
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