2話 あの頃のわたしは今の私を笑うのだろうか
特別になりたかった。変わりたかった。前に進みたかった。
でも、私は何者にもなれなかった。
「ん、」
気持ちの悪い目覚めだ。慢性的に続く頭痛と、曇りに曇った心。まともに声すら出せなくなる。
「お腹、すいたな…」
前にいつ食事を摂ったのかも正確には覚えていない。ただお腹がすいたという根源的な欲求に従って私はのそのそとベッドから立ち上がった。
冷蔵庫には何も入っていない。お腹がすいた… 買い物にいかないと…
でも、まだ動きたくない。もう少しだけゆっくりしてから考えよう。
そう結論づけるとすぐに、私はベッドに帰還し再び微睡みの中に逃げ込んだ。
(あぁ…また逃げた。いつまでこんなことを続けるんだろう…)
自然と意識は遠のいていく。
「何時だろう」
気付けば部屋の中は真っ暗だった。今が、何月何日の何時なのかもわからない。わからないし、興味もないし、わからなくても困らない。
半ば世捨て人のようだな、なんて考えつつ今度こそ買い物に行くためにジャージから多少まともな服に着替えて髪を整える。
世捨て人だ、なんて言って、社会からほとんど断絶した生活を送っているにもかかわらず、どこかで常識や社会通念に縛られている。誰に見せる訳でもないのに、コンビニに行く程度で服を着替えて髪を整える。
今更、誰に笑われても、蔑まれても何も変わらないし、そもそも私のことなんて誰も気に留めやしない。そんなことはわかっている。ジャージのまま、ボサボサの髪で外出すればいいものを、結局、他人の目が気になって仕方がないのだ。
社会に適応できず、こんな生活を送っているのに気付けば他人の目を気にして、社会から排除されるのを恐れている。こんなどっちつかずで、中途半端、世捨て人にさえなれやしない、何者でもない自分がたまらなく嫌いだ。
いつも通り、自己嫌悪に陥りながらも、今はただこの食欲という醜い欲求を満たすために重いドアを押すことしかできない。