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ちっぽけな世界  作者: senko
13/20

13話 君に捧ぐ鎮魂歌

 天国のフィオナを弔って、ゲームソフトを川にぶん投げた俺たちは満足感と空虚さに同時に襲われていた。


「これで、これでよかったんだよな?」


「うん、きっと私たちのフィオナも喜んでる…」


 俺たちがまた2人だけの世界に入り込んで痛いやり取りをしていると、そんなことはお構いなしに、俄然と寒さが厳しくなってきた。


「寒っ」


 俺が手に息を吹き当てて暖を取っていると、日向が言った。


「雪だ…」


 さらさらとした薄い雪が降り始めた。時刻は深夜2時。もとから静かな川沿いの道が、より一層静けさを増す。


 気温がぐっと下がり、空気が澄み渡る。それと同時に俺の頭も冷えて、思考が澄み渡っていく。


 あれ?俺たち何してるんだ?


 冷静になった俺の頭の中に、もはやフィオナはいなかった。それは日向も同じようだった。突然、あわあわ言い出している。


「なあ、日向…」


「はい、環くん…」


「フィオナってなんだっけ…?」


「フィオナ、フィオナはゲームのキャラクターです。」


 空虚な言葉のやり取りが始まる。


「俺たちが川にぶん投げたあれ、8000円した…」


「はい。」


 最近のゲームソフトは高いのだ。


「あれ、まだ遊んでないステージとか、ストーリーとかいっぱいあったよな…」


「はい。」


 やりこみ要素満載でずっと遊べるという触れ込みのゲームだったのだ。


「生活費、削って買ったんだ俺…」


「…はい。」


 一人暮らしの俺にとって娯楽費と生活費は同じなのだ。


 雪の降りしきる真冬の河原にうずくまる2つの悲しい影がそこにはあった。


 しばらくして、日向が口を開く。


「あの、ごめんなさい。人の大切なゲームを、そういう流れだったとは言え捨ててしまって…」


「いや、俺も一緒に投げたし…。ノリノリだったから、日向が悪いわけじゃないよ」


 そう言って2人でまたズーンと落ち込む。とはいえ、ずっとこんなことをしていても仕方ない。やってしまったことはどうにもならないのだ。それにこんなところにいたら風邪をひいてしまいそうだ。そして俺は意を決したようにこう言い放った。


「…よし!飲むか!」


「え?」


 日向が驚いた表情で聞き返してくる。


「大学生はこういうときお酒で全部忘れるものだろ?いや、やったことないけど。」


「な、なるほど!確かに、幸いにも私たち2人とも20歳だし、」


 喰い気味に反応してきた日向に少し引いてしまったが、それでも俺は続けて言った。


「そ、そうと決まれば酒だ!酒を買いに行こう!」


「おおー!」


 これが深夜テンションというのだろう、ノリノリの日向と俺は帰り道にあるコンビニで大量に酒を買い込んだ。とはいっても、俺も日向も成人した時に少し飲んでみただけでそれ以来全くと言っていいほどお酒を飲んでいないので、種類とか度数の強さとかは適当に選んだ。


 そして家に帰ってきた俺たちは、またもや机に買ってきたお酒を全部並べると、向き合って座って、プシュッと一本目のお酒を開けた。


「それでは、フィオナの冥福を祈ってかんぱ~い!」


「かんぱ~い!」


 俺が乾杯の音頭を取ると、日向も楽しそうに缶をぶつけてくる。俺も実は家飲みなんて初めてでちょっと浮かれていた。まさかこんな形で初めての家飲みを迎えるとは思ってなかったけど…。


「最初はとりあえずビールっていうからそうしてみたけど、これ苦いな」


「うん、確かに苦いけど、慣れたら意外とクセになるかも、」


 日向はビールがお気に召したようだ。なんとか1缶飲み干した俺たちは次にフルーツ系のチューハイを開ける。


「あ、これは甘くておいしいよ!ジュースみたい」


「確かに、これだったら俺でもゴクゴクいけそうだ」


 調子に乗ってきた俺たちは次々に新しいお酒を開けて飲み進めていく。


「日本酒って意外とフルーティーで飲みやすいかも」


「このカルーアミルクってのもおいしいぞ。コーヒー牛乳みたいだ」


「こっちのは、強くて私は無理そうだな…」


 もう、すっかり時間がたつのも忘れて俺たちは飲んだくれた。2時間も経つ頃には2人ともすっかり出来上がってしまった。


「あははは!たまきくん、顔真っ赤だよ~!」


「うるしゃい、ひなただって真っ赤じゃん~!」


「そんなことないもーん!私はいついかなる時も美白な日向お姉ちゃんです~!」


「ううー!ぼくだって、ぼくだって好きで赤くなってるんじゃないのに…。」


 正直このあたりから自分が何をしていたのか記憶にない。嘘である。俺は完全に記憶が残ってしまうタイプだった。でも決して思い出したくはない。後になって日向にも聞いたら、ひどく動揺しながら、記憶は何も残っていない、と言っていた。完全に嘘をついている目だった。


「ごめん、ごめん。お姉ちゃんが悪かったよ、だから泣かないでたまきくん?そうだ面白いゲーム思いついた!」


「え、げえむ?」


 これもまたずっと後になってわかったことだが、俺は酔うと幼児化するらしい。死にたい…。ちなみに日向は酔うとお姉ちゃん化するみたいだ。お姉ちゃん化ってなんだ…?


「そう、ゲーム!お互いの良いところを順番に言い合うの!」


「わかった!」


「じゃあ、私からいくよ。えーとね、たまきくんの良いところはねー、お姉ちゃんとおんなじで変なところ!」


「え、えっとね、ひなたちゃんの良いところは、ぼくとおんなじで変なところ!」


「やったー!一緒だね!私たちやっぱり似た者同士だー!」


「やった、やったー!ぼく、お姉ちゃんと一緒だー!」


 この地獄のゲームはこの後3時間にわたって続いた。


 そして、お酒も尽きて、疲れ果てた二人が眠りについたのはもう朝日が昇り始めた頃だった。


 後に、この夜の出来事は俺たち2人の間で決して触れてはいけないタブーとなり、『フィオナに捧げる鎮魂歌(レクイエム)』、通称『レクイエム』と呼ばれるようになった…


 いや、もう本当に死にたい…





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