4話 喧嘩して本音で話して分かり合う。青臭いけど、それがいいよね
何とも煮えきらない、それでいて構ってほしそうな反応をする女性に対してイライラしてきた俺は少し乱暴に言い放つ。
「何でもいいですけど、とにかく早く自分の部屋に戻ってください。ほら、」
と女性宅のドアノブを回すも一向に開く気配はない。
「鍵はどこですか?」
そう問いかけて初めて、俺は彼女がほとんど何も持っていないことに気付いた。カバンも無いし、ポケットにスマホや財布の入っている様子もない。不審に思いつつも彼女の答えを待つ。
「…ってない」
聞こえない。
「え?なんて?」
つい、苛立った声になる。
「持ってないって言ってるの!!」
逆ギレされた。なんだこいつ、やばい奴か?お近づきにならない方がいいタイプの人種か?いつもならそう考えてすぐにでもその場を立ち去るのだが、今日の俺は違った。
なぜか無性にムカついた。この女にだけは負けてはいけない気がする。そんなとても理性的とは言えない判断に基づいて俺は言い返す。
「うるせぇ!急に大声出すんじゃねー!なんで自分の家の鍵を持ってないんだよ!?」
「ぶん投げたからですー。川に! 思い切り! そりゃ鍵さんも、お無くなりになりますわー! こりゃ一本取られたわ! ハハハハ……」
堰を切ったかのように話しだしたと思ったら、急に沈んでいった。本当にやばい奴のようだ。女の勢いに飲まれて、逆に俺は冷静になった。
なんていうか、こんなに感情が動いたのはとても久しぶりで、こんな意味のわからない状況にもかかわらず、「生きてる」って感じがした。俺自身も意味のわからないこと言ってるな。
「すいません。本当に。急に意味のわからないことを言って…。親切にしてもらった人に逆ギレして…。本当に申し訳ないです。」
しばらくして、落ち着いてから女性は相変わらず生気のない顔で謝ってきた。
「いえ、俺も悪かったです。親切を押し売りするみたいになっちゃって…。ごめんなさい。」
そうしてお互いがお互いに謝り続けるという奇妙な状況が続いた。
一段落してから話を聞くところによると、彼女は俺と同じ一人暮らしの大学生で、日々の生活とか、自分自身とかいろいろなものに嫌になって、ムシャクシャして近くの川に向かってコンビニで買ったおにぎりを投げようとしたところ間違って家の鍵も一緒にぶん投げてしまったそうだ。
それで家に入れなくなって玄関にうずくまってたというわけだ。普通に考えたら意味の分からないやばい女だが、俺には分かってしまった。
似たようなことをやった経験もあったし、何よりもその死んだような顔が自分そっくりで放ってはおけなかった。
「なるほど、とりあえず俺の家に来ますか? 汚い部屋ですけど、このままだと凍えてしまいますし。」
見知らぬ男の部屋に入るのは抵抗があるものだろうが、なぜか彼女は特に迷う素振りもなく頷いた。