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【第二話】

 僕はそれから、村を見て回った。

 次に来る時は、僕が幸せになれた時だろうから……

 忘れないように、記憶にしっかりと刻みつける為に。


「あれ? こんなのあったっけ?」


 色々な所を見て回っているうちに、僕はひとつの扉を見つけた。

 元々僕が住んでいた家があった場所の地面に、地下へと続く扉を見つけたのだ。


「地下があるなんて聞いたこともなかったけど……」


 僕は不思議に思いながらも、その扉を開けてみる。

 扉は金属で出来ていたから、もしかしたら熱で溶けて、開かなくなっているかもと思ったが、全然そんなことは無く普通に開いた。


 扉を開けてみると、階段が続いていた。


「なんか怖いけど、気になるし……行くだけ行ってみるか」


 危険ならすぐに戻ってくればいい。

 そう結論づけて僕は階段を下っていく。


 階段は結構長く、警戒しながら降りてきたからかは分からないが随分長い間下りていたような気がする。

 壁には松明が設置されており、そんなに暗いとは感じなかった。


「なんだここ……?」


 階段を下り切った先には開けた空間があった。

 部屋の中心に石で出来た台座があり、更にその台座の真ん中には一本の剣が刺さっていた。


 僕は無意識のうちにその剣に近づいて柄を握っていた。


「あれっ!? なんで握ってんの!?」


 すぐに気づいて剣から手を離そうとするが、何故か離れない。

 脳では離そうとしているのに、手が話したくないかのようにピクリとも動かない。


「えっ……なんで!?」


 僕は何とか手を離そうともう片方の手で解こうとしたり、台座に足をかけて全力で手を引っ張ったり色々してみたが結果は全て失敗に終わった。


「さては、これ剣を抜かないと終わらないやつか?」


 剣をみると、僕が無駄な努力をしている間に何故か少しずつ光を発し始めていた。

 最初はこんなことになってなかったから僕が握ってから光始めたんだろうけど……


「ッスーー……じゃあ、抜きますか」


 いや、僕だって抜きたくはないですけどね?

 多分だけどこのままだと僕死ぬまで手が離れないと思うんだよ。

 色々やらないといけないこともあるし、母さんたちに幸せになれって言われたばかりでこんなところで死んだら合わせる顔がないし……

 ほんとーに、しょうがなく抜くだけだから。


「ふっ!」


 僕は力いっぱい剣を引っ張る。


「くっ……ぬっけ……ねぇ!」


 しかし抜けなかった。


「え、待って? これやばくない? 手は離れないし剣も抜けないし終わった臭くね?」


 え? やだよ? こんなところで死ぬの。


 さっきまで抜けると思ってたからまだ余裕あったけど、抜けないとなったら話は別だ。

 最悪腰にある僕の片手剣で腕を切り落とすことも考えないといけないかもしれない。


 最悪の場合だけどね。

 まだ諦めてないから。

 きっとなんとかなると思う。ていうかそう思わないとやってられない。


「もう一回チャレンジしてみよう。もしかしたら今度は抜けるかもしれないし」


 抜けてくれてもいいんだよ?

 抜けてくださいお願いします!


「はぁぁぁあああ!!」


 僕はもう一度全力で剣を引っ張った。

 最初はビクともしなかったが、諦めずに力を入れ続けると、やがて少しずつ動き始めた。


「ぁああああおおぉぉぉ!?」


 一度動き始めると、そこからは段々とスムーズに抜けた。

 僕は、いきなり剣が抜けたせいで、そのまま尻もちを着いてしまった。


——ゴゴゴゴゴゴゴ


 僕が剣を抜くのとほぼ同時に地面が揺れ始めた。

 剣の抜けた台座の穴からは黒色の煙が吹き出している。


「……もしかしてなんかやばいもの抜いちゃった?」


 僕は剣を捨ててその場を逃げ出したい衝動に駆られたが、変わらず剣は僕の手を離れない。


「やばいやばいやばい……どうしよう。絶対なんか良くないやつだよこれ。黒い煙とか敵っぽい゛ッ!?」


 仕方なく剣も持って逃げ出そうとすると、急に穴から眩い光が溢れた。

 咄嗟に目を瞑ったが、目がチカチカする。

 僕は回復するまで目が開けられず、目を瞑ったまま何があってもいいように抜いた剣を構えた。


「っ……なにも……いない?」


 段々と目が回復してきたのでゆっくりと目を開けるが、光は収まっており、その場に何もいなかった。


「なんだったんだ?」


 色々不思議ではあるけどとりあえず落ち着いたようなので、僕は急いで地下から脱出する。

 相変わらず剣は手放せなかったから、握ったままだけど。

 僕は階段を駆け上り、そのまま外へ飛び出した。


「はぁ……はぁ……」


 乱れた呼吸を整えながら僕は手に持つ剣を見る。

 地下では薄暗く、まだハッキリと見えていなかったからここで一度しっかりと観察しておこうと思ったからだ。


 グリップは黒く、ポンメル(柄頭と呼ばれる場所)に白色の石が埋め込まれている。

 鍔は銀色で剣身は……


「ん? この剣鞘ついてたっけ?」


 剣身は見えず、台座から抜いた時にはなかったと思われる黒色の鞘があった。

 こちらも抜こうとしても抜けなかった。


「剣としての機能が失われたんだけど……」


 まだ手から離れないだけなら良かった。

 いつでも剣を抜き身で持ち歩く危ないヤツだと思われるかもしれないが、それでもまだ戦えた。

 だが、鞘がついて更に抜けないとは……

 危ないヤツとは思われないだろうが、これじゃあ戦えないだろ。どう考えても斬撃よりも打撃武器に進化っていうか退化したよね?

 普通の打撃武器よりも圧倒的に弱いだろうし……

 だって鞘付きの剣だよ?


「呪われたのかなぁ……」


 まぁ呪いだろうなぁ……

 これで呪いじゃないとか言われたら流石にキレていいはず。

 手放せないだけでももう既にデメリットなのに更にはそれが鞘から抜けない剣(笑)とかハンデ負いすぎだろう。

 もっと言うと利き手である右手で剣握っちゃったから左手練習しないとまともに生活が送れないっていう試練まで課されている。


「はぁ……母さん。俺、幸せになれるのかなぁ……?」


 早くも心が折れそうな僕だった。

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