【第三六話】
遅くなってしまい申し訳ありません!
「起きろ!」
「はいっ!」
朝。キャメルさんの大声で目が覚めた。
……朝というかまだ日も昇っていないような時間なんだけど。
「さぁ、出発の準備をするぞ」
「えっと、こんな時間に出発するなんて聞いてなかったんですけど……」
「言ってなかったからな」
「……どうしてそう大事なことを言っといてくれないんですか」
「……忘れてた」
「そういう所、直した方がいいですよ」
全く……気持ちよく旅立つはずが、どうしてこんなことに……。
まぁ、キャメルさんらしいと言えばらしいのかもしれないけど。
もうちょっと余裕を持って出発したかったなぁ……。
「ま、まぁまぁ! そろそろイーリスが朝食を準備してるだろうから行こうか!」
そう言ってキャメルさんは逃げるように部屋を出ていってしまった。
僕は昨夜貰った装備に着替え、そんなキャメルさんの後を追ったのだった。
***
僕が食堂に着くと、キャメルさんはもう既に椅子に座ってふんぞり返っていた。
「ビシッと決まっているな!」
「……おかげさまで目が覚めましたからね」
「うっ……」
何も悪くないと思っていそうなキャメルさんに少しイラッとして、皮肉を返してしまったがキャメルさんは何も言えなくなって黙ってしまった。
「ルイス、起きてきたんじゃな。もう朝食ができるぞ」
と、微妙な空気になっていると、イーリスがキッチンの方から顔を出した。
「おはよう。起きたというか起こされたんだけどね」
「あー、早朝に出ることを伝え忘れていたのぉ……スマンのじゃ」
「ううん、昨日は色々あったし、それに何かしら理由があってこの時間になったんでしょ?」
「うむ、妾がルイスと最初に会ったあの廃村に転移させる予定なんじゃが、もしあの場所に他の人がいたら問題になるかと思ってじゃな……人のいないような早朝になったんじゃ」
どうやって転移するのかは分からないが、確かに人に見られない方がいい。
転移って架空上の移動方法でどんな魔法を使っても不可能だとどこかで聞いたことがあるし。
「……なんかお前さん、私の時と態度が違うような気がするんだが」
「だってイーリスはちゃんと謝りましたし」
「む、私も謝ったぞ!」
「いやいや、なんでそんな直ぐにバレるような嘘つくんですか」
ついさっきの出来事なのに……。
「まぁまぁ、さっさと食べて出発するのじゃ。少し早く修行が終わっただけで時間は足りてないのじゃぞ」
確かに。
僕はできるだけ早く仲間を見つけて強くならないと。
「それじゃ、食べますか」
***
「美味しかったよ。全部解決したらまた食べたい」
「そうじゃな。無事に帰ってくることが出来たら作ってやらんことも無いのじゃ」
「ふっ、その時は私も手料理を振舞うとしよう!」
「えぇ、と。た、楽しみにしてますね……」
せっかく無事に帰ってきてもキャメルさんに殺されてしまうんじゃないか?
ま、まぁ? 何とかなるでしょ。頑張れ、未来の僕。
「じゃあ転移を開始するのじゃ。これからルイスには多くの困難が降りかかると思うのじゃ。でも、ここで学んだことをしっかりと活かせば必ず乗り越えられるはずじゃ。だから、絶対に死ななんでくれ」
「着いていけないのが悔やまれるが私が教えられることは全て教えたつもりだ。私たち吸血鬼はお前さんのことを応援しているぞ。もし本当にどうしようもなくなった時は呼べ。必ず助けに行ってやる!」
食事も終わり、いざ旅立ちの時。
早朝ということもあり見送りは二人だけだ。
別れに寂しさがないと言えば嘘になるが、今はそれよりもワクワクの方が勝っている。
これから出会う人たちや、自分がどこまで強くなれるのか。
そんな期待が胸を埋めつくしていた。
「世間では吸血鬼は絶滅した種族と言われていますし……僕もキャメルさん達と行けたら心強いんですけどね。さすがに使う魔法が特殊すぎて……」
「わかっているさ。何度も言われたからな……ただ、心配なんだ」
「……ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。なんてったって僕はキャメルさん達に鍛えられたんですよ? そう簡単には死にません。慢心なんかなしに、そんなヤワな鍛えられ方してませんから」
キャメルさんとの訓練で死にかけたことなんて一度や二度じゃない。
そんな訓練を乗り切った僕がそう簡単なことで死ぬことは無い……と思う。
「ふふっ……そうだな。よし! なら全力でやってこい!」
「はい!」
「転移するのじゃ。ロッドウェルからメリアガルドに転移するのに膨大な魔力が必要になるんじゃが、ルイスの魔力からも多少消費されるようになっておる。だからもしかしたら転移後にだるさを感じるやもしれぬが……」
この世界にある大陸の一つ、ロッドウェル大陸は元々大した生物のいない『大陸』と言うには少しばかり小さい島だ。
しかし、色々な大陸に居た吸血鬼たちが、迫害され、絶滅の危機から逃れるためにこの大陸に隠れ住み始めたとキャメルさんに聞いた。
僕が住んでいた村や王都なんかがあるのは、このロッドウェル大陸から相当離れた位置にあるメリアガルド大陸だ。
一年前に王都の図書館で見た世界地図で大体の大陸名と配置は覚えていた。
国名なんかは多かったのもあって自分の住んでいたエレチナ王国や、ヴァスガラハ王国、マレガスト王国など、メリアガルド大陸内の国名しか覚えられていない。
向こうに戻ったらもう一回ちゃんと覚えた方がいいだろう。
これから世界各地を巡る旅に出るんだから……。
「了解。まぁ、僕は魔法が使えないからそこまで気にすることでもないのかもしれないけどね」
何はともあれ、これで吸血鬼の里の人たちとは一旦お別れだ。
「必ず生きて帰ってこいよ!」
キャメルさんのそんな声を最後に、僕の視界は光に包まれた。
***
「帰ってきた、か。」
視界が回復するのと同時に目に入った景色は、随分と懐かしいものだった。
一年前とは違い、地面には少しばかりの草花が生え、それ以外はあの時から何も変わっていない僕の生まれた村。
僕は村のみんなが眠る墓に向かい、一年ぶりに手を合わせた。
「父さん、母さん、みんな……しばらく来れなくてごめんね。色々と大変なことになってね、僕は二年後、龍とやらと戦わないといけないらしいんだ。……怖いけど、僕が逃げたら僕の大切な人たちが傷ついてしまうらしい。だから——」
自分に龍が倒せるのか不安。
でも、逃げることで大切な人たちが傷付くことの方がもっと怖い。
たくさんの人たちとの出会いに対する期待。
キャメルさん達との修行で、大変だったことなど。
僕はこれから起こることや、この一年間であったことなどを話し続けた。
「——っと、そろそろ行かなきゃ。……次はいつ来れるか分からないけど、また来るよ。必ず」
気がつけばもう日が出ていた。
早いところエストブル……フォーサイス家が領主をしている街に行って、そこでシャルに色々と伝えなければ。
そんなことを考えながら、僕は村を出てエストブルに向けて歩き出した。
更新に期間が空いてしまいすいません。
なかなか上手く書けずにズルズルと時間ばかりが過ぎていました。
世間ではコロナが流行っていますが、皆様もどうかお体に気をつけてお過ごしください。
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