【第一話】
「今でも鮮明に思い出せる……あの時の記憶」
七年。
十歳だったあの頃から成長し、僕は現在十七歳になった。
竜から逃げ出し、近くの街に行ったはいいが、親無し家なしの子供が普通に過ごしていけるわけもなく、ずっとスラムで生活してきた。
ボロ小屋で寝起きし、ゴミ箱を漁って生活する日々。
当然水道なんて使えるわけもなく、雨水を貯めてそれを使っていた。
下水道の掃除やゴミ拾いなど、誰もやりたがらないような仕事はスラムの人間に回され、僕はそれを受けて少しづつ金を貯めながら七年間過ごしてきた。
スラムで暮らす人々の中には、スリなど犯罪行為をして、金を稼いでいる人もいたが、僕は正規の方法で金を稼いだ。
『自分がされて嫌なことは人にはするな』僕は両親にそう教わったから。
強くなると誓ってから、毎日欠かさず鍛錬を繰り返し、独学ではあるものの武器の使い方や戦い方なども勉強した。
生憎僕は魔力が少なく、魔法を使うことが出来なかったため、使える武器のレパートリーを増やすことでそれを補うことしか出来なかった。
泥水を啜ってでも、絶対に強くなる。
僕がここまで来れたのはひとえに“復讐”の為だ。
予定していた金額を貯め終えた僕は、全てが始まった場所、竜によって滅ぼされた、元村に戻ってきていた。
あの時は生きるのに必死で、みんなを弔ってやることが出来なかった。
せめて墓くらい建ててやりたいと思い、僕はそのための金を稼ぎ、こうして村に戻って来たのだ。
「変わってないな……」
焼けて固くなった地面も、燃えていた木々も、あの頃からほとんど変わらない状態だった。
変わったところと言ったら火が消えているのと、死体は骨しか残っていないところだ。
肉は野生の動物に食われたか、それとも土に還ったか。
7年も経ってしまったから骨すら残っていない可能性も考えていたから、骨が残っていただけよかったのかもしれない。
僕は持ってきたスコップで比較的柔らかい場所に大きめの穴を掘ると、そこらじゅうに散らばっている骨を集め始めた。
両手いっぱいになったら穴へ戻り、入れる。
これを繰り返し、次々と骨を穴の中へ集めていった。
そして、最後の二人分。
あえて最後にした二人。
「父さん、母さん。遅くなってごめんね」
僕は骨になっても抱き合ったままの二人に手を合わせ、そう謝罪してからゆっくりと丁寧に拾い集めた。
そのまま両親の骨を持って穴に戻る。
僕は崩さないように優しく骨を穴に入れ、上から土を被せ始める。
そうして土を被せ終わった後に、貯めた金で買った花を供え、もう一度手を合わせ目をつぶった。
「……長かった。突然村が滅んで、どうすることも出来なかった。僕が不甲斐ないばかりにみんなをこんなにも長い間待たせてしまった」
僕はそう言いながら昔のことを思い出す。
数少ない子供だったからか、自分にとても良くしてくれた村の人達。
いつも周りのことを考え、助けてくれた村長。
強く、大きな背中が憧れでいつか追いつきたいと思っていた父さん。
いつでも僕のことを考えてくれて、大切に育ててくれた母さん。
みんなのことを思い出すと、涙が止まらなくなった。
「みんなには返しきれない程の恩があるのに、返す機会さえも無くなってしまった」
僕は良くしてもらうばかりで、少しでも何か返せていただろうか……?
僕は幸せな日常が当たり前で、いつまでも続くと思っていた。
「何一つ、恩を返すことが出来なかったけど、せめて……安らかに眠って欲しい。今の僕にはこれしか出来ない」
またみんなに会いたい。
村長や他の皆と楽しく話がしたい。
父さんと母さんに抱きしめてもらいたい。
……だけどそれはもう叶わない。
「僕は、この村の人達のことを忘れない。忘れられない限り、みんなは僕の心の中で生き続けると思ってるから。」
だから——
「だから、さよならだ」
僕がそう言うと同時に、暖かな風が頬を撫でた。
『——ごめんね。1人にさせて。寂しい思いをさせて。守ってあげられなくて』
……かあ、さん?
『それでも生きていてくれて……本当に良かった。時には辛い時があったと思う。その時に支えてあげられなくてごめんね。成長していくあなたを近くで見られなかったのは残念だけど、それでも遠くから見てるわ。私も、お父さんもね』
謝らないでくれ……
僕は何も出来ていないんだ。
僕だって母さんや父さんと一緒に過ごしていたかった!
だけど、もうそれは無理で……どうすることも出来なくて。
『私やお父さんだけじゃない。村のみんながあなたのことを見守っているわ。あなたはもう散々悲しい目にあってきた。だからこれからは幸せになって欲しいの。復讐をすることで、あなたが幸せになれるとは思えない。もっと先のことも考えて欲しい。それが私たちの最後のお願い』
幸せ?
僕は幸せになってもいいのかな?
僕以外のみんなが死んでしまった。
これから先にやりたいことがあった人もいたと思う。
その人たちを差し置いて、僕だけが幸せになってもいいのかな……?
『あなたが幸せになる事が、私たちの幸せなのよ』
そっか……
復讐の先のことね。
少し考えてみるよ。
『……最後にルイス。私たちはあなたのことを誰よりも愛しているわ』
——ッ!
「僕も! みんなの事が大好きだよ!」
『——ありがとう』
最後に母さんが笑ったような気がした。
そして、それを最後にもう声が聞こえることは無かった。