12話 なんであんなことしちゃったんだろう…そんな人生。
コンビニで食料や飲み物、それに大量のお菓子を買い込んだ俺と日向は、家へと戻る帰路についていた。
「次の町に向かう前にできるだけレベル上げをして安全マージンを取ってから行った方がいいと思うんだよね、私は。」
「いや、でもそこは勝てるかどうかギリギリのところで戦うのが楽しいんじゃないか?」
「えー?わかってないな~環くんは。一撃で倒して無双するのが楽しいんじゃん?」
さっきまで様子のおかしかった日向もすっかり元通りになって、家に帰ってからどのようにゲームを進めるかについてくだらないことを言い合っていた。
そんなこんなで家についた俺たちは、机に買ってきた食料をどさっと並べて、ゲームを始める準備を万全に整える。
「よし、こんなもんか。始めますか。」
「うん!今晩中にはクリアしたいね」
ゲームの電源を付け、スタート画面からコンティニューを選択する。美しい3Dグラフィックに彩られたファンタジーの世界に入り込んだ俺たちはその後あーだ、こーだと言い合いながらゲームに没頭した。
ーー美しい風景と共にクリア後のエンドロールが流れる。
俺と日向は茫然と画面を見つめている。時刻は午前1時30分。開始したのが昨日の午後4時頃だったから、俺たちはぶっ続けで9時間もゲームをしていたことになる。
普通に考えて眠気も限界に達し、疲れ果てている状態だったが、今の俺達には時間や疲れなんてどうでもよかった。そんなことよりも大切なことがあった。
「なんで、なんでなんだよー!!」
「どうして、こんなことになっちゃったの…!こんなの私は認めない…!」
俺たちは半狂乱で叫んでいた。大の大人2人が叫んで暴れる姿は客観的に見て地獄絵図だが、当の俺たちはそんな事お構いなしに喚き続ける。
「フィオナ…、俺のフィオナが…救われないなんて!そんな世界に何の意味があるっていうんだ!」
「こんな結末のために私たちは世界を救ったんじゃない・・・。ロゼッタ…絶対に許さない!あと主人公も許さない…!」
俺たちは物語の結末に阿鼻叫喚していたのだった。物語の大筋はこうだ。主人公とフィオナは生まれた時からずっと一緒の幼馴染で、将来は結婚の約束もしているほどの仲の良さだった。しかし、二人が16歳になったとき、町に化物が襲来する。
化物に襲われそうになった主人公をかばって飛び出したフィオナは化物に捕獲されて、魂と肉体を分離させられて、その肉体を持ち去られてしまう。そして主人公はフィオナの肉体を取り戻すために、フィオナの魂を引き連れて冒険の旅に出かける、というストーリーだ。
途中までは楽しく物語を進めていた俺たちだったが、物語の終わりに近づくにつれて不穏な雰囲気を感じていた。最後に訪れた国で出会った、ロゼッタという王女と主人公がどんどんいい雰囲気になっていくのだ。魂だけの存在であるフィオナにはそんな2人を見守ることしかできない。
そんな3人の様子を見て俺たちは胸を痛めながらも物語を進める。きっと最後にはフィオナが幸せになって終わるはずだと信じて。
しかし、結末は違った。敵のボスと対峙する主人公、フィオナ、ロゼッタの3人。なんとか3人で力を合わせてボスに致命傷を与え、その隙をついて肉体を取り戻したフィオナ。そして、ボスに最後のとどめを刺そうとする主人公。
そんな中、最後のあがきをみせたボスは主人公を巻き込んでの自爆を試みる。それに気づかずボスに突っ込んでいく主人公。そして、ついに自爆する瞬間になって、肉体を取り戻したフィオナが主人公を弾き飛ばし身代わりとなった。
『どうか、幸せに…』と言い残してフィオナは爆発に巻き込まれて消えていった。そこで物語は終わり、平和な世界でロゼッタと幸せに暮らす主人公の姿が描かれて、エンドロールに突入するというわけだ。
「こんなことが、こんなことがあってたまるか。フィオナのいない世界なんて…俺が滅ぼしてやる!」
「私も協力する…!こんな世界に存在する価値はない!」
なんとも物騒な発言をしている俺たちだが、その目は本気だった。2人とも完全に正気を失っていた。
「…日向、今すぐ上着を着ろ」
「了解。」
俺たちはそれだけ言葉を交わすと、無言で上着を着て立ち上がって家を出る。もちろん、俺の右手にはクリアしたばかりのゲームソフトが握られている。
「行くよ、環くん」
「おう」
どこへ行くとは言わずともお互いに完全に意思の疎通は取れていた。目指すべき場所は決まっているのだ。そう、彼の地へ…。
ビュー、ビューと凍てつくような風が吹き抜ける。家から10分ほど歩いた俺たちは目的地にたどり着いた。ここは開けていて、周囲に遮る建物がないからか風が強い。
「日向…」
「環くん、大丈夫。全部わかってる」
そういって神妙な面持ちで頷き合う俺たち。そして俺は右手で、日向は左手で一緒にソフトを握って天に掲げ、星となったフィオナに思いを馳せる。
「これで全部終わらせるから…」
「フィオナ…どうか安らかに」
それ以上言葉はいらなかった。1歩、2歩と助走をつけるために後ずさる。俺たちが走り出したのは同時だった。
俺たちは大きく振りかぶって、
「「これが、フィオナの痛みだぁぁぁあーー!!!」」
そう言って天国のフィオナにもよく見えるように、天高くソフトを投げ上げた。月明かりに照らされて、パッケージが一瞬光る。もしかするとそれはフィオナの涙の光だったのかもしれない。
時間にしてほんの2、3秒の間空中を舞ったソフトはポチャンと、小さな音をたてて水面に落下し、どこかに流されていった。
そう、ここは彼の地。日向が家の鍵をぶん投げた、あの川、その場所だった。




