5話 「初めて」は大概、意外な形で訪れる
彼女を連れ添って俺は自分の家に入る。そんなこと経験したことがないから分からないけど、本来なら女の子と自分の家に二人きりなんて状況は緊張して変なことを口走ってしまうくらいには俺にとっては異常事態のはずだ。
しかし、なぜか緊張しない。むしろどこか安心感を覚えるというか、彼女が俺の家にいることが当然のことのように感じるというか、とにかく彼女は普通の女の子とは違うんだな、と感じる。
「汚い部屋で申し訳ないけど、どうぞ上がって」
「いや、そんなことはないです。すいません、お邪魔します。」
俺の部屋は家賃6万円、築15年、8畳のワンルームアパートだ。普通の大学生の一人暮らしといった感じだ。まあ、彼女の部屋も隣だからほとんど同じ間取りだろう。
短い廊下を抜けて扉を開くと居住スペースに入る。俺の部屋には物が少ない。ベッドとテレビ机に本棚、あとは地面に散らばった服。それくらいしかない殺風景な部屋だ。
「とりあえず適当に座って。何か温かい飲み物でも用意するから」
「はい。ありがとうございます。」
そう言って彼女は少し座る場所に迷う素振りを見せたが、テーブルの横の方にちょこんと座る。チラチラとこっちを見て落ち着かない様子だ。
俺も、飲み物より先に暖房をつけた方が良かったか、いや先にシャワーか?でも、男の家でシャワーなんて嫌がるだろうか?などと考えてはいつもよりソワソワしていた。
2人分のココアを用意して、俺はテーブルをはさんで彼女の対面に座った。
「どうぞ」
「いただきます。はぁ…あったかい。」
一息ついたところで俺は切り出した。
「鍵は明日になったら管理会社にでも連絡して開けてもらうとして、って今、ケータイは持ってるのか?」
「いや、部屋の中です…」
「じゃあ、俺のケータイを貸すからそれで連絡取ればいいか」
「ご迷惑をおかけします」
ここで、俺は少し逡巡してから、変な意味に誤解されないようにできるだけ丁寧に言った。
「うーん、で、どうする? もう寝るなら来客用の布団を引くけど」
「あなたに合わせます。」
「そうだな、実は俺はさっきまで寝てたから眠たくないんだよ。で、新作のゲームを買ったからそれでもやろうかな、と思ってる。」
「ゲームっ!」
やけに食いついてきた。今まで死んだ顔をしていた彼女の目が急に輝く。
「あんたもゲーム好きなのか?」
「はい!上手くはないですけど、よくやります!」
元気だ。
「なら一緒にやるか?2人プレイもできるソフトだからさ」
「いいんですか!? やりたいです!」
そういうことなら丁度良かった。このまま二人きりで会話も続く気もしなかったし、ゲームを買ってきておいて正解だったな。それに、俺も誰かと一緒にゲームをやるなんてすごく久しぶりで少しワクワクする。
「それで、あの… なんていうかさっきからお互いに、あんたとか、あなたとか話しにくいので」
「確かに、まだ自己紹介もしてなかったな。」
「はい。」
言われて初めて気付いた。出会った状況が特殊だったからか、お互いに自己紹介をするのを忘れていた。
「俺は環蒼太、20歳、大学生」
「私は日向碧、同じく20歳、大学生です」
同い年だったみたいだ。なんというか、生気がなかったから勝手に年上かと思っていた。
「そうか、同い年みたいだし、お互いに敬語もやめない?」
と提案してみる。
「うん、そうだね。よろしく! とりあえず今晩はお世話になります」
無事に自己紹介も済んだところで俺はゲーム機を取り出して電源をつける。今日買ったソフトは据え置き型のゲーム機用のものなので、TVに映して二人でプレイできるはずだ。




