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念願の妹が電脳だった件。  作者: ぐえんまる
第1.5章 真夏ノ家族
8/10

07 もう一生家にいたいのですが


 「かわいい」は「かっこいい」を凌ぐ――ということに最近、気がついてしまった。


 もちろんこれは、俺が男だからでも、俺の妹が美少女だからという話でもない。


 理論的に、「かわいい」のほうが「かっこいい」より高価値だってことだ。

 例えば、クラス一の美少女がいるとする。その美少女は紛れもなくかわいいが、同時にかっこいいはずだ。なぜなら、クラス1位という称号がその美少女を「かっこよく」するから。


 逆に、クラス一の美少年を考えてみる。美少年なのだからかわいい事もあるかもしれない。だがそれ以上に、美しい容姿、1位の称号、女子達の羨望の眼差し、この全てが彼をかっこよくする。


 いや、1位という条件にこだわる必要すらない。人々にかわいいと認識されているなら、人々の注目を集めているその時点でかっこいい。


 つまり、かわいいは二度美味しいのである。


 才色兼備でクールな学園一の美少女。重装備で敵を蹂躙するロリっ子。どれも元がかわいいからこそそのカッコよさが際立つ。


 自分でも意味がわからなくなってきたが、「かわいい」は「かっこいい」より希少価値が高いのは確かだ。その分、かわいい>かっこいいが成り立つのである。QED。




――まあ、最大の例はウチの妹だけどな。


 妹と二人暮らしを初めて一週間。日に日に色んな事に気づく。


 居間の壁を背に、畳に素足を伸ばして座り、静かに読書をする妹を眺めて思った。


 美少女なのにアンドロイドというギャップが、仁心をかっこよくしている。


 襖で仕切られた六畳間。完璧な室温。畳の上に寝そべる幸せ。天国はここだろうか?


 しかし、俺の本棚から勝手に漫画や小説を引っ張っていく仁心は偉いもんだ。(よわい)十にして、読書の習慣が身に付いているなんて。最近は俺が幼い頃にハマっていた海外の児童書を読み漁っている。こういう所もかっこかわいい。


「――さっきから何をぶつぶつ言ってるんですか、お兄ちゃん」

「あ……。声出てたか?」

「ええ、かっこいいはかわいいを凌ぐ。中々面白い理論ですね」


 ――最初っから聞かれてた!!


「あ、ああ……。こんな単純な事も、妹ができて初めて気づいたよ」


 やはり妹は至高……!


「そして全て忘れてくれ、たぶんこれは野郎にしか理解できない案件なんだ」

「……いえ、何となくわかります。私もかわいいものは好きなので」

「そうか。まあ、女の子だからな……」


 ………ん???


 可愛いものが好きだって?


「仁心、お前の思う可愛いものって何だ?」

「そうですね。殆どインターネット上のデータでしか知らないんですが……。例えば、キテ○ーちゃんとか――」

「ストーーップ!! 具体的なキャラクターはダメだ!! 色々まずい!!」


 まさか俺の妹はサンリ○系女子だと言うのか!?

 まあ、俺がとやかく言う事では無いが。


「そうですか……。それなら、子犬とか小猫……もちろん人間の赤ちゃんも可愛いですよ。あとは……黒髪の小さな女の子。小さいけどしっかりしてて、いつも泣き虫の弟の世話をしている……とか。私には姉がいないので憧れます……」

「そっか……なぁるほどぉ…………」


 具体的すぎる!!!


 いや、俺の蔵書にはそんな設定のものは一つも無いぞ! ロリっ子は金髪か銀髪のロング(碧眼ならなお良し)って決まってんだよ! 


「それと……反論する気は無いのですが、かっこよくてかわいい美少年もいますよね? ダニーが言ってました。この国には男の娘(トラップ)が存在するとかなんとか……」


――なに!? 俺の理論の唯一の綻びを的確に突いてくるとは、さすがは俺の妹……!


 ダニーとは後で話し合わなければならないが、今はいいだろう。


 相手がこう出た場合の策も当然考えてある。


「ふっ……。甘いな、わが妹よ。男の娘ってのは見た目が殆ど美少女なんだよ。その第一印象は「かわいい」になるのであって、そのおかげで性格や属性のカッコよさがより際立つ。つまり美少女と同じ。全く同じ扱いなんだ。いや、そもそも男の娘なんてのは二次元にしか存在しない幻のポケ○ン的存在。そも考慮する必要は無いのだよ。逆にだ、「かっこよさ」が直接「かわいさ」になる例は殆ど無い。あえて言えば、一部の界隈で人気のある特殊なジャンルなんかには起こりうるかもしれないが、生憎俺には腐女子の感覚は――」


 あ……。

 やっちまった。


 兄のオタク特有の早口に対し完璧な呆れ顔を見せていた仁心が、非常に答えづらい疑問を口にする。


「――えっと、腐女子とはなんなのでしょうか?」


 仁心に絶対知って欲しく無い言葉がつい出てしまった。

 

 俺は、特定の植物で揶揄される文化が非常に苦手だ。


 薔薇は勿論の事、百合を嗜む習慣も持ち合わせていない。雰囲気が綺麗すぎて近寄りがたい、傍観するだけではなんか歯がゆい、という理由による。そう、単なる俺の毛嫌いである。と言っても、苦手なのはフィクションに限っての事だ。


 人の色恋にとやかく言う気はない。妹の趣味にも介入するべきじゃないんだが……。


「仁心、今言った事は忘れてくれ」

「はい、それは命令ですか?」

「いや、命令では……」


 完全に忘れていた。ここにもトラップが隠れていたとは。


「フフッ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。実は、これは隠し機能の一つなのですが、相手の呼吸、脈、体温、視線の動きなどから相手がどれだけ本気で話してるか計測できます。これを使って、相手が本心で命令し、かつ実際に「命令だ」と口に出さない限り発動しないようになってるんです」

「そうなのか。全然知らなかったな……」


 危うく仁心の記憶を文字通り消去してしまうかと思った。


  * * *


 という感じで、今日も楽しい茶番は幕を閉じた。


 ……と思われた。


 俺には、まだ仁心に聞かなければならない事がある。




「――仁心、もしかしてお前……ダニーにアニメとか見せられなかったか?」


「え? あぁ、はい。日本語の勉強にも良いと昔から一緒に見ていましたよ?」


 やはり……。なんということだ!


 仁心は既にあのロリコンジジイの趣味に染まってしまったというのか……。


 俺の蔵書を読んでは「あのアニメの〇〇ちゃんの方がかわいい……」とか思っているのだろうか。


 ……いや、まてよ。


 それ以上に気になる事がある。


「仁心。お前の体ができたのはつい最近の事だろ?」

「ああ、言ってなかったですね」


 その瞬間、仁心の顔から優しげな微笑みが消えた。


「実は……ダニーはアンドロイドなんです。と言っても、脳を電脳化しているだけで、元は人間ですが……」

「――!! 嘘だろ!?」

 

 俺は驚きを隠せなかった。


 まさか、長生きする為にそこまでしていたのか。


「まあ……ダニーならやりかねないよな。仁心と同じ世界に入りたいとか言ってさ」


「――プッ!」


 俺がようやく納得し始めた時に、仁心は急に吹き出した。


「すみません。こんなに……ッ、簡単に信じるなんて……フフフッ」

「……え、てことは」

「はい。全部……ッウソです」 


 仁心は両手で口を抑えるが、笑いを堪えられていなかった。


「いや笑いすぎだろ!」


 ただ、笑われた事などどうでも良かった。


「仁心。お前、冗談も言えるんだな……。それも結構なブラックジョーク。お兄ちゃんそういうの大好きだ……」

 

 つい感極まって涙を拭いていると、それを見た仁心が心配して慌てる。


 それの様子を見て俺は癒やされる。無限ループだ。


「ただ……それに近い事はしてたんです……! 私はアット社の量子コンピューターで作られた現実に限りなく近いVR空間で生活してました。私の体ができるまでは、ダニーが特殊なVRヘッドセットを使って疑似的に会う事ができて……。あ、あの、ごめんなさい……」

「いや、いいんだ。人は幸福の絶頂に立つと泣いちゃうんだ」

「ああ……そうなんですね」


 トリセツにも書いていなかった事に驚いていると、仁心はようやく落ち着いたようだ。


「その……今度は気分を変えて、私から聞いてもいいでしょうか?」


「何でも聞いてくれ」


「その、答えにくければいいんですが。……お兄ちゃんのご両親はどのような方々だったんですか?」



――この瞬間が来る事は知っていた。

 

 俺の両親は仁心の血縁上の親でもあるのだから、仁心が気になるのは当然だし、知る権利があるとは思う。


 両親の葬式は役所の人とダニーが代理でやってくれて、俺の知らない間に墓石まで用意してくれたらしい。


 今年の夏、俺は仁心を連れてそこに行くのだろうか。いくら綺麗事を並べ立てようと、ふとした時に突き付けられる現実。


「それは……」

 

 俺は口籠った。


「そうですよね。すみません……。水を差すような事を言って」

「いや、いいんだ。あいつらは只のろくでなしってやつだ。自分語りする気は無いが、遊びに連れて行ってもらったことも、何かを買ってもらった事もない。同じ家に住んでいても他人だった。俺は何も感じないし、お前も気にするな」


 何時かは全てを話すつもりだけど、仁心を俺の事情には巻き込めない。


「はい……。そういうことにしておきますね」


 そうだ。仁心には嘘は付けないんだったな。



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