6話 感情は長く続かないものだ
彼女、日向碧と二人でゲームをやった。結論から言うと、メチャクチャ楽しかった。それはもう本当に、初めてゲームをやったときくらいに楽しかった。
「はぁ…疲れた。でもなんとかストーリーの半分くらいまでは進めたか」
「そうだね、もう頭がフラフラする…」
二人とも時間を忘れて夢中になってゲームにのめり込み、プレイ中もお互いにあーだこーだと意見を言い合いながらやっていたためもう喉がカラカラだった。
何か飲み物を取りに行こうと立ち上がって初めて、もう外が明るくなっていることに気付いた。
「朝だ…」
「本当だ…。私たち何時間やってたんだろう?」
「11時だ」
どちらかと言えばもうお昼だった。
「てことは、12時間もやってたってことになるのか…。こんなに時間を忘れて夢中になったのって私、10年振りくらいかもしれない」
「俺もだ。普段からゲームはやるけど、最近は2時間くらいで疲れてやめてばっかりだ」
少しの間お互いに見つめ合って心地の良い無言の時間が続く。
「……ふふっ!」
「……ははっ!」
「「あはははははっ!」」
二人して大笑いする。なぜか無性に楽しかった。こんなに気分よく笑ったのはいつぶりだろうか?
「なんかバカみたいだね、私たち」
「確かにな」
「意味の分からない出会い方をしてさ、初対面の二人が夜通しゲームして、こんなに笑って」
「ほんとに、バカみたいだな。でも、悪くなかった。むしろメチャクチャ楽しかった。なんか、ありがとうな」
俺が他人に自分の感情をこんなに素直に伝えたのは生まれて初めてのことだ。どうしてか日向には正直な自分で向き合える。
「私こそ、本当にありがとう。すっごくすっごく楽しかった!それと、昨夜は色々とご迷惑をおかけしまして、改めてごめんね?」
「気にすんな。そんなこと今の瞬間まで忘れてたくらいだ」
「私も、実はゲームに夢中で途中からほとんど忘れてたよ…」
最初に玄関先で日向を見たときは不審に思ったし、逆ギレしてきたときはなんだこいつと苛つきもした。でも、そんなことが全部どうでも良くなるくらいに昨晩の時間が楽しかったんだ。
「俺たちさ、何か大切なこと忘れてない?」
「ん?大切なこと?あっ、さっきのゲームってセーブした?」
「やばい…してないかも…。って、そうじゃなくてさ。何かもっと大切な、やらないといけないことだよ!」
「ん〜?えーなんだろう?もう頭がフラフラして上手く考えらんないよ」
そう言って日向は首をこてん、と傾げる。かわいい…。っ、そうじゃない。ていうかこいつ最初とだいぶキャラ変わったな。
「まあ、そんなことよりさ私、一回家に帰ってシャワー浴びて来るからさ、そしたらもう一回一緒にゲームしよ?」
日向がそう言ってニコッと笑いかけてくるから、俺もつい頷きそうになってしまうが、寸でのところで思い留まる。ん?家?
「そうだ!鍵だよ、鍵!日向が鍵がないって言うから俺の家に来たんじゃん!なんでこんなことを今まで忘れてたんだろ…」
「あー、そういえばそうだったね。管理会社に電話しなきゃだ」
日向がケータイも持っていないというから俺のを貸すと約束していたのだった。俺は自分のケータイを日向に差し出して催促する。
「ほら、早く電話しとけ」
「うん。じゃあ少しお借りしまーす。」
プルルルッと一度呼び出し音がなってすぐに電話は繋がったようだ。
さっきまでの態度とは打って変わって丁寧な言葉遣いで会話をする日向を、少し距離をとって見つめる俺はどんな顔をしているのだろうか。




