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【第一六話】

「二年前に一つの国が滅んだのは知ってる?」


 二年前っていえば、アポトリシキ王国とマレガスト共和国との戦争のことか。

 最終的にアポトリシキ王国が戦争に勝って、マレガスト共和国が滅んだって話を噂で聞いたが……


 ちなみに、この世界には四つの大陸があり、今僕達がいるここはメリアガルド大陸。

 四大陸の中では二番目の面積を誇り、主に人間が住んでいるらしい。

 さらにその大陸の中で、三つの国に別れており、二つは先程出したアポトリシキ王国、マレガスト共和国。

 最後の一つは今現在僕が向かっている王都があるエレチナ王国だ。


「マレガストのこと?」


「えぇ、私たちは……マレガスト共和国で双聖女と呼ばれていたわ」


 うわぁ……

 なんかすっごい重そうな話が飛び出してきたぁ……


「えっと……それは僕に話してもいい事なので……?」


「ルイスが言えって言ったんじゃない!」


 いや、そうだけども。

 え、ということはエリカとミリカはマレガストからの難民か亡命者ってこと?


「私たちは一度、アポトリシキ王国に捕えられたのだけど、逃げ出してきたのよ」


 これも噂で聞いた話だが、アポトリシキ王国では未だ人種差別や奴隷制度などが根強く残っていて平気で人体実験が行われているとかいないとか。


「なんで二人が捕らえられたのかも疑問だけど、もしかしてアポトリシキがエレチナに戦争吹っ掛けてくるなんてことないよね……?」


 僕がそう聞くと、二人はビクッと体を震わせて下を向いてしまった。

 自分たちのせいで、違う国も滅ぶのではないか。

 もし本当に戦争が始まってしまったら、それはきっと自分たちのせいだ。

 なんとなくだけど、二人が考えてることがわかる気がする。

 ていうか、もし自分が二人の立場なら、きっとそう考えるだろうから。


「まぁ、いざそうなってもエレチナの軍事力だって低くはないし。アポトリシキが戦争を仕掛けてきても勝てるんじゃないかな」


 二人のことを考え、できるだけ安心できるように言う。

 これは二人を安心させるための嘘などではなく、エレチナは世界でもトップクラスに入れるであろう軍事力を所持している。

 いくらアポトリシキがマレガストを吸収したと言っても、エレチナには勝てないだろう。


「でも……私たちのせいで、沢山の人が死んじゃうんじゃ……」


 マレガストが滅ぼされた時のことを思い出してしまったのだろうか。

 エリカは不安そうにミリカを見る。

 言葉だけじゃ安心できないだろうか。


「二人は何か悪いことでもした?」


「……してない」


 エリカはそう答え、ミリカは勢いよく首を横に振る。


「だったら二人は悪くないでしょ。何が原因で二年前戦争になったかは分からないけど、次、もし戦争が起きてもそれは二人のせいなんかじゃないよ。例え二人を狙って起きたものだとしても、戦争なんて起こすやつが悪い。二人が気に病む必要はないんだ」


 僕は二人の頭を撫でながら言う。


「二人には二人の人生があって、それぞれの幸せがある。争いが技術を発展させるとは言うけど、誰かの不幸の上に成り立つ便利なんて、悲しいと思わない? ……僕はすごく悲しいことだと思うんだ」


 人が死んでしまった時、その人の分まで……なんてよく聞くけれど、それはとても傲慢な考えなのではないだろうか。

 その人の人生はその人のもので、決して誰かが変わることなんて出来ない。

 死んでしまえばそこで終わりで、残された人達がその人のことを忘れない為にそう言っているだけに過ぎない。

 僕はそのことを知ったから。

 だから人が死ぬ戦争なんてない方がいいんだ。


「戦争は起こらない方がいい。それでも起こってしまうときは、その時に死んでしまった人たちを忘れちゃいけない。どうしても二人が、自分のせいだと責めるのなら、二人はマレガストの人達のことをずっと覚えておくんだ」


 誰の言葉だったか……『人が本当に死ぬ時は、忘れ去られた時』って。


「お兄ちゃん……」


 ミリカが僕にギュッと抱きついてくる。

 その声が震えていることから、泣いているんだろう。

 見た感じ、二人はまだ小さい。

 歳は十三かそこらだろう。


「私、馬車が襲われた時に、もう死んでもいいんじゃないかって……私のせいでたくさんの人が傷つくなら私なんていない方がいいんじゃないかって……そう思って……」


 エリカがそう言いながらゆっくりと僕の腕に手を伸ばす。


「でも、いざ刃を向けられたら、やっぱり死にたくないって……生きてたいって思って!」


「……生きてていいんだ。もう十分悲しんだだろ。自分の居場所を失って、辛かっただろ」


 あぁ……

 そっか。

 似てるんだ……


「どうしてマレガストだったんだろうって! なんでみんなが死ななきゃいけなかったんだろうって!」


 話を聞いて、親近感を抱いていた。


「悲しくて、悔しくて。でも……どうすることも出来なくて」


 僕だ。

 竜に村を滅ぼされて、泣いていた時の僕と同じなんだ。


「きっと……二人の周りにいた人達は、二人のことを愛してたと思う。だから、その人たちは二人には幸せになって貰いたいと思ってたんじゃないかな」


 僕がそう言ってもらったように。

 この子達が、いつまでも過去にとらわれることなく、未来の……自分の幸せを手に入れられるように。


「今は泣いてもいいんだ。今沢山泣いて、未来では笑ってられるようにしようぜ」


「うぅ……ルイスぅ……」


 僕の言葉で、少しでも救われてくれただろうか。


 ミリカと同じように、抱きついて泣くエリカの頭を撫でながら、そんなことを思った。

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