【第三五話】
毎度の事ながら遅れてすいません。
キャメルさんの家に着くと、中からはとてもいい香りが漂ってきた。
いい匂いということは今日の晩ご飯はイーリスが作ってくれたのかな。
キャメルさんの料理は……うん。不味くはないんだけどね?
ちょっと独特な味をしているというか、好みが別れる料理なんだよね。
ちなみに僕は嫌いじゃない。
「ただいま戻りました」
そう言いながら家に入ると、キャメルさんは椅子の上で膝を抱えており、イーリスがキッチンで料理を作っていた。
「……おかえり」
「おかえりなのじゃ。もうすぐ夕飯ができるから長と一緒に席について待っておれ」
僕の帰宅に気づいた二人が、そう言ってきたので僕はイーリスに言われた通り席について待つことにした。
「……キャメルさんはなんでそんな不貞腐れてるんですか」
「別に……なんでもない」
「なんでもない訳ないでしょうに。イーリス、なんでキャメルさんこんなご機嫌ナナメなの?」
「ん? あぁ、それはじゃな……今夜がルイスと食べられる最後の夕飯になるから、長が自分で作りたいと言い出してじゃな……」
「あー、それでイーリスが断ったのが原因だと」
キャメルさんは何故か自分の料理がめちゃくちゃ美味いものだと思い込んでいる。
だから食べる側も不味いといえない。
「そんなことないぞ」
「え? じゃあなんでそんなに機嫌悪いんですか?」
「だからなんでもないと言っているだろうが! 私のどこをどう見たら拗ねてたり機嫌が悪いように見えるんだ!?」
あぁん!? とガンを飛ばしてくるキャメルさん。
そういうとこだと思います……とは口が裂けても言えず、僕はなんとも言えない気持ちになりながらも苦笑いをするしか無かった。
「できたのじゃ。夕飯は妾が腕によりをかけたビーフシチューじゃ!」
そうこうしているうちに、イーリスが料理を作り終えたのかトレーに器を三枚乗せてやって来た。
器からは湯気が立ち上っており、イーリスが来ると同時にい匂いが漂ってきた。
「冷めないうちに召し上がれなのじゃ」
「それじゃあ……」
そう言ってスプーンで掬い一口。
僕は咄嗟に「美味い! 美味いぞぉ!!」と叫びながら口から光を放ちそうになったが何とか我慢した。
イーリスの作ったビーフシチューは、肉はトロトロ、芋はホクホクと口の中に入れただけで固形物がとろけて消えてしまうようなものだった。
僕とキャメルさんがビーフシチューを食べている間にイーリスはパンを持ってきてくれて、それをビーフシチューに浸して食べると更に味に変化がでていくらでも食べられるようだった。
「どうじゃ?」
「美味いよ! ここ一年、色々な料理を食べてきたけど今日のビーフシチューが最高に美味い!」
そう僕が絶賛すると、イーリスは嬉しそうにはにかんだ。
その傍らで、キャメルさんは……
「お、美味しいが……私でも、作れるんだからな!」
と、そう言っていた。
僕はそんなキャメルさんの言葉を笑いながら聞いていた。
***
夕食が終わり、今は三人でソファで寛いでいた。
準備はイーリスがやってくれたので、片付けは僕とキャメルさんでやった。
キャメルさんは若干サボり気味だったので、ほとんど僕一人でやったようなものだけど……
片付けが終わり三人でまったりと休んでいると、二人が急に立ち上がり「ここで待っていろ」と、言って部屋から出ていってしまった。
「えぇ……?」
二人の突然の行動に困惑が隠せない僕は、一人部屋に取り残された。
それから十分程で二人は戻ってきた……。
その両手に何かを抱えて。
キャメルさんとイーリスが持ってきたのは、装備一式だった。
「えっと……これは?」
「お前さんの防具があまりにも貧弱だったから、そのままでは死にに行くようなものだと思ってな。私たちの方で勝手に作らせてもらった」
「サイズなんかはルイスが寝ている時に妾が測ったのじゃ」
そう言いながら、二人は持ってきた装備を渡してくる。
二人が作ってくれたのは全部で五つ。
インナーとブーツ、マントに服とスボンだ。
それらは全体的に赤黒い色をしているが、見た目はシンプルで僕の好みだった。
それぞれに一箇所、剣に吸血鬼の翼が生えたエンブレムが施されている。
「こんなに作るの、大変だったんじゃないですか?」
「そうだな。まぁ、大変じゃなかったと言えば嘘になるが、それもお前さんの為と思えば自然とやる気が出てきたわ」
「それらの装備には妾たちの血を染み込ませてある。ルイスも何度も体験したと思うが、妾たち吸血鬼の血にはものを再生させる力があるのじゃ。だからその血を装備に染み込ませることによって、多少破けたりなんかしても自然と再生するようになっておるのじゃ」
「そんなすごい装備を僕のために……」
「ふっ、感動するのはいいが、せっかく作ったんだ。是非来て見てほしいんだが」
「そうですね、それじゃあ少し着替えてきます」
そう言って、僕は二人から装備を受け取り部屋を出た。
全部持つと結構な重さになったが、二人が僕とのために作ってくれた装備だと思うと重さなんて感じなかった。
僕は脱衣所まで移動し、そこで着替えをした。
インナー、ズボンと身に付けて、ブーツを履いた。
インナーは肌に吸い付くような素材でできており、着た瞬間に少しだけ感じていた肌寒さが消え、ちょうどいい温かさになった。
ズボンの裾は紐で締めることができるようになっていたので、軽く締めてブーツの中にしまった。
次に服を着て、マントを装備した。
服は色々と装飾のされたかっこいいものだった。
左胸……心臓の位置にエンブレムがあり、襟元から右肩にかけてなんかよくわからない紐が取り付けられている。
着てみた感想は「なんというか、すごい……」というものだった。
今まで来ていたのが、なんの装備でもないただの服だったのに比べ、こちらはしっかりと防御力のある装備を身に付けているのにも関わらず、今までよりも軽く感じる。
もしかしたら気の所為かもしれないけど……。
それに純粋に見た目がかっこいい。
そう、見た目がかっこいいのだ!
僕は今まで服にお金をかけられるほど余裕がなかったから、着られればなんでもいいと思っていたが、一度こういうオシャレ? な感じの服を身につけてしまうと沼にハマりそうだ。
いつまでも服に見とれていてもしょうがないので、僕は二人の元に戻ることにした。
どんな反応をされるだろうかと、少しドキドキしながらドアを開けて部屋に入る。
すると……
「おぉ! 予想以上に似合っているな!」
「ふむ……ルイスの銀髪と、その黒っぽい装備は相性がいいのじゃ。かっこいいと思うぞ!」
「……うっす」
二人に絶賛されて、恥ずかしくなってしまい上手い返事が返せなかった。
髪と言えば、フォーサイス家で風呂に入った時、髪が伸びてたから切ろうかと思っててすっかり忘れていたな……。
めんどくさいし適当に切ろうかな。
「それにしても、お前さん……よく誰の助けも借りずに軍服を着れたな」
「ぐんぷく? それってこの服のことですか?」
「そうだ。お前さんの着ている服は軍服と言って、三〇〇年程前に、軍で着られていた制服だ。その後龍の襲撃で、布製の防具では使い物になら無いと言うことに気付いた各国の軍はプレートアーマーの装備が義務付けられたのだがな」
へぇ……こんなものがあったのか。
僕の戦闘スタイル的に、プレートアーマーじゃ動きを阻害するだけで役に立たないから、こういう装備にしてくれたんだろうか。
「この服、着るのは腕通して前を留めるだけだったんで、そんな難しいこともなかったですけど」
「ん? それを着るのにもっと多くの工程があるはずなんだが……」
「あ、それなら妾が初心者でも着れるよう、できるだけ簡単な造りにしておいたのじゃ。急を要する時に、装備するのに時間が掛かってしまっては意味が無いからの」
「むぅ、確かにその通りだが……」
キャメルさんは少し納得がいかないような顔をしながらも、数秒唸り、それから諦めた。
「まぁ、着やすいのに越したことはないからな……性能自体は変わってないのだろう?」
「そこはバッチリなのじゃ。そこら辺の鎧よりも断然優れた防禦力をしておる」
「……こんなにすごい装備を作ってくれてありがとう。大切にするよ」
二人の話を聞いて、やっぱりこれはすごい装備なんだと再認識し、改めて感謝の気持ちを伝えた。
「そう言って貰えて嬉しいのじゃ。ただ、それはルイスの身を守るためのもの。大切にしてくれるのはありがたいが、ルイスの命が一番大切だということだけは覚えておくのじゃ」
「装備を守って死んだ、なんてことになったら本当に馬鹿らしいからな」
「はい、気をつけます」
それから僕達は日付が変わるまで語り合った。
今後のことや、全てが終わった後のこと。
それぞれの夢なんかを。
別れを惜しむかのように、語り続け……日が変わる頃にベッドに潜った。
起きれば僕はここを発たなければならない。
龍との戦いに向けて、戦力を集めるために。
僕にはまだ力が足りない、仲間も足りない。
足りないものばかりだけど、きっとやれる。
僕には……守りたいものがあるから。
余談だが、寝ようとしたところに、「最後だから」と二人が忍び込んできたりと、ハプニングもあった。
もちろん丁重にお断りした。
……一緒に寝ておけばよかっただろうか。
今回にて修行パートは終わりです。
次回から仲間を集めるために世界中を回るか、もしくはサイドストーリーなんかを挟もうかと迷っています。
今のところは本編を進めていこうと思っていますが、「サイドストーリーが読みたい」などの言葉があれば書かせてもらいます。
次回はそう遠くない未来に投稿出来たらいいなぁと考えております。
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