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念願の妹が電脳だった件。  作者: ぐえんまる
第1章 機械ノ心
3/10

02 妹の「名付け親」?になりました


――ニコ。


 それが、彼女の名前だった。


 まだ幼さが残るが、人間場馴れした完璧な顔立ち。

 腰まで伸びた黒髪に、透き通るような青い瞳。

 しかし、その目には何も宿っていない。何処か遠い所を見ているような空虚な眼差しだ。


「彼女はね、体のほとんどが人工的に作られた 分枝系人造人間(クローンアンドロイド)なんだ。ただ、残念ながらEAS細胞でも脳だけは、うまく作ることが出来なかった」

「え? てことは……」

「そうだ。ニコの脳には高度な人工知能を搭載している。ただ、それ以外は正真正銘、生物学的にも普通の人間だ。さらに、彼女は君の妹だ。欲しがってただろ?」


「……あの。もう一度お願いします」


「ああ、分かりにくかったようだね。あの事件の後、私は君が両親を亡くした事を知った。……だから警察を丸め込んで、検視中の遺体からご両親のDNAサンプルをいただいたのさ。ニコは君の両親の遺伝情報をちゃんと受け継いでいる。彼女の『肉体年齢』は生後二週間といった所かな……」

「うそだ……」


 そんな……あり得ない。


 妹が、クローン?


 ……ふざけるな。


「それ、完全に法に触れてますよね」


 初めから胡散臭いと思ってたけど、完全にサイコパス。


 マッド・サイエンティストじゃないか。


「ハハハッ。そんな目で見ないでくれたまえ。これはいわば人類の『進化』だ。人間は自然を改造してきたが、逆に自分自身が変わる事を忘れてしまった。でも、彼女をよく見てくれ。美しいと思わないかい?」


 ダニーの隣に立つ少女に目をやる。


 その顔は無表情で、何を考えているのかわからない。


 でも、たしかに人間にしか見えない。

 美しいとすら言えるかもしれない。


「――でも、なんで目が青いんだ?」

「おや? 碧眼は不満かい?」

「いや、俺の親の遺伝子から生まれるなんてあり得ないだけだよ。それに日本にはあまりいないし、目立つだろ?」

「それは考えなかったな。君の好みに合わせたつもりだったんだが……。おっと、今のは……」

「――ダニー。お前まさか、俺のパソコン覗いてないよな」


 ダニーは悪びれる様子もなく、やれやれと両手を上げた。


「いいじゃないか。ちょっとだけだよ。共通の趣味があることも知れた事だし」

「まさか……」

「そう! 日本の誇る文化。ア・ニ・メさ!!」


 こいつ、俺の想像を越えてくるな。

 まあいいか。隠すことでもないし。


 俺はニコの目を見据えた。たしかに、好みではある。むしろベストなポイントを突いている……。


 でも妹だ。ダニーはそこを分かっているのだろうか。


 すると、彼女はほんの少しだが、顔を赤らめて目を伏せた。


「恥ずかしいの? そんな感情あるんだ。AIなのに」

「――この無礼者! ニコに失礼じゃろうが!!」


 いきなりダニーが顔を真っ赤にしてどなった。


 てかなんで老人言葉?


「……ああ、すまない。ついかっとなってしまって。怒るときはこの喋り方なんだ。迫力あるだろ?」

「……はい、そうですね」

「でも、さっきのは失礼じゃないかな。ニコのAIも元々我が社が開発していたものに、未知の技術を加えた完成形だ。彼女の精神が自我を確立してから十年間、ずっとその思考は本物の人間と区別はない。感情もちゃんとあるんだ。さらに、完璧な記憶力と免疫力。将来ガンになる確率も限りなく低い。人間の理想の姿といえる。ニコは生まれてきて幸せな筈だ」


「……ホントに?」


 もう一度、彼女の顔を見る。


「――はい。もちろんです。ダニーは私の望みなら何でもしてくれるし、何より娘として愛してくれています」


 微妙に、表情が柔らかくなっている。


「――プッ」


 思わず吹き出した。


「これで10才って?」

「すごいだろ。礼儀作法は私が教えたんだ」


 俺はニコに向き直る。


「……さっきはごめん。反応が見たかったんだ。まあ、今の所は信じるよ。君が人間だって事はね」


 ニコの表情がパッと明るくなる。


 ……やれやれ、どうみても人間じゃないか。



 感情が無いなんて誰が言った?



「――そうだわ。どうでしょう? このドレス。この日のためにダニーが選んでくれたんです!」


 出し抜けに彼女は、長いスカートをつまみ上げくるっと回転してみせた。


 しなやかで、エレガントな仕草に見えただろう。

 彼女のドレスが、黒い基調に、長いスカートと半袖の先には紫のフリル付きで、首には黒のチョーカーというゴスロリ風デザインでなければ……。


「……ダニー。お前がこんなやつだとは思わなかったよ」

「おや? このドレスは不満かな。ゴスロリが嫌いだったとは驚きだね」

「いや、全然全くもって嫌いではない。……でもそこじゃない。彼女はロリと言うほど幼くないし、黒髪碧眼に大人びた喋り……。なんというか、もっと清楚系が似合うと思うんだよね」

「確かに、ニコの身長は15才女子の平均値に合わせてあるからな。……といっても、体重の方は一回り軽いけどなっ!」


 そう言って、満面の笑みでニコの肩に手を置くダニー。


 なんか物凄くムカつく。


「それセクハラじゃないかな」

「ハハッ。何をのたまう貴人君。まさか、この私に『倫理観』を求めているのかな。ニコを作った私に? それにね、確かに今のニコは着られてる感が否めない。ニコは金輪際この服を着ないかもしれない。……だからこそ、()()でこの服を着せるのはアリだと思わないかね?」

「序盤? なにいってんだ? もしかして頭沸いていらっしゃる?」



 * * *



「――ところで、君にいくつかお願いがある」


 唐突に、ダニーは真剣な表情で言った。


「ニコという名前は私の妻の希望だったんだが。これからここで生活していく上で、漢字の名前も必要だろ? 残念ながら、私もまだ漢字は勉強中でね。何か良いアイデアはないかな?」

「そうだな。彼女は、感情を持っているんですよね?」


 俺は少し考えて言った。


「仁心、というのはどうでしょう? 『仁』は思いやり、()()()。人情を持っているという意味で……」


「――エクセレェントッ!! さすがは秀才君だ。いかにも日本人らしい、趣のある発想じゃないか! どう思う? 仁心(にこ)


「素晴らしいですわ。春宮(はるみや)仁心(にこ)。とっても気に入りました。さすがはお兄さんです」


「……いや、大した事じゃないよ」


 しかし、彼女は俺の右手を取り目を輝かせた。


 ほのかに良い香りが鼻をくすぐる。


「これから妹として頑張ります。一緒にいてもいいでしょうか?」

「え……?」


 話についていけずに、ダニーの方をみる。


「もう一つのお願いは、君にここに住んでもらう事なんだ。もちろん元の家でもいいが、皆で楽しく過ごして欲しいと思ってね」

「そんなの聞いてないけど……」

「すまないね。ただ仕方なかった。君が孤児院に入らないよう、必死に様々なコネを使って引き取ったんだ。だから法的には、君は私の養子ということになっている。そうだ。もう立てるかい? リハビリがてら、私の家を案内しよう」


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