【第三二話】
キャメルさんと修行を開始してから一ヶ月が経過した。
この一ヶ月は、基本的に体力作りと座学を行った。
キャメルさんは数百年前から生きる吸血鬼なので、歴史については直接目にしている。
過去の偉人たちがどういった物を開発したなど、今後ためになりそうなことを教えられた。
体力作りは、日によって内容が変わるが、今までで1番多かったのは走り込みだった。
僕は朝からキャメルさんと一緒に、吸血鬼の里の周りを走った。
最初は僕の体力がもたずに、最後まで走りきることはできなかったが、一ヶ月も経てばそれなりに慣れるもので、息切れする程度で完走することができるようになった。
「では、各属性魔法を同時に行使することができない理由はなんだ」
そして今日は座学の日。
教えて貰っているのは、歴史だけではなく魔法理論から剣術の流派についてなど幅広い。
「適性があっても、相反する属性どうしは同時に作り出せないようになっているから。生物の体内で、魔力が属性魔法に変換される際、相反する属性を作り出そうとすると暴走して最悪死に至るからです」
僕は前回学んだ内容を答える。
ここで、何故魔法の適性を何も持たない僕が、こんなことを勉強しているのかについて話さなければならない。
どうして魔法について学んでいるか……それは数週間前に遡る——
***
「そういえば、お前さんの魔法適性はなんだ?」
「えっと……恥ずかしながら僕には適性が、ないんですよね」
「ッ! そうか、そんな所まで奴と同じか……」
「え? なんて言ったんですか?」
「いや、なんでもない。それよりも、お前さんの魔法適性がだが、その剣の能力でなんとかなると思うぞ」
「それって……?」
「過去の所有者も、使えなかったはずの属性魔法をその剣を手に入れてから使えるようになった、と言うやつがいた。お前さんもそのうち魔法が使えるようになるかもしれない」
***
こんなやり取りがあったからだ。
このやり取りのあとから、キャメルさんは魔法理論について詳しく説明してくれるようになった。
「そうだ。私はそれで死んだ者を何人も見てきた。理屈は分かっていても、危険性を理解出来ていない者が何人も試したからだ」
魔法の便利性とそれに伴う危険性。
キャメルさんはそれを一番に僕に教えてくれた。
「しかし、中には奇跡的にそれに成功した者もいた。相対する属性の魔法を扱い、そして、その力に飲み込まれてしまった者が……」
「…………」
この話をすると、決まってキャメルさんは悲しそうな顔をする。
まるで何かを思い出すように、遠くを見つめ、そして、こう言うのだ……「お前さんはそうはなるなよ」と。
僕が心配そうな目でキャメルさんを見ているのに気づいたのか、キャメルさんはパチンと自分の頬を叩き、笑顔を作った。
「さて、それじゃあ復習は終わりだ。今回はもう少し掘り下げた話をしよう」
「はい!」
キャメルさんの過去に何があったのかは分からないが、僕は僕ができることをやり通そう。
今の僕にできることは、できるだけ早く龍と戦えるだけの力を身につけること。
僕の大切な人が命の危機に晒されるくらいならどんな修行だって乗り越えられる。
「お前さんはその剣の能力で魔法適性を得れるかもしれない。もしも二つ以上の適性を手に入れた時はその剣を媒体にすることによって二属性の魔法を同時に使うことが可能になる。まぁ、言ってしまえば魔法使いなどが使っている杖などと同じ機能だな」
「何故剣が杖の役割を果たせるんですか?」
「そうだな……まず、お前さんは杖の構造を知っているか? 知っていても知らなくてもどっちでもいい話なんだが、杖には先端に魔石と呼ばれる石が取り付けられている。その魔石とは魔力を変換させるという行為を記憶し、魔力を流すことで自動で変換してくれる機能がある」
魔石か……
モンスターなんかを解体するとごく稀に心臓付近で生成されていることがあるとかって聞いたことがあるな。
高値で取引されているのは知っていたけどこれが理由だったのか……
「杖は魔石が付いているから属性の変換が可能。だったらどうしてその剣が杖の役割が果たせるか、もう分かるんじゃないか?」
「……この剣に魔石が付いている?」
「ふっ……残念、不正解だ。正解はその剣に魔石が付いているんじゃなくて、その剣自体が魔石なんだよ。だからこそ属性の変換が行える」
「えっ! この剣って魔石だったんですか!?」
「なんだ? 知らなかったのか?」
僕が知らなかった事実に驚いていると、キャメルさんは不思議そうな顔でそんなことを聞いてきた。
「えぇ……教えてもらったことなんて、僕がこの剣を手に入れた意味とこの剣の名前くらいですよ」
僕はこの一ヶ月で、イーリスと戦った時のことを思い出していた。
思い出した瞬間に僕は意識を失ってしまい、気がつけばまたどこからか少女の声が聞こえてきた。
忘れてしまっていた間は聞くことのなかった声。
イーリスと戦った時に僕に力を貸してくれた存在、オーダーの声だった。
オーダー曰く、イーリスとの戦闘で、本当なら使えるはずのなかった能力を無理やり引き出したせいで脳にダメージが行ってしまい、記憶が混乱してしまっていたとの事だ。
今までオーダーから声をかけてこなかったのも、脳にダメージが入ったまま能力を使おうとすれば死んでしまう可能性もあったから、脳の回復を優先させたのだと言う。
そんなこんなで、今のところ順調? に修行は進んでいた。
次回かその次で修行は終わりそうです。
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一話からタイトルを
【第一話】
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