9話 悔いてなお繰り返す
ピンポーン。ピンポーン。
「なんだよ、寝てるときに、宅配か?こんな時間に迷惑だろ」
そういって壁にかけられた時計を見ると昼の13時。宅配が来ても何も問題がない時間だった。問題があるのはこんな時間に寝ている自分の生活の方だと、反省にもならない反省をする。
ピンポーン。ピンポーン。
宅配にしてはやけにしつこい。普通なら二回も呼び鈴を鳴らしたら不在届を置いて帰るだろうに。何度も、それも短い間隔で鳴らしてくる。
「誰だよまったく、」
そう悪態をつきながらも根が小心者の俺はできるだけ丁寧な応対を心がけてドアを開く。
「はい、はい。今出ます。お待たせしました」
そういって何気なしに開けたドアの前にいたのは果たして、ひどく記憶に新しい隣人の女の子だった。
「あ、あの。さっきぶりです、環くん」
「…日向」
彼女、日向碧が昨晩とは打って変わっておどおどした様子で立っている。それを見て俺は一瞬言葉が出てこなかったが、あからさまに寝起きだとわかる声で、なんとか彼女の名前だけを口にした。
「はい。」
「おう。」
……………。
お互いによくわからないが気まずい空気になって無言の時間が続く。しばらくたって、このままではどうにもならないと感じた俺はなんとも不自然な形で口火を切った。
「えーと、日向はゲームをしにきた、ってこと、なのかな?」
確か、日向は俺の家を出る前に、後でシャワーを浴びたらまたゲームをやりにくる、って言っていたはずだ。それに様子を見る限りシャワーは浴びたみたいだし、なんかいい匂いもするし。などと、寝起きでまとまらない思考からバカなことを考えてしまう。
「その、違くて。」
「違う?それじゃなんで来たの?」
ゲームをやりに来たわけではないらしい。よくわからない。それに昨日とはずいぶんと様子が違っている。出会いこそはおかしかったが、その後一緒にゲームをしてからは随分と打ち解けてたと思うのだが…。
また距離を置かれたみたいで少し悲しくて、ちょっとぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「っ…それは、その、ぁゃ…に来たんです。」
「え?なんて?あや…?」
彼女の言葉が上手く聞き取れなかった俺は、また少し強い語気で聞き返す。
「だから、謝りに来たって言ってるの!!」
「っ…!うるさいって!」
「うるさいって何!?環くんが怖い顔して問い詰めてくるからでしょ?」
「いや、日向がぼそぼそ喋ってるからだろ!?」
つい喧嘩腰になってしまう。普段の自分だったらこんなに簡単に感情が荒れることなんてないのに、どうしてか、日向が相手だと感情が安定しない。そんないつもと違う自分に驚いて、言い合いをしていたのも忘れて、ふと我に返る。それは日向も同じようだった。
「その、ごめん。俺が悪かった。日向が相手だとなぜか熱くなってしまって…」
「えっと、私もごめんなさい。私も環くんにはなぜか強く当たっちゃって…」
ついこないだもこんなやり取りをした気がする。
「とりあえず、中入るか?こんな玄関に突っ立っててもしょうがないし。俺に用事もあるみたいだから」
「う、うん。じゃあ、お邪魔します。」
そう言って日向は俺の部屋に入ってくる。2日連続で女の子を家に入れるなんて俺にとっては一大事だが、相手が日向だとなぜか緊張しない。違和感も感じない。
丁寧に靴を揃えて、やはり少し遠慮気味に部屋に入った日向は、昨日と同じ場所に座った。俺が何か飲み物を出そうと、キッチンへ向かうと少し申し訳なさそうな顔でこっちを見ていたが何も言わず静かに待っている。
「はい、ただのお茶しかなくて申し訳ないけど」
「いや、そんなことないよ、ありがとう」
お互いに一口ずつお茶を飲んで少し落ち着いた所で、日向が口を開いた。
「その、えっと、昨日はごめんなさい!それと、ありがとう!」
「え、何が?」
俺は日向が何に対して謝っているのかわからなくて聞き返す。
「いや、だから、初対面だったのに、急に夜中に押しかけて、一晩中ゲームに付き合わせて…。あとで考えるとすごく迷惑だったんじゃないかって…。だからごめんなさい。それと、親切にしてくれてありがとう。」
「そんなことを気にしてたのか」
まったくの予想外だった。
「そんなことじゃないよ。普通に考えて私のしたことってすごく迷惑なことだと思うし、ちゃんと謝りたくて」
「いや、でも俺は別に迷惑だなんて思ってないし、むしろめちゃくちゃ楽しかったって言わなかったっけ?」
「それは社交辞令かもしれないし、私に気を使わせないように言ってくれたのかなって…」
「そんなことない!本当に楽しかったんだって。それはもう信じられないくらいに!」
俺はつい熱くなって身体を乗り出しながら言い返す。
「本当にほんと?私だけが楽しかったんじゃなかったんだ…よかった…。」
日向が胸を撫でおろして安心したような仕草をする。それを見て俺は自分が柄にもないような熱弁をしたことに少し恥ずかしくなった。さっきまで1人、部屋の中で感情の希薄な自分に嫌気が差してうなだれていたのが嘘のように感情的になってしまった。
「じゃあまた、一緒にゲームするか?」
そうやって俺の口から出た言葉はまた、これまでの自分からは想像もできなかったようなものだった。
「うん!」
満面の笑顔でそう答えた日向を見て、俺はほんの少し自分の中で何かが変わっていくような、そんな気がした。




