17話 自分、自分、自分。大人になんて一生なれない。
さて、どうしたものか。
今後のことを考えるためにも、一度今の状況をまとめるてみようと思う。
日向と俺は夜通しゲームをしてから、そのゲームソフトを川にぶん投げ、その後酒を浴びるように飲み、泥酔し寝落ちしてしまった。
そして、目覚めてからのんびりと食事をしていたわけだが、その際ふと、日向が硬直し、留年してしまっていることが判明。
その後まもなくして、俺と日向が同じ学部の同じ学科であることがわかり、さらに俺も留年してしまっていることが明らかになった。
以上がことの顛末である。
それにしても酷い…。
こうして状況を改めて整理すると、留年もさることながら、その前の行動もまあ酷いな。そりゃ留年もするわ、と納得である。
とまあ、状況も整理できたところで、さて、どうしたものか?本当にどうしたらいいんでしょうか…?
俺も留年したとわかってからというもの、日向は隣でそれはもうニコニコしてるし…
正直、俺も留年していたことに対してそれほど驚きはなかった。大学の授業にもほとんど出ていなかったし、課題を出さないのはもちろん、試験すらも出席していなかった。
単位を落としているのは当然のことととして理解していた。そのため、留年するのも時間の問題だろうなぁ、と心の片隅では思っていた。
しかし、留年という普通の大学生からしたらとんでもない一大事においても、俺はやはりどこか他人事で、真剣に向き合うことができずにいる。
自分の人生に対して、俯瞰から見てしまうというか、当事者意識が乏しいまま今まで生きてきてしまってきている。
自分のことなのにどうでも良く感じるときがあって、そういったときは決まって何か大切なものを自ら投げ捨てるかのような選択をしてしまうのだ。
俺は悪あがきというものをしない。しない、というかできないのだ。今、努力しなければ、行動しなければ大切なものを失うというそのときになって、普通の人は最後になんとかあがいてギリギリでもそのハードルを超えていく。
そうやって皆なんとか社会を生き抜き大人になっていくのだろう。
しかし、俺は今頑張れば、少し動けばなんとかなるとわかっていても、身体を動かすことができない。そこですべて諦めてしまうのだ。
最後にみっともなくあがいてギリギリで生きていくくらいなら、潔くすべてを捨ててやろうと、そんな思考回路が動いてしまう。
言わば不完全な完璧主義。
完璧なんて程遠い人間のくせに、完璧以外受け入れられない。完璧になれないのなら、ゼロでいい、すべて捨ててしまおう。そんな不完全な完璧主義に俺は生まれてからずっと囚われ続けている。
わかっている。これは完璧主義でもなんでもない。不完全な完璧主義だなんてカッコつけて言っているだけで、ただ行動を起こせないクズの言い訳に過ぎないのだ。
でも俺はそうやって生きてきた。人生で訪れる様々なステージで、普通の人間が努力をして手に入れるありとあらゆる結果。それをすべて放棄したのが俺だ。
そして誰もがそうした努力によって得られる成功体験を積み重ねて『自信』を得ていく。しかし俺にはその『自信』が備わっていない。
自信がないから行動もできない。行動できないから成功体験も得られず自信も持てない。最低な悪循環からいつまでたっても抜け出せない。
今回だってそうだ。いつか留年すると分かっていたのに何も行動を起こさなかった。俺の中ではそれはあくまで『いつか』の出来事であり、『そのうち』やってくる大失敗であり、決して『今』ではないはずだった。
また一つ失敗を重ねてしまった。また変われなかった。また進めなかった。またダメになってしまった。
全部、全部分かっているのだ。俺は。
こうやって自分がいかにゴミクズ人間かということを分析して、自身の醜聞を罵って見せることで、自分は自分自身がクズだということを理解しているとアピールしているのだ。
自分で自分のダメさを理解している分だけ、まだマシな人間だとそう思いたいのだ。自らを卑小な存在にすることで心のバランスを保っている。私は勘違いなどしていませんよ、と。自分で自分がクズだとちゃんと分かっていますよ、と。
誰に聞かれたわけでもないのに、誰が見ているわけでもないのに。ただ自分の心の奥底に眠る何かにそうアピールしているのだ。
本当に嫌になる。矮小で、卑劣で、幼稚で、愚鈍で、無知で、尊大で、卑屈で、狡猾で。およそこの世に存在する、負の形容がすべてあてはまるのではないかと思ってしまうくらい、俺の在り方は醜い。
俺は俺が大嫌いだ。変われない自分が、諦めきれない自分が、醜い自分が、すべての自分が大嫌いだ。
頭の中がグチャグチャで自分で何を考えているのかも分からなくなってきた。論理的に見えてその実、酷く無秩序な思考を並べ散らかしただけの自己否定理論。
もう疲れてしまった。何も考えたくない。眠たい。なにもかも全部捨て去って、ただ眠っていたい。
いつも通り。たとえどれほど大きな失敗をしても、しばらく自己否定の理屈をこねくりまわしたら満足して疲れて眠る。そうやって何一つ問題は解決することなく、物事が前に進むこともなく、自分自身も一切変わらない。
寝て起きて。寝て起きて。たまに大失敗して。でもまた寝て起きて。ずっとそうやって繰り返して生きてきたし、これからもきっとそうやって生きていくのだろう。
いつの日か本当の意味で終わりの日が来るまで俺はずっとこのままなんだ。俺は変われない。変わらない。だから、今日も眠りに就こう。ベッドに戻ろう。
日向には悪いけど、今度こそ帰ってもらおう。俺はもう疲れたんだ。寝る時間なんだ。
この数日がちょっとおかしかっただけなんだ。色々な偶然が重なって起きた奇跡みたいなもんなんだ。
日向に変に期待してはいけない。こいつと一緒なら変われるかもだなんて少しでも思ってしまったけど、結局俺は俺のままだ。他人に期待しちゃいけないんだ。
どれだけ似ているところが多かろうが、俺とは違う人間なんだ。期待するな。何も望むな。俺はもう全部諦めたんだろう?
だったらもうあとやるべきことは決まっている。日向を追い出して、俺の日常に戻る。どうしようもない毎日に戻るだけだ。
そう決めた俺は卑屈で空虚な笑顔を作ると日向に話しかけるために口を開いた。
「日向、悪いんだけど今日はもう…」
最後まで言い切るのを待たずに、日向が俺の言葉を遮って言った。
「ねえ、今から星、見に行かない?」




