我ら南海より・・・
架空戦記創作大会2019夏、お題1,3での参加となります。よろしくお願いします。
「空母「赤城」「加賀」「蒼龍」いずれも敵急降下爆撃機の爆撃で大破!炎上中とのことです!」
第一機動部隊から送られてきた信じられない報告に、連合艦隊旗艦「大和」艦橋内は沈痛な空気に包まれた。
「バカな・・・」
「最強の機動部隊が、一撃で壊滅・・・」
開戦時の真珠湾攻撃以来、負け知らずで損傷らしい損傷を受けたことがなかった第一機動部隊が、たったの一撃で4隻中3隻を撃破されてしまったことに、誰もが大きな衝撃を受け、天を仰がんばかりであった。
そんな中、彼らをとりまとめる山本五十六連合艦隊司令長官だけは、一人冷静であった。
「「飛龍」は健在か?」
「「飛龍」の山口司令官より、我航空戦の指揮を執るという報が入っています。「飛龍」は健在です」
「ならばまだ逆転の可能性はある。多聞丸なら、空母の2隻くらい喰ってくれるはずだ」
「しかし長官、例の部隊より敵空母は3隻と言う報告が入っています。1対3では、如何に猛将の山口提督とて、苦戦は免れますまい」
「そうかもしれんな。だが、例の部隊にも空母は2隻いる。こちらの正規空母1隻分にはなるはずだ。その戦力が加われば、より可能性はある」
「ですがれん・・・失礼しました。彼らはこの戦いが初めての本格的実戦です。どこまでやれますか」
「今は信じるしかない。彼ら次第でこの戦いの勝敗が決する」
山本の言葉に、誰もが苦々しそうな顔をする。格下と見ていた海軍の艦隊が、今や帝国海軍総力を挙げての作戦の運命を握っているのだから。
だが、一人山本は冷静なままだった。そして、遠く洋上を進撃しているであろう、同盟国の艦隊司令官にエールを送る。
「頼むぞ、キーサ提督」
「ムウの連中に発見されたか」
空母「エンタープライズ」で指揮を執るスプルーアンス提督は、味方艦艇からの報告に険しい表情をする。
先ほど日本空母3隻を撃破したという報告に、艦隊内部にお祭ムードが広がっていたが、新たな敵出現の報告に、再び緊張が走っていた。
「彼らには確か4隻の空母があったな?」
「ジェーン海軍年鑑によれば、その内の2隻は日本の「飛龍」型に準ずる性能を有しているとのことです。艦載機は戦前に我が軍が輸出した「バッファロー」に英国製の「スキュア」、ドイツ製のフィーゼラー雷撃機を有しているとありますが、これに関しては日本から供与を受けるなどして、更新している可能性があります」
部下の報告に、スプルーアンス提督は渋い表情をした。
「つまり最悪、現在の日本空母と同等の艦載機が襲い掛かって来るわけか」
「如何いたしますか?」
スプルーアンスは頭の中で現状を計算した。現在日本の正規空母4隻中3隻を撃破したが、残る1隻は健在である。さらにそこに南方から2隻の空母が接近している可能性がある。数は同等であり、敵は分散しているが、一方で米機動部隊もこれまでの空襲で雷撃機が壊滅状態であり、戦闘機や艦爆も消耗している。また空母の内「ヨークタウン」は珊瑚海の損傷を引きずっていた。
「とにかく対空警戒を厳重にしたまえ!敵に発見されたということは、何時襲い掛かって来てもおかしくないということだ!それと、残っている偵察機を搔き集めて南方の索敵をやらせたまえ!」
「イエス・サー!」
先の日本空母攻撃では、敵に対して先んじれたが、今度は敵の方が先んじている。こうなると、防備を厚くして敵の攻撃を抑えつつ、反撃のチャンスを窺うしかない。スプルーアンスは、レーダーによる早期探知と、無線による戦闘機の効果的な誘導に期待した。
そして、2時間後。
「レーダーコンタクト!南方100マイルより接近する機影アリ!大編隊です!」
「対空戦闘用意!」
ところが、直後に驚愕の報告がもたらされた。
「レーダースクリーンが真っ白に!」
「無線に雑音が!」
「何だと!?何が起こっている!?」
「おそらくは電波妨害かと」
その言葉に、スプルーアンスは耳を疑った。
「そんなことができるのか!?彼らには!」
スプルーアンス提督が驚愕した直後、敵攻撃隊と接触した米戦闘機隊は大苦戦を強いられた。
「クソ!無線も聞こえない状況じゃ、戦いようがない!」
無線が途絶する前に敵機の方向の情報は得ていたので、何とか接触は出来たが、敵に対して劣位での空戦を強いられたのみならず、対零戦用戦法に不可欠な2機の緊密な連携がとれず、米戦闘機は実質的に単機同士での空戦に追い込まれていた。
それに対して、敵機は明らかに日本海軍と同じゼロ・ファイターであった。苦戦しない方がおかしい。
「アア!?」
彼とコンビを組む若いパイロットの「ワイルドキャット」が被弾し、炎上しながら落ちて行った。如何に頑丈な「ワイルドキャット」でも、20mm機銃弾を喰らえばタダでは済まない。
「ガッデム!」
仲間の仇を討ちたいのは山々だが、それ以前に自分が生き残れるかさえ危うい状況だった。
日の丸ではなく、金の三角形の国籍マークを付けたゼロの動きは、彼が見る限り日本海軍のそれに勝るとも劣らない。つまり、パイロットの腕は決して悪くないということだ。
そして、その手練れの内の1機が彼の背後にも忍び寄っていた。
彼らの機体を7,92mmと20mmの機銃弾が襲い掛かったのは、その直後のことだった。
「全火器使用自由!対空戦闘始め!」
戦闘機隊を突破した敵機目掛け、全ての艦艇の対空火器が撃ち方を始めた。空中には無数の対空砲弾の炸裂が黒いシミのように空を焦がし、また飛び交う機銃の曳光弾が空へと伸びていく。
だが・・・
「速い!」
「連中の機体はジル(99艦爆)でもケイト(97艦攻)でもないぞ!」
突入してきた敵の攻撃機は、明らかにデータにある99式艦上爆撃機や97式艦上攻撃機よりも高速であった。そのため、対空火器を操る米兵たちは戸惑いを覚える。
そうこうしている間に、対空砲火さえ突破した敵機の攻撃が襲い掛かる。狙われたのはもちろん空母だ。
空母側も被弾しまいと、艦長たちが必死の操艦をしてこれを交わそうとする。だが相手の数が多い。少なくとも50機はいた。そして練度も、少なくとも合衆国のそれに匹敵するものだった。となると、対空砲火と操艦だけで退けるのは難しい。
しかも相手はひたすら空母だけ狙ってきた。結果、まずスプルーアンス提督座乗の「エンタープライズ」に火柱が上がった。
「やられたな」
貫通した爆弾が格納庫内で爆発した。開放式の格納庫ゆえに、爆圧は横にも逃げたが、それでも飛行甲板や格納庫にかなりの被害が出たという報告が上がってきた。
「奴らの爆弾は日本の物より威力が高くないか?」
受けた衝撃から、スプルアーンスは何気なくそう言ったが、実際当たっていた。この時命中したのは、日本海軍の250kg爆弾の倍の重さの500kg爆弾であった。
すると、海上を轟音が轟いた。
「「ホーネット」被雷!速力落ちます」
「「ホーネット」もやられたか」
被害の詳細は不明だが、速力が落ちたということは、甚大な被害を被った可能性がある。
「負けたな」
スプルアーンスは自身が、いや合衆国海軍がこの作戦で敗北したことを悟った。2隻の被弾した空母は沈んでないとはいえ、空母としての機能を維持するというのは無理だろう。そうなれば残る空母は手負いの「ヨークタウン」だけ。対して敵にはまだ3隻の無傷の空母がいる。
これでは抗しえない。
「全艦に撤退命令!」
「逃げるのですか?」
「3隻中2隻の空母がやられた以上、もはや敵に対抗できない。ならば、貴重な空母を喪う前に後退するのが得策だ」
「ですがそうなれば、ジャップはミッドウェイに!」
「空母さえ残っていれば、ミッドウェイは取り返せる。兵隊も潜水艦を使うなりすれば収容できる。だがとにかく、今は「提督!「ヨークタウン」が日本機の空襲を受けています!」
「・・・どうやら我々の負けのようだ」
この日、米機動部隊は空母「ホーネット」「ヨークタウン」を喪い、「エンタープライズ」も中破に追い込まれた。スプルアーンス提督は、これ以上の空母喪失を防ぐために撤退した。
日本側も空母2隻を喪い1隻大破となったが、残存する「飛龍」や主力部隊付属の「瑞鳳」、そして新たに加わった2隻の空母とともにミッドウェー周辺の制空権を奪取。6月10日、同島を攻略した。
ミッドウェー沖に集結した大艦隊。ミッドウェー島攻略作戦に動員された大日本帝国海軍連合艦隊である。
米機動部隊の反撃によって、主力機動部隊の空母「加賀」「蒼龍」を喪い、旗艦の「赤城」も大火災によって1年は戦列復帰不能な損傷を受けてしまった。
しかし幸いなことに米機動部隊の撃退に成功し、ミッドウェー島は陥落。陽動作戦に従事していた第二機動部隊も合流し、空母の数は主力部隊の「瑞鳳」「鳳翔」を加えて5隻まで回復していた。
そして、その大日本帝国海軍連合艦隊にまぎれるようにして、青の下地に黄金の紋章が中心に描かれている白い太陽のマークを象った国旗を靡かせる艦艇の一群、つまりは艦隊がいた。
その艦隊の構成艦艇を、多少軍艦に関して知識のある者が見れば「一体どこの艦隊だ?」と首を傾げることだろう。
その艦隊は連合艦隊に比べると小規模だが、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦と艦隊を構成する各種艦艇が揃っているが、そのデザインに統一性がまるで見られない。
戦艦はフランス海軍の「ダンケルク」級に酷似した(ただし主砲は前後に振られている)4連装砲を持った艦であり、重巡洋艦は英国の「ケント」級、軽巡は米国の「オマハ」級、そして駆逐艦はドイツのZ級に酷似している。唯一空母だけが、日本海軍の「蒼龍」に良く似た艦影を有していた。
その艦隊から発進したランチが、連合艦隊旗艦「大和」へと接舷した。そして降りてきた将官らしき男が、ラッタルを随員とともに駆け上がる。
そして舷門にて衛兵に出迎えられ甲板に上がると。
「ようこそ「大和」へキーサ提督」
「直々のお出迎え痛み入ります。アドミラル・ヤマモト」
2人は固い握手を交わした。
「いや、それにしても素晴らしい戦艦ですな「大和」は。我が国では建造はおろか、維持すらおぼつかないでしょう」
キーサ提督が「大和」を見上げながら言うと。
「ですがこの「大和」は今回の海戦では全く役に立ちませんでした。むしろ、空母と高速艦艇からなるあなた方の艦隊の方が、今の時代に合っているかもしれません」
「恐れ入ります」
2人は並んで歩きながら、幕僚たちとともに「大和」の長官公室へと脚を踏み入れた。従兵がコーヒーと菓子を出し、一息つけたところで山本は今回の海戦に関する謝辞を口にする。
「この度の南太平洋連邦艦隊の助力には感謝します。あそこで貴艦隊が来なければ、我が軍は米軍に対して完敗しているところでした」
「恐れ入ります」
南太平洋連邦。それがキーサの属する国家だ。かつて国土の大半が太平洋深く沈んだとされる伝説を持つ島国のムー帝国を中心に、ミクロネシア、マーシャル、東部ニューギニア、ソロモン諸島等で構成される連邦国家だ。
大航海時代に後の欧米列強となる国々と接触を果たした彼らは、その後周囲を植民地として侵食される中で外交・貿易活動を展開し、少ない人口ながらも列強に伍する科学力と国家制度を備え、独立を維持してきた。
一方で、軍備に関しては各国に対して発注してバランスを取りつつ、自国で独自改良を行い使用していた。
各国製の艦艇が入り混じっているのはこのためである。周囲を各国の植民地などに囲まれているため、それぞれの国から艦艇や航空機を輸入していたわけだ。また、これは同国内では数少ない工業基盤を、なるべく軍事に向けないという意味合いもあった。
その南太平洋連邦は、今次大戦において実質的に枢軸国家側として参戦していた。実質的にと言うのは、日独伊三国同盟には参加していないものの、日本とは相互防衛協定を結び、米英豪には宣戦布告を行っているからだ。
南太平洋連邦の参戦は今年の3月1日で、日本が東南アジア資源地帯を確保するのがほぼ確実になった段階でのものであった。このため、連合国からはイタリアと同じく火事場泥棒的参戦と叩かれていたが、実際には連邦各地(特に珊瑚海沿岸地域)を連合国側に基地として提供するよう、圧力を掛けられたことに対する反発であった。
特に南側で国境を接する豪州と、ハワイやサモアを支配下に置いたアメリカに対するものは強かった。
その南太平洋連邦は、広大な海域を有する島嶼連邦国家であるだけに、陸軍がない。軍は全て海軍で、陸上兵力は全て海兵隊となっている。
そして艦隊は4個艦隊あり、この内1個は国境警備と航路防衛目的の国境警備艦隊で、さらに1個は潜水艦隊となっている。本格的な海戦を行うのは、機動力のある水上艦艇からなる第一と第二の戦闘艦隊である。
この内第一艦隊は第一次大戦後日英から輸入した戦艦・巡洋戦艦と軽空母からなる砲戦艦隊で、今回キーサ提督が率いたのは航空機動艦隊である第二艦隊だった。
当初日本海軍連合艦隊内部では、南太平洋連邦艦隊をミッドウェー作戦に参加させることに否定的であった。連合艦隊の総力を挙げた作戦の為、必要なしと見なされたのと、二流海軍の参加は足を引っ張るだけとタカを括っていたのだ。
しかし、5月に行われたサモア攻略作戦において空母「翔鶴」大破、軽空母「祥鳳」沈没、また日本近海で水上機母艦「瑞穂」が潜水艦の雷撃で喪われたことによる航空戦力の不足から、正式に参加が要請された。
ただし、実際のところ南太平洋連邦艦隊の作戦参加は第一機動部隊のミッドウェー空襲の翌日からの予定で、当初の作戦スケジュール通りだったならば、ミッドウェー上陸開始後の援護だけを任されるものであり、やはり戦力として格下に見られていたのは否めない。
だが南太平洋連邦艦隊は米軍の無線傍受などから、米機動部隊が早期に迎撃に出ることを察知し、無線封鎖の上で作戦予定よりもマイナス1日で出撃、第一機動部隊壊滅こそ防げなかったが、米機動部隊撃退にその威力を発揮することとなった。
「米機動部隊が壊滅した今、このままの勢いでハワイ攻略を、といきたいところですが、今海戦で我が軍は大きな損傷を受けてしまいました」
開戦以来、日本海軍の進撃を支えてきた空母部隊。その空母が1回の海戦で半減してしまった。さらに、搭載航空機もパイロットごと多くを喪い、再建にはどんなに早くても3カ月は掛かるだろう。
本来の大日本帝国の作戦計画では、南方資源地帯の奪取後に第二弾作戦としてビルマからのインド方面への進撃、豪州北部への上陸、ハワイ上陸、米豪遮断目的のフィジー方面への上陸など、複数のプランが考えられていた。そして山本は、米海軍の拠点であり太平洋への米軍進出の要であるハワイ占領こそが、彼の構想する早期講和に必要な策と信じていた。
しかしミッドウェー作戦で受けた被害を考えると、その実現には黄色信号が灯っている。米軍はまだ無傷の空母を2隻は有している筈であり、ハワイの基地航空戦力も考えると、健在空母だけでは力不足であった。
「アドミラルヤマモト。遠回しな話はよしましょう。ハワイ攻略への我が軍への参加を要請したいのでしょう」
キーサは山本の意図を大体推し量れていた。不足する航空戦力を、穴埋めして欲しいというところだろう。南太平洋連邦が有する空母は、今や喉から手が出る程欲しいはずだ。
またその艦載機も、開戦前に日本やドイツから輸入した零戦、Ju87、97式艦上攻撃機を独自カスタムした機体であり、いずれも原型機より高性能な機体だ。
加えて南太平洋連邦は電波技術など、一部では日本よりも進んでいる技術を有している。
これらが加われば、連合軍を圧倒はできなくとも、互角に戦うことも可能だろう。
「その通りです。どうか、南太平洋連邦艦隊の参加をお願いしたい」
「最終的な決定権は国防会議が持ちますが、我が国では長年ハワイやウェークに進出し、覇権を広げる米国が大きな脅威でした。それを取り除く意味からも、恐らく出撃は認められるでしょう」
「おお!では!」
山本が声をげると、キーサは微笑む。
「アドミラル・ヤマモト。再び共に戦える日を楽しみにしています」
2人は堅い握手を交わした。
この4カ月後、大日本帝国は国運を掛けた大作戦、ハワイ攻略に取り掛かることとなる。もちろん、そこには南太平洋連邦軍の姿もあった。
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