20話 愚かさだけは信じられる
家に着くと、すでに深夜1時を回っていた。随分と長く外にいたらしい。
日向と俺は、こたつに入って冷えた身体を温めていた。
「さて、早速だけど私たちの未来の話をしようか」
少しかっこつけて日向が言う。
「って言っても、何を話すんだ?今の所決まってるのは、これから二人で一緒に頑張っていきましょう、っていうざっくりとしたことだけだよな」
そう、俺たちは落ちるところまで一緒に落ちて、そこから少しでもマシな何かになれるように一緒に頑張ろう!というざっくりとした約束をしただけなのだ。
「何事も目標が大事だと思うんだよね。ゴールが見えてないと何を頑張っていいかわかんなくなるでしょ?」
「確かに。でも、俺たちみたいなダメ人間が目標の達成までコツコツ努力できるわけないのも事実だ。」
「そう、そのとおり。私も、そして環くんも目標を立ててうまく行ったことなんて人生で一度もないよね。」
悲しきかな、俺たちは互いのクズさに絶対の信頼をおいている。
自分にできないことはきっとこいつもできない。そんな確信があった。
「そこで大事なのは目標を極限まで低くすることだと思うのですよ。」
日向が急に敬語になった。
「ほう、続けなさい」
「毎日2時間勉強するとか、毎回授業に出席して課題を出すとか、いきなり目標が高すぎて私たちには無理。」
「そうだな。絶対に無理だ」
「でも例えば、午前中に起きる、とか。寝る前にちゃんと歯磨きする、とか。朝起きたら寝癖を直してカーテン開ける、とか。これくらいの低い目標ならなんとか頑張れると思うんだ」
「確かにそれくらいならなんとかなりそうだな」
日向が挙げた例はどれも人としてごく当たり前のことで、ほんの少し意識すれば誰にでもできることだ。
しかし、今の俺たちはそんな簡単なことすらできてない。起きたら夕方だし、歯磨きせずに寝てしまうこともあるし、一日中カーテンは閉めっぱなしだ。
「こうやって、普通の人からしたら目標にすらならないくらいの本当に簡単なことからはじめるくらいで私たちには丁度いいと思う」
「それには賛成だ。多分低い目標ですら達成できないときもあるだろうし、目標は低ければ低いほどいい」
「そうやって簡単な目標を達成するのを繰り返していって、徐々に自信を取り戻していくしかないよ、私たちには」
一度失った自身はそう簡単には取り戻すことはできない。
一気に取り返そうとして、高い目標を立てたとしても、失敗してさらに深い傷を負うことになる。
それはこれまで何度も繰り返し経験してきたことで、俺たちが一番良くわかっていることだ。同じ轍を踏んではいけない。
「そうだな。たとえどれだけ時間がかかったとしても、どれだけ遅い速度でも、一歩ずつ進む以外に方法はない」
それがこれまでに数多くの失敗をしてきた俺たちの共通認識だった。
「いやー、時間かかるだろうね。もしかしたらもう一回留年しちゃうかもしれないよ?」
日向はそう言って、いたずらっぽく笑う。
「そんときはそんときだ。一緒に2回留年しよう。先のことなんか考えても、どうせ俺たちの成長速度は変わらないんだから、今日に集中しようぜ」
「それもそうだね。今日の自分が、以前の自分よりもほんの少しでもマシになってたら全部オッケーだね。先のこととか、社会の評価とか考えてたらまた進めなくなりそうだもんね」
今日の自分が以前の自分よりもほんの少しでもマシになれるように頑張る、それだけを意識して生きるということで二人の意見が一致した。
今この瞬間に新しい日々が始まった。




